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ボストン コンサルティング Report~基盤強化に向けたデジタルレジリエンスの構築

    ボストン コンサルティング Report~基盤強化に向けたデジタルレジリエンスの構築

    【自治体通信Online 特別連載】次世代自治体経営のカタチ②

    個人の生活様式が新型コロナ感染拡大前と後で変わったように、自治体のあり方についても、いま大きな過渡期の渦中にあります。実際、次世代の自治体経営の実現に向けて取り組みをスタートさせた自治体も現れ始めています。これからの自治体経営のあり方について経営コンサルティングファームのボストン コンサルティング グループ(BCG)が考察する本連載の第2回は、具体的な基盤強化の指針について、BCGの丹羽 恵久氏、内田 康介氏、高部 陽平氏の3名のマネージング・ディレクター&パートナーが検証します。
    【目次】
    ■ なぜ今、『デジタルを活用したレジリエンス構築』が重要なのか
    ■ レジリエンスを確立するための『5つの要素』
    ■ 今変革を進めることが、次の危機への備えとなる

    なぜ今、『デジタルを活用したレジリエンス構築』が重要なのか

    第1回の連載に対して、多くのコメントやご意見を頂戴した。その中で、新型コロナウイルスの影響の大きさを指摘される方が多く見受けられた。
    (参照記事:アフターコロナを「地域の追い風」に変換する戦略と戦術)

    実際に、緊急事態宣言下では従来の生活や社会活動の維持が困難を極め、学校教育などいくつかの基盤サービスは実質的に提供停止に追い込まれたとも言える。言い換えれば、それは日本における行政サービスが「過度な対面至上主義」によっているためだとも考えられる。

    今回のコロナのような大きな危機に対して、自治体はその対応の最前線として多くの役割を期待されている。

    主な役割としては、住民や企業に対する迅速で明確な情報提供、不安や課題に対する具体的な対応方針の提示と実施、さらにはそれを効果的・効率的に推進するための各ステークホルダーに対する財政支援等が挙げられる。

    一方で、それら一連の役割をスピード感を持って、かつ持続的に提供し続けるためには、

    ①自治体自体が機能停止に陥らないための働き方
    ②業務遂行/サービス提供のために必要なインフラの整備
    ③一連の取り組みを裏打ちする財政的な手当の確保

    この3つが不可欠となる(図1参照)

    第2回では、上記の問題意識を前提に、自治体運営の基盤強化に向けた『デジタルを活用したレジリエンスの構築』について論じさせていただく。

    レジリエンスを確立するための『5つの要素』

    レジリエンスという言葉に馴染みがない方も多くいらっしゃると思う。レジリエンスとは、回復力、強靭性、弾力、などと訳される言葉で、近年は特に「困難な状況にもかかわらず、しなやかに適応して生き延びる力」という意味で使われることも多い。

    ここでは、危機対応における最後の砦となる自治体運営が、「デジタル」を活用することで「弾力性」を持って対応できる「強靭」な組織となることを、『デジタルを活用したレジリエンスの構築』と定義させていただく。

    これまで多くのクライアントをご支援してきた経験から、上記を踏まえた『デジタルを活用したレジリエンスの構築』に向けては、

    ①リモートワーク化
    ②オペレーションのデジタル化
    ③アジャイル化
    ④効率化
    ⑤パーパス

    これらが重要になると考えられる(図2参照)

    この5つの要素の必要性とその具体的な内容について紹介する。

    ①リモートワーク化
    緊急事態宣言解除後は出勤に対する制限を緩和している組織が多いが、コロナ環境下においては出勤すること自体が大きなリスクを伴うことが周知となっている。

    また、技術の進化/意識の変化により、ホワイトカラー業務のかなりの部分がリモートでも遂行可能とみられている。

    これらを踏まえると、自治体においてもニューノーマルとして「リモート&分散勤務」モデルの検討が必要となる。

    実際に多くの民間企業でリモート勤務が導入されつつあり、Web会議ツールの利用は一気に数十倍になったといわれる。

    だが、基本的にはもともと行っていた業務をそのまま自宅などでやっているだけで「リモートワークにおける効率的・生産的な業務のあり方」が設計されていないケースが多い。

    自治体の業務にリモートワークを導入する際には、次に掲げるA.~F.という6つの側面で実現可能性をチェックすることが必要だ。

    まずはそもそもの業務のタイプが適しているか、具体的には
      A.やりとりの頻度
      (個人作業でどこまでまかなえるか)
      B.業務上の移動範囲
      (複数の勤務先、現場に出る必要があるか)

    次に、技術面での準備状況、具体的には
      C.オペレーションの対応状況
      (デジタル対応がされているか)
      D.業務に必要な設備の制約の有無
      (ノートPCだけでできるか、専用の設備が必要か)

    最後に、環境的な要素、具体的には
      E.他の自治体も含めた全体的な取り組み状況

    および
      F.組織風土/マインドセット上の制約の有無

    これらが挙げられる。

    自治体の運営という観点では、A.の対住民のやりとりの多さ、C.のオペレーション上の未整備、F.の組織風土/マインドセット―が大きなハードルになると考えられる。

    また、合わせてリモートでのチーミングや生産性向上に向けた工夫として、仕事のやり方や期待値の再設定、コミュニケーション方法の簡素化・明確化、つながりを感じるための仕掛けの導入も検討、実施することが重要となる。

    ②オペレーションのデジタル化
    いくつかの観点から、自治体におけるオペレーションの抜本的なデジタル化の推進は不可欠と考えられる。

    たとえば、住民や企業へのサービスもコロナの感染リスクを伴う紙や窓口での対応からデジタルへの切り替えが必要であり、さらに、自治体職員のリモート&分散勤務を推進するためにも、オペレーションのデジタル化は不可欠となる。

    オペレーションのデジタル化に向けてはいくつかのステップがある。

    大枠では、
      <ステップ1>紙入力からデジタル入力への変換
      <ステップ2>RPAを用いたルールベース業務の自動化
      <ステップ3>AIを用いた機械学習による業務効率化

    これら3つのステップが考えられる。

    この中で、自治体運営においては、短期的にはRPAを用いた業務の置き換えが目指すターゲットとなる。

    加えて、住民・企業向けの情報提供について、アプリやチャットボットなどデジタルを用いた手法を従来以上に採りいれていく必要がある。

    以前は対面がもっとも良いと考えられていたが20代~40代の住民は、むしろ対面よりも時間が節約でき、自由度もあるデジタルでのコミュニケーションを選ぶという傾向も顕著になっている。

    ③アジャイル化
    ここ数年、民間企業においては、特にデジタル化されたサービスの開発・導入に際し「アジャイル」的手法が用いられつつある。

    不確実性が高い中、大規模なプロジェクトを立ち上げ、精緻な計画に沿って長期間かけて作り上げるというような、従来のウォーターフォール的なサービス開発手法はリスクが大きい。時間がかかるだけでなく、いざ完成したときには環境やニーズに合わないものになっている可能性があるためだ。

    そのため、できるだけ小さく、軽く立ち上げ、うまくいったものに対して追加の資源を大胆に投入し、成果を取りにいくという「アジャイル」的な手法が注目されている。

    自治体における各種サービス提供にはこうした手法はなじまないと考える向きもあるだろう。だが、海外ではアジャイル的なサービス開発が取り入れられた例があり、国内でも市川市(千葉)が進める「来なくてもすむ市役所」など先進的な取り組みが始まっている

    今回のコロナ対応を含め、不確実性が高い環境下においては、自治体においても積極的に採用を図るべき手法であると考えられる。

    市川市は同市DX憲章で「来なくてもすむ市役所」の実現を打ち出した
    市川市は同市DX憲章で「来なくてもすむ市役所」の実現を打ち出した

    ただし、アジャイル的手法は万能薬ではない。大きな制度設計など必ずしも適さない取り組みもあり、どういったものが向いているのか、最初の段階での見極めが重要である。

    ④効率化
    今回のコロナ対応で、政府や自治体は多くの財政支出を行っている。政府が約60兆円、自治体も休業補償や各種整備に対して多額の支出を行っている。

    そのため、これまでに述べた、①リモートワーク化、②オペレーションのデジタル化、③アジャイル化の取り組みと並行して、財務面での効率化により、必要な施策に向けた原資/予算の捻出が必要となる。

    ※今回はこの重要性について触れるのみにとどめ、取り組むべき具体的な内容については、第4回「財政の体質改善」で詳細をお伝えする。

    ⑤パーパス
    組織の社会における存在意義を突き詰めて結晶化した「パーパス」が近年注目を集めている。混乱が激しく、不確実性が高まる環境下では、組織はその拠り所としてパーパスを明確にすることが肝要となる。

    社会的価値を重視する傾向は消費者の間でも高まりを見せている。BCGが実施した調査でも、コロナの環境下で社会的価値に資する取り組みを行うことが企業/ブランドへの好印象につながると回答している人が全体の約6割に上る。

    自治体の社会的価値はある意味非常に明確だと考えられがちだが、多様な社会的課題の中でどのような優先順位で応えるか、また組織全体のみならず個人の業務においてどう指針とするか、というところまではっきりするようにパーパスを組織に埋め込んでいくことが重要となる。

    この社会的価値/存在意義が明確でないと、プレッシャーや負荷が非常に大きい自治体業務の中で、職員の働くモチベーションを削ぐことにもなりかねない。

    今変革を進めることが、次の危機への備えとなる

    緊急事態宣言が解除され経済活動が再開する中、喉元すぎれば…という風潮もやや見て取れる。一方で、アフターコロナというよりもウィズコロナといわれているように、これから再び感染拡大の段階に入ることも想定され、またコロナ以外でも今後同様の未曾有の事態に直面する可能性は十分考えられる。

    本当の危機が来てから動くのでは遅い。まだ落ち着きを見せているタイミングにこそ、危機感と緊急性を持ち、レジリエンスを高めておくことが重要である。

    実際、民間企業でも、今回のコロナ危機に比較的うまく対応できているのは、コロナが発生してから適切に動けたというより、以前から一連のレジリエンスが検討され強靭な企業運営体質ができていた企業だった。

    「ステップアップのチャンス」にするか「喉元すぎれば…」なのか、現在地はその分岐点
    「ステップアップのチャンス」にするか「喉元すぎれば…」なのか、現在地はその分岐点

    そこからの学びとして、次に事態が変わる前に、強靭な自治体へと変革を進めることが必要となる。今回の指摘が自治体におけるレジリエンス構築の一助となれば幸いである。

    (続く)

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    本連載「次世代自治体経営のカタチ」のバックナンバー
    第1回:アフターコロナを「地域の追い風」に変換する戦略と戦術

    丹羽 恵久(にわ・よしひさ)さんのプロフィール

    ボストン コンサルティング グループ マネージング・ディレクター&パートナー
    BCGパブリック・セクターグループの日本リーダー。中央官庁・自治体・スポーツ団体・NPOなどの組織、および通信・メディア・エンターテインメントなどの業界の企業に対して、成長戦略、デジタルサービス開発、組織変革、経営人材育成などのプロジェクトを手掛けている。
    慶應義塾大学経済学部卒業。国際協力銀行、欧州系コンサルティングファームを経て現在に至る。

    <連絡先>
    niwa.yoshihisa@bcg.com

     

    内田 康介(うちだ・こうすけ)さんのプロフィール

    ボストン コンサルティング グループ マネージング・ディレクター&パートナー
    BCGオペレーショングループの北東アジア地区リーダー。製造業、エネルギー業界を中心に、多くの業界にわたってオペレーション変革(特にデジタルによる)トランスフォーメーション、新規事業構築等のプロジェクトを手掛けている。
    京都大学文学部卒業、コーネル大学経営学修士(MBA)。NTTコミュニケーションズ株式会社を経て現在に至る。

    <連絡先>
    uchida.kosuke@bcg.com

     

    高部 陽平(たかべ・ようへい)さんのプロフィール

    ボストン コンサルティング グループ マネージング・ディレクター&パートナー
    BCGのデジタル専門組織であるDigitalBCGの日本リーダーの1人。BCG保険グループのアジア・パシフィック地区リーダー、およびテクノロジーアドバンテッジグループの日本リーダー。
    保険、金融を含むさまざまな企業に対しテクノロジーを活用した競争優位構築を主軸とするプロジェクトを手掛けている。
    慶應義塾大学環境情報学部卒業。IBMビジネスコンサルティングサービス株式会社(旧プライスウォーターハウスクーパーズ)を経て現在に至る。

    <連絡先>
    takabe.yohei@bcg.com

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