風力発電について
風力発電は、風の力を利用して電気を作る仕組みで、再生可能エネルギーの中でも比較的低コストかつ高効率とされています。
・風力発電の現状
資源エネルギー庁では、長期的なエネルギー需給の見通し(エネルギーミックス)において、日本は2030年までに電源構成のうち、1.7%を風力発電とすることを目指しています。しかし、太陽光発電は目標に対して半数以上の導入が進んでいるのに対し、風力発電は約3割で、稼働している風力発電はまだまだ少ないのが現状です。
・風力発電の課題
日本における風力発電のコストは世界平均よりも高い傾向があり、メンテナンスや運用に伴う人材育成、効率的かつ安定的に電力を共有する発電システムの仕組みづくりなど、課題が多く存在します。また、発電所を設置するためには環境影響調査を行う必要があり、環境影響評価(環境アセスメント)の手続きには、3~4年かかるといわれています。
近年は期間の短縮に取り組む実証実験が行われていますが、風車回転に伴う騒音や風況、周囲環境への影響などへの考慮が不可欠で、地域の理解を得ることが重要な条件です。
また、風力発電の効果をより上げるため、洋上風力発電に注目する自治体が増えてきています。現在は政府が令和元年6月に発表した「一般海域における占用公募制度の運用指針」により、発電設備の設置に向けた準備が進められています。
風力発電の実施例
ここでは、主に4つの事例について紹介します。
①新潟県胎内市の取り組み
日本海側に位置する新潟県胎内市は、年間を通して風況がよく、洋上水力発電に最適な立地といわれています。
2019年11月に、まずは候補海域とされている胎内市と村上市の関係者が集まり、発電所を設置した場合の課題について話し合いが行われています。地元集落の区長や商工会、観光協会が参加し、今後の進め方や海域ルールについて、県が説明を行いました。
また、2019年12月には洋上風力発電の講演会を開きました。同日には市、市議会、商工会、農業協同組合、金融機関、大学、漁業関係者、環境団体、沿岸集落の区長から構成される総会が開催され、事業計画についての議案が全会一致で承認されています。
胎内市は以前から洋上風力発電事業の誘致実現に向けて取り組んできました。まずは地域住民の理解を得ることから始め、地球温暖化対策および再生可能エネルギー施策の実現に向けて、定期的な話し合いをもつことにしています。
②新潟県村上市岩船沖洋上風力発電事業
胎内市と同様日本海側に位置している村上市では、2013年より岩船沖洋上風力発電事業の構想がスタートしています。
漁業関係者や地域住民の理解が得られたことをきっかけに、2014年からは地域住民との意見交換が行われ、2014年10月に導入推進に関する会議が行われ、賛成多数で決議されました。その後も会議や講演会などが行われ、2015年には環境調査なども実施されました。
現在は事業者が決定し、事業が可能かどうかの審査や評価が行われ、風況観測や海底土質調査、聞き取り調査などを行っています。工事期間は約4年の計画で、発電所の設置場所は岩船の沖合約2㎞先。水深は10~35m、風力発電出力は220,000kWと想定されています。着工予定は2021年4月で、事業費は1兆円を超える見込みの大型プロジェクトです。
③横浜市民参加型の風力発電事業
神奈川県横浜市の風力発電事業は、住民参加型の市場公募債「ハマ債風車」の発行によって市民参加ができる仕組みです。Y(ヨコハマ)-グリーンパートナーによる事業協賛を行い、市民と事業者が一緒になって風力発電事業を進めていきます。
住民参加型市場公募債とは、横浜市在住の地域住民を対象に、事業を特定して発行する公募債。Y(ヨコハマ)-グリーンパートナーとは、風力発電事業に協賛している事業者を指します。
「ハマウィング」の愛称を持ち、横浜のシンボルとなりつつある横浜市風力発電所は、寄付金制度を設けることで運営や維持管理に役立てています。景観も風力発電事業所の推進の一環として、地域住民に興味関心を促す取り組みが行われています。
まとめ
日本における風力発電事業は、海外と比較すると事例数は少ないものの、地域活性化や環境問題対策として各地域で実施されています。安全性が高く、二酸化炭素排出もないことから、新エネルギー事業として多くの企業が導入を検討しています。
今回紹介した実施例は、地元住民の理解のもと、地域全体で風力発電事業を推進しているケースを紹介しました。実際に発電所が設置されるまでには数年間を要し、円滑に事業が進むよう、市民や事業者に寄り添った行政支援が大切だと言えます。