―総合事業の開始にあたり、どのような問題意識がありましたか。
稲葉:本市では、要支援者が再び元気な生活を取り戻す好循環の自立支援体制について検討を重ね、世界保健機構が提唱するICF(国際生活機能分類)の心身機能・活動・参加の3側面から自立を導く方策を練りました。3つの側面をバランスよく支援する事業により、自立した暮らしを再開できる高齢者が増えると考えました。
中原:要支援者の多くは、整形疾患や脳血管障害などの軽度の後遺症、骨折後の生活不活発などから買い物などの生活行為に支障をきたした高齢者です。「心身機能」の支援には、筋力、柔軟性、平衡感覚といった身体機能、自信や自己肯定感を高めるプログラムが必要でした。そんなとき、出会ったのが「エクサルク」というエクササイズでした。これは理学療法士が開発したもので、介護施設などで実践され、ロコモーティブシンドローム(※)や循環器疾患の予防・改善効果があるとの報告がありました。
※ロコモーティブシンドローム:運動器症候群、通称ロコモ。骨や関節、筋肉、神経など運動器の機能低下が原因で、移動行為に支障をきたした状態
―どんなプログラムですか。
稲葉:進行方向に9㎝屈曲した独自のウォーキング用ポール「R9ステッキ」を使った運動プログラムです。集団で取り組み、柔軟性・筋力・バランス能力を向上させます。運動の強度に自由度があり、認定を受けていない方から要介護者にまで広く適用できる点も魅力でした。このポールを用いると、体幹の前後動揺が抑制され、上体が地面と垂直という良好な姿勢で歩けるようになります。
―プログラムの会場は商業施設と聞いています。なぜでしょう。
中原:心身が元気になった高齢者は、「買い物に行けた」などの具体的な生活行為の向上によって一層元気を実感されます。個々の「活動」や「参加」の目標を環境面の支援も並行して行動変容に導き、再び実現した喜びを共感することが大切と考えていました。
稲葉:そこで、自ら会場に通い、自立と社会参加を実体験していく形の事業を設計。市内全域から通いやすい京阪本線枚方市駅前の商業施設「イオン枚方店」を会場に決め、「リハ職訪問通所指導事業」として平成29年5月から開始しました。
どんどん元気に、だんだんオシャレになっていく利用者
―導入効果はいかがですか。
中原:9割以上の利用者が、心身機能や生活の改善を実感しています。毎週1回、全12回のプログラムで定員20人。企画段階から協働する枚方市通所・訪問リハビリテーション連絡協議会の専門職の介入でどんどん活動的に、だんだんオシャレになっていく変化に事業設計の効果を感じます。
稲葉:また、通りがかりの高齢者の参加希望や修了者の継続希望が相次ぎ、秋から同会場で別事業を新設するほどの好評です。「ゴルフコースに行けた」「日本舞踊の披露会に出られた」など、修了式での目標達成の喜びの声はほかの利用者の励みにもなっています。こうした自立のスパイラルは、12回の設定もほどよく効果的に個々の目標志向性を引き出しています。本事業の方法をほかのサービス事業に応用し、自立支援体制を図っていきたいですね。