「選択と集中」でインパクト
11月末に台湾の台南市で旅行展「大臺南國際旅展」が開催されます。この旅行展は群馬県みなかみ町が台湾の多くの旅行会社に知ってもらうきっかけになった旅行展です。4年前、他の物産事業の関係で群馬県商工会連合会が台南での旅行展出展を支援してくれることになりました。
当初は連合会担当者の方から「台南に出展するとしても、やはり台北や高雄で開催される旅行展にも出展したい」と言われました。しかし、私からは「いち度でいいので、台南にすべて集中して欲しい」と強く提案しました。
台北や高雄は規模も大きく出展者の数も多いので有名観光地でない我々が出展したところで埋もれて終わってしまいます。動員客数や出展者の多い台北での旅行展は参加費も高く、その1ブース分の費用で台南には2ブース出せます。台北や高雄に出す経費を台南に集中すれば10ブース出せる計算でした。
ブースが大きければPRがうまくいくという訳ではありませんが、目的は「台南旅行展にやってくる観光事業者に群馬県やみなかみ町を印象付けるため」です。
重要なのは「継続する関係づくり」
旅行展は主催者である台湾各地の旅行商業同業公会にとって大きな収入源なので、ブースを多く出してくれる自治体は大事にされます。それまで無名に等しかった群馬県・みなかみ町がいきなり10ブースも出したので、「なぜ10ブースも出せるんだ?」「群馬県って何モノだ?」と言ったように、主催者である観光業者が注目してくれました。
(参照記事:「知名度ゼロ」だから新たな観光資源になる)
狙いはあたり、台南旅行展の開幕式に来賓として出席していた台北や台中の旅行商業同業公会の理事長達も気にして、「次はうちにも出て欲しい」とコンタクトを取ってくるようになりました。
こちらから「出たい」というのと、相手から「出て欲しい」と言われるのでは、やはり条件交渉で違いが出ます。
みなかみ町は予算をかけてPRする体力がないので、逆に相手から注目してもらう方法を常に考えなければいけません。日本も同様ですが、台湾では特にこの交渉部分の幅が大きいので関係づくりは大切です。
旅行展は「関係づくりのきっかけ」だと思っています。
旅行展は数日間で終わるイベントなので、イベント終了後も自分たちのPRやツアー販売を継続する仕組みや関係をつくることが大切です。旅行展で50人のお客様にパンフを配るより、1社の旅行会社にじっくり説明し、味方になってもらう方が効果が継続します。
知恵の出しどころは“どう出るか?”
ところが現地にいるとよく分かるのですが、多くの自治体や観光協会職員の人達は旅行展でパンフを配ることには一生懸命なのですが、他をあまり重視していません。
「旅行展にどう出るか?」の「どう」に知恵を絞ることが大切なのに、「旅行展に出る」こと自体が目的になってしまうのは、もったいないと感じます。極端な例ですけれど「飛行機に乗って来たことが既に仕事だ」と言った方にも会ったことがあります(!) 国内での出張業務ではそんなことはないと思うのですが、海外だと急に考えが甘くなるのだとしたら、不思議ですよね!?
私の場合、「どう出るか」の部分で下の写真のように「みなかみ町」と「群馬県」の名前を大きく入れた「繰り返し使える丈夫な紙袋」を来場者にお配りする工夫などもしました。多くのお客さんが各ブースで受け取ったパンフをこの紙袋に入れて持ち歩いてくれるので露出につながります。旅行展で有効なPR方法のひとつだと思います。
さまざまな人の助けがあったからこそ
「関係づくり」で役に立ったのは2017年から2年間、台南市で運営していた交流館「「みなかみ物語」です。
(参照記事:「儲けてもらう仕組み」をつくる)
「みなかみ物語」は1923年に建設された日本家屋様式建物「旧台南州立農事試験場宿舎群」を活用した交流施設で、建物を所有する台南市政府が友好都市協定を結び、親密な交流のあるみなかみ町に「文化交流施設として活用してはどうか」と提案してくれました。日本の自治体として初めて無料で使用できることになり、工芸品やガラス細工、つるし雛などの展示やお祭りなどのさまざまなイベントもここで開催しました。
交流館は台南市政府の国際交流PRの場にもなっていたので現地のマスコミに多く取り上げられました。また非常に低予算で海外拠点が作れたことから、多くの日本の自治体も視察に来てくれ「みなかみ町」のPRになりました。
店舗運営の経験の無い私にとってスタッフ管理も含めた運営は正直ストレスもありましたが、経営に関しては地元企業、イベントについてはライオンズクラブや地元大学や高校、宣伝については私がデスクを置かせてもらっている台南市政府の仲間が手伝ってくれ、何とかカタチになりました。
(参照記事:たった5年で台湾インバウンドを10倍超に増やした “前例のない方法“)
日本の工芸品を展示・販売する必要があったために上述した群馬県商工会連合会や県内外の民間事業者さんとも知り合えることが出来ました。旅館、ホテル関係者だけでなく文房具、農園、織物等多くの方が業務又は個人的に来てくれることも増えてきて交流と営業が進んでいます。
どんな自治体もすぐできる
交流館もそうですし、私が直接台南市政府内に事務局デスクを置いているのもそうですが、施設などのお互いのリソースを活用しあってPRするのは、日本の多くの自治体でも実現可能、かつ経費を抑えられる方式だと思います。
たとえば、小さなみなかみ町ですが、いま、町では町長を団長とした町民旅行や中学生による海外研修、高校の修学旅行を台南で実施しています。これは町からのアウトバウンド、台南にとってのインバウンドになります。
自治体として企画出来る上記交流数は大きくありませんが、みなかみ町人口が2万人に満たないことを考えると比率としては大きく、この点を台南側が評価してくれています。
また、国内友好都市関係を活用してさいたま市の大宮駅前や、群馬県のアンテナショップ「ぐんまちゃん家」を使って東京の銀座でみなかみ町が台南市のPRを実施することもあります。
これらは台南市が独自に実施しようとすれば莫大な予算と労力がかかります。しかし、みなかみ町を通じれば予算も労力も少なく実施可能であり、台南市側にとっては非常に助かる存在になっています。
ご紹介したみなかみ町からの台南アウトバウンドの取り組みや施設の相互利用は、継続する関係づくり、継続する仕組みづくりにつながる交流事業です。「互いの拠点を活用してのPR」や「町民旅行」「修学旅行」等の交流事業は台湾との交流に興味を持っている自治体にとって実現可能な方式でもあります。
国や県ではなく、市町村でも始められる自治体交流事例として台南市政府がこれらの交流を広く周知するために今年、書籍出版までしてくれました。
みなかみ町から派遣されている身分ではありますが、台南市政府職員としてこの事例を多くの自治体に紹介し、日台交流の発展をお手伝いするのが私の役割だと強く感じています。
(第7回「地方自治体だからこそ『できるインバウンド促進』『やれる国際交流』」に続く)
本連載「小さな自治体の大胆インバウンド戦略」バックナンバー
第1回 たった5年で台湾インバウンドを10倍超に増やした “前例のない方法”
第2回 「知名度ゼロ」だから新たな観光資源になる
第3回 「儲けてもらう仕組み」をつくる
第4回 「愚直さ」と「ある仕掛け」で地域が一丸に
第5回 「インバウンド効果」は観光関連にとどまらない
阿部 真行(あべ まさゆき)さんのプロフィール
大東文化大学外国語学部卒、高校講師などを経て、2005年からみなかみ町(群馬県)の職員に。2013年6月から台南市へ渡る。現地での役職は「みなかみ町台湾事務局長」。台南市政府の「台南市政府対日事務相談顧問」も務める。日台双方の国家資格などを取得し、インバウンドを主とした交流を推進中。現地大学でも講師を務める。著書に「台湾・台南そして安平!」(上毛新聞社)。
<連絡先>
電話: 0278-62-0401 (みなかみ町観光協会)