デマンド交通の概要
デマンド交通とは、バスや電車などのようにあらかじめ決まった時間帯に決まった停留所を回るのではなく、予約を入れて指定された時間に指定された場所へ送迎する交通サービスのことです。規則正しく運行されている公共交通機関と異なり、利用者が自分から連絡する必要があります。
デマンド交通によく似た交通サービスにタクシーやコミュニティバスがあります。タクシーは電話で迎えに来てもらえますが、運行していない地域もありますし、コミュニティバスは通常のバスと同じように運行コースが決まっています。バスやタクシーの運行コースから外れてしまった場所に住んでいる人でも利用できるのが、デマンド交通の特徴です。
現在地方自治体では少子高齢化、マイカーの普及に伴い、バスの利用者が年々減っています。地方自治体のメインの交通機関であるバスの運行本数が減ったり、バスの運行そのものがなくなったりしているのです。地方の公共交通は電気や水道と同じように「ライフライン」であるため、バスよりも地方自治体の現状にあった公共交通の導入が必要になります。そのひとつとしてデマンド交通があります。
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デマンド交通のIT化におけるメリットとデメリット
デマンド交通はタクシーやバスよりも複雑な運行を行います。毎回違うルートを走行し、毎回違う距離を走るので管理が大変です。そこでIT化を検討する自治体もありますが、デマンド交通のIT化にはメリットとデメリットがあります。
デマンド交通のIT化におけるメリットは、「配車情報を通信できる」「データをPC管理できる」「利用者があらかじめ登録しておけば気軽に利用できる」などという点です。一方、IT化のデメリットは、「高齢者が利用に抵抗を感じる」「タクシー無線での配車管理からPCでの配車管理に変わるので、今までのノウハウを生かせない自治体がある」ということです。さらに、「予約が入った件数によって、指定された時間通りに送迎できないこともある」というのも、デマンド交通のデメリットです。デマンド交通のIT化は利用者が多い自治体に向いていて、IT化しないデマンド交通は利用者が少ない自治体に向いていると言えます。
デマンド交通を導入するためのポイント
平成18年に8の自治体でしか導入されていなかったデマンド交通は、平成25年には48の自治体にまで広がりました。デマンド交通を導入することで、バスの運行廃止などに伴い衰退している地方自治体の公共交通を立て直すことができます。大切なライフラインのひとつである公共交通にデマンド交通を導入する際は、以下のポイントに気を付けましょう。
まずデマンド交通には、「定時定路線型で固定ダイヤ型のバスや電車と同じ形式」「巡回ルートを非固定ダイヤで回る形式」「基本的にダイヤは固定されているが、自由経路を周って予約が入っている場所へ立ち寄る形式」「自由経路のドアツードア形式で非固定ダイヤ形式」など、さまざまな形式があります。地域住民にとって使いやすい形式を検討しましょう。
形式を検討する際は「どの時間帯に実施するか」「どういう人がどういう目的で利用するか」「どこからどこへ送迎するか」「1日の利用者は何人を想定するか」などを具体的に考えます。デマンド交通を実施している自治体の約65%は「見込みに比べて利用されていない」という結果になっています。こうした結果にならないためには、既存のバスルートや運行時間、周辺施設の場所などを参考に、住民が利用しやすい運行条件にすることが大切です。
また「どういった車両にするか」「どのような予約方法にするか」「どの交通事業者に委託するか」「既存の路線バスやタクシー事業者への説明は十分か」「デマンド交通の地域への説明はどう行うか」などを具体的に決めましょう。またデマンド交通の評判を調査する際、各世代に均等にアンケートを行えるよう体制を整えておくのもポイントです。
デマンド交通の利益と費用
デマンド交通で得られる利益の割合と賃金の相場を知っておくことで地域への導入がしやすくなり、賃金設定も適切になります。デマンド交通の賃金の平均は100~500円です。デマンド交通の利益の内訳は約90~100%が運賃収入、約4~9%が広告収入です。デマンド交通の収入は例えば平成19年の前橋市で約620万円です。
しかしデマンド交通を維持するためには費用がかかるため、多くの自治体で赤字となっているのが現状です。平成19年の前橋市ではデマンド交通の費用が約3,484万円かかっているので、年間で約2,864万円の赤字です。どの自治体も費用の65%以上は運行委託費なので、デマンド交通を導入する際の大きな課題は、どうやって運行委託費を削るかです。
運行委託費の削り方で効果的なのは、デマンド交通を試験的に実施し、どの時間帯に利用者が多いか、どの時間帯は利用者が少ないかを把握します。そして利用者が少ない時間帯は運行しないことで、無駄な費用を削減できます。
また利用者が不便に感じる運行ルートはできるだけ避けるのも、費用削減に効果的です。良くない事例としては、公共交通がない地域からもっとも近いバス停までしかデマンド交通が運行せず、バス停からバスに乗り換えて目的の施設へ行くというシステムです。途中の乗り換えが不便で利用してもらいづらいので、利用者が多い施設まで直接運行しましょう。また多くの人に利用してもらおうと入り組んだ複雑なダイヤにしてしまうと、費用がかかる上にデマンド交通を利用してもらえない原因になります。
デマンド交通の利用者を増やすために
デマンド交通は普通のバスやタクシーと違い、馴染みがない人が多いです。デマンド交通の最大の収入源である運賃収入を増やし、地方自治体の公共交通を安定したものにするためには、利用者を増やす必要があります。そのためにはまず試用期間を設け、実際に地域住民に利用してもらいます。利用者に正直な感想を言ってもらうと同時に周辺の住民に「便利だった」など印象を伝えてもらうことで、利用促進効果が期待できます。
デマンド交通に使う車両は5人乗りのセダン車から15人乗りのワゴン車が一般的です。巡回ルートに合った大きさの車両を用意しましょう。また観光や周辺の施設と連携することで、利用者のハードルを下げることができます。地元住民の日常生活の移動手段としてだけでは限界があるので、文化イベントやコミュニティ活動など多くの人が集まる行事でデマンド交通を活用しましょう。行事での利用を通じて利便性を認識し、地域住民が日常生活で利用するきっかけにもなります。
周辺施設との連携として、病院の送迎サービス、学校の送迎サービス、商店街や役所などの利用客の送迎サービスなどを定期的に行うことで、予約をする手間をかけずに多くの人が利用できます。このように地域住民への説明や車両の整備だけではなく、自然とデマンド交通を利用できる環境を整えることも重要です。デマンド交通は導入した後に継続することが難しいので、対策を十分に立てておきましょう。
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