※下記は自治体通信 Vol.54(2023年12月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
近年、大規模風水害により、住宅地に近接する地域での土砂崩れが全国各地で発生している。この事態を受け、国も危険な盛土などを全国一律の基準で包括的に規制する「宅地造成及び特定盛土等規制法」を令和5年5月から施行している。そうした動きを受け、「自治体に求められる安全対策では、特に地盤の排水措置が重要」と指摘するのは、土木排水システムを提供する古河産業の後藤氏だ。指摘の詳細を同氏に聞いた。
後藤 槙吾ごとう しんご
昭和59年、栃木県生まれ。平成18年に大学を卒業後、古河産業株式会社へ入社。おもに新規事業(製品)の創出業務を担当する。平成31年から現職。
現状の土砂災害対策は、十分ではない
―土砂災害の危険性が各地で認識されるなか、自治体にはどのような対策が求められますか。
土砂災害の大きな原因は、降水量が地盤の保水能力を超えてしまうことにあります。宅地造成や太陽光パネルの設置などにより森林が伐採されたことで、森林の保水能力が落ちることはよく指摘されるケースです。その結果、水が溜まり過ぎて地盤が緩くなり、地震などによる地盤沈下や液状化の原因になります。土砂崩れを防ぐ擁壁を設置するケースも多いですが、その場合も地盤に水が溜まり過ぎれば擁壁に圧力がかかり、さらに寒暖差があれば水の膨張も加わり、擁壁の破損にもつながります。最悪の場合は地盤そのものが流される大規模な土砂崩れも引き起こしかねません。そこで、日頃から地盤の排水能力をいかに高め、保持するかという対策が重要です。
ただし、現状で多く採られている排水方法では、十分ではないと当社は考えています。
―それはなぜでしょう。
土砂崩れを防ぐ擁壁を設置する際の排水法は現在、おもに壁面に沿って取り付ける排水シートをつたって水を外部に流す、もしくは透水性の不織布フィルターを外周に巻いた有孔管パイプを土中に埋め込んで排水しています。いわゆる暗渠(あんきょ)排水工法といわれる手法で、いずれも重力によって上から下に水だけをシートやパイプに透過させる原理です。この場合、年月が経過すると、排水シートや不織布の網目が土砂で目詰まりを起こし、いずれは排水能力が落ちてしまいます。その場合は本来、不織布を新たに巻き直さなければならないのですが、それは現実的ではないため、実際には排水能力が落ちたシートやパイプがそのまま放置されているケースが多いのです。
従来とは異なる原理で、地盤の排水能力を高める
―良い解決策はありますか。
たとえば、当社が提供する『ドレインベルト』を使った排水システムのように、従来とはまったく異なる原理で地盤の排水能力を高める方法があります。『ドレインベルト』は幅20cm、厚さ2mmの軟質ポリ塩化ビニール製の板状シートで、裏面に細かい切れ込み加工が施されています。切れ込み面を下にして敷設することで表面張力と毛細管現象により集水し、サイフォン現象によって勾配の低い位置にある排水管に流す仕組みです。
―特徴を教えてください。
重力で水も土粒子も集める従来工法とは異なり、重力に逆らって切れ込みよりも大きな土粒子が入り込むことはない構造なのでシートに目詰まりが起きにくく、排水性能を長く保持できます。排水時に土粒子を排出することがないということは、周辺土壌への影響や環境悪化も抑制することができます。さらに、シート交換が不要なため経済性や省力化効果にも優れているのも特徴です。
こうしたインフラの長寿命化に貢献できる点を評価され、『ドレインベルト』を用いた土木排水システムは、一般社団法人レジリエンスジャパン推進協議会主催の「ジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)2022」で最優秀賞を受賞しています。
―今後、自治体の土砂災害対策をどのように支援していきますか。
当社では、勾配がきつい法面などには、『ドレインベルト』を筒状に加工し、横穴をあけて差し込む『ドレインパイプ』も提供しています。土砂崩れ対策のみならず、林道整備や公園緑化、ごみ処理場の排水設備など自治体の幅広い土木排水ニーズに対応できるソリューションとして、効果を実感してもらうための試験導入も提案していく考えです。ぜひお問い合わせください。