「連泊促進」にこだわる
前回は台湾インバウンドの受け入れ体制を整備するにあたり、私が重要視していた視点についてお伝えしました。
(連載第4回「『愚直さ』と『ある仕掛け』で地域が一丸に」参照)
さらに、私がこだわっていたことがあります。それは「町内連泊」です。
たとえば、30人の団体が連泊すれば宿泊統計は60泊になります。それは役場観光課としては有難いし、昼間も町内に滞在するので必然的に宿泊以外の観光施設にお客さんが流れます。結果として宿以外の観光事業者さんもインバウンドを支持してくれるようになります。
長時間のバス移動が一般的なお客さんにとっても、町内連泊コースは移動時間が短縮され満足度が上がります。
こうした連泊のメリットを旅行会社に説明する時、説得力を増すために自分自身でも旅行業の資格を取得しました。
“インターンシップ学生”の意外な効果
みなかみ町の場合、受け入れ体制づくりに大きく影響したのは、インターンシップ学生の受け入れでした。
各施設ごとに海外からのインターンシップ受け入れを以前から実施していましたが、昨年からは町観光協会と台湾の大学で協定を締結し、小規模施設でも受け入れしやすい環境をつくりました。
インターンシップ学生がいれば外国人観光客との間の“言葉の壁”の心配が無くなるので、受入側・送客側双方にメリットがあります。
それ以外にも職場や地域の雰囲気を変えてくれる効果もあると感じています。比較的高齢スタッフが多い宿では若い学生がいるだけで雰囲気が明るくなったと聞いたことがあります。
「自然な受け入れ体制」をつくる方法
また、若いインターンシップ学生を受け入れることには、次のような効果もあります。
現在みなかみ町の地元住民はちょっとした買い物も車を使うので街中を歩く人は本当に少ない。ところが学生は車を持っていないので、ホテルと寮の間を歩き、また買い物をするために近所の小さな雑貨屋へ行き地元の人と触れ合います。
これらを通じて地元の人に張り合いが出たり、外国人と話す心理的な壁も低くなっているように感じます。
このインターンシップ学生のように、海外からの観光客の人にも出来るだけ地元の人間と顔を合わせる仕組みをつくることによって、自然と町全体でインバウンド観光客を受け入れる体制がつくられると思います。
たとえば、みなかみ町では海外からの観光客に町内を案内する際、車で移動するのではなく、できるだけ歩いて移動しました。実際に地元の人に「外国人が来ている」ことを見せるためです。
台湾をはじめ外国の人は恥ずかしがらないで地元の住民に挨拶をしてくれます。最初は引っ込み気味だった地元の人間も、挨拶をされるとだんだんと前のめりになって話をするようになる。そんな光景を何度も見ました。
交流が“前のめり”に変えた
また、インターンではありませんが、学生交流として台湾の高校生による教育旅行(修学旅行)も積極的に誘致するために100人以上のホームステイでも対応できるように「体験旅行」という組織をみなかみ町ではつくっています。そのため、群馬県県内で交流する場合、ホームステイと農業体験はほぼみなかみ町で受け入れます。
台湾の学生を受け入れるホームステイ先の地元住民の人たちは最初こそぎこちなく「役場の人が一緒に泊まってくれなきゃ嫌だよ」という反応でしたが、いまでは「学生たちにもう一度会いたい」と言って台南まで来てくれた事もあります。
たとえば、農家ホームステイの翌朝。別れを惜しんで泣いている台湾の学生さんと一緒に受け入れてくれた地域の方も涙ぐんでいる―そんな光景を多く見ます。
いろいろ苦労もありましたが、インバウンド交流に取り組んできて本当によかったな、と思える瞬間のひとつです。
“大きな変化”が次々生まれる!
台湾インバウンドに取り組み、台湾側の観光客と地元の人たちとの交流が深まったことで、これまでなかった大きな変化も地域に生まれました。
たとえば、ここ数年、多くの町関係者の皆さんの理解と支持のおかげで、台湾など中華圏の人たちのお正月である春節(日本の旧正月)に合わせて「春節お出迎えイベント」が毎年2月に行われるようになりました。
世界から多くの観光客を集める「台湾ランタンフェスティバル」にインスパイアされた「みなかみスカイランタンフェスティバル」も実施されるようになりました。
また友好都市である台湾台南市から毎年6月にマンゴーを購入(2019年は600箱)し、みなかみ町及び周辺自治体の人に購入してもらうフルーツ交流も実施しています。
このマンゴー交流は開始から6年が経過しました。今では6月になると多くの地元の人たちが「台南からマンゴーが届く」と楽しみにしてくれています。
一見インバウンドとは直接関係のないイベントや事業を通じて、地域住民の人にも海外の文化や習慣に触れてもらえる環境にあるのは本当に有難いです。
小さい町だからこそ交流の効果が見えやすく、結果として観光事業者さんだけでなく、町全体として受け入れの土壌がつくられているのだと思います。
それまで否定的な見方をしていた人も、いち度何らかのカタチで交流した後は、ほぼ考え方が変わります。そして、さまざまな交流が自然発生的に生まれはじめ、地域全体が活気づきます。
観光業関連だけではなく、お年寄りも若い人も、地域住民のみなさんから喜んでもらえ、地域全体が活性化する。インバウンドはそのきっかけづくりになることを、私自身、気づかされました。
(第6回「台湾で『みなかみ町ブーム』を起こしたPRノウハウ」に続く)
本連載「小さな自治体の大胆インバウンド戦略」バックナンバー
第1回 たった5年で台湾インバウンドを10倍超に増やした “前例のない方法”
第2回 「知名度ゼロ」だから新たな観光資源になる
第3回 「儲けてもらう仕組み」をつくる
第4回 「愚直さ」と「ある仕掛け」で地域が一丸に
阿部 真行(あべ まさゆき)さんのプロフィール
大東文化大学外国語学部卒、高校講師などを経て、2005年からみなかみ町(群馬県)の職員に。2013年6月から台南市へ渡る。現地での役職は「みなかみ町台湾事務局長」。台南市政府の「台南市政府対日事務相談顧問」も務める。日台双方の国家資格などを取得し、インバウンドを主とした交流を推進中。現地大学でも講師を務める。著書に「台湾・台南そして安平!」(上毛新聞社)。
<連絡先>
電話: 0278-62-0401 (みなかみ町観光協会)