トラブル&シュート~業務負担があまり変わらない…
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RPAが得意な定型大量処理を探すものの、うまくいかない…
周辺の自治体がRPAの検討を始めたとの話を受け、「いよいよ自分たちも」と、さまざまな自治体の公表事例を収集したB自治体。RPAが得意な処理が見えてきたため、「こんな処理を大量に行っている業務を教えてほしい」と各原課に業務選定の依頼をかけるも、なかなかうまくいきません。
各原課から出てきた業務の候補にそのままRPA導入を構想してみるものの、効果があまり見込めず「これなら今までと業務負担はあまり変わらない」という反応で、思うように導入検討が進まないのです。
「他の自治体では効果があったとのことで、うちでもきっと効果があるはず。現在の大量定型業務を挙げてほしい」と声をかけてみるも、「他の自治体と、うちは違う」と拒否されてしまい、業務洗い出しの段階で壁にぶつかってしまいました。
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“各論”の前に業務プロセス全体の見直しを
B自治体からの依頼は現行業務手順の所々に「ここにRPAを導入したい」ということを示したマークがあり、それらについてRPAを構築したい、ということでした。
私たちはその内容を確認し、「これでは効果が少ない」と説明、業務プロセス全体を見直す新たな導入方法を提案しました。
そして、そのことをきっかけに、B自治体では導入準備が円滑に進み始めました。
“壁”の原因
このB自治体のようなケースは、けして珍しくありません。一体、どこに問題があるのでしょうか。
昨年初め、さまざまな自治体からのRPAの相談で多かったのは、候補業務の選定において「“ここ”の入力作業は繰り返しの定型大量業務なので導入効果がある」「業務の“ここ”と“ここ”の処理は定型なのでRPAに向いており、導入したい」というものでした。
これらには、①現行業務の中に定型大量業務を探し、②その個々の箇所にRPA導入を想定している―という点が共通しています。
そして、こうした自治体は冒頭でご紹介したB自治体と同様に、なかなか対象業務が増えずに行き詰まってしまうという壁にぶつかりがちです。
行き詰まりの要因は、現行の業務実施手順だけをみて、RPA導入ができる/できない、効果がある/ないを判断しようとする姿勢にあります。
「人前提」という現行業務の落とし穴
では、どうすればよいのか。実際に、当社が導入依頼を受けたB自治体の事例では、下図のような提案をしました。左がB自治体の依頼内容をそのまま採用した場合、右が当社提案で、BPR(囲み記事参照)を盛り込んだものです。
~BPRとは~
Business Process Reengineeringの略。業務最適化。業務プロセスを見直し、再設計(リエンジニアリング)する手法。無駄や不合理を省き、コスト削減と効率化を図る効果がある。業務改革のこと。
B自治体の依頼内容(上図の左)では、RPA範囲は一定あるものの、結局、人の作業工程は残ります。また業務を完了するためには人が最後まで職場にいる必要があります。そのため、残業も思ったより減らないという結果が想定されました。
一方で、BPRを行った場合(上図の右=当社提案内容)では、人の業務を集約し、RPA作業準備を整えることで、残りの作業はRPAで完結できます。これにより業務工数が大幅に削減でき、かつRPA開発工数も抑えられるという試算結果となりました。
たとえば、人の作業工数はB自治体のプランでは33.6時間かかるところ、BPRを行ったうえでRPAを導入すれば4.8時間へと7分の1に効率化できることがわかりました。
この事例から、「人だけ」で行うことを前提に組み立てられていた現行業務の業務手順(プロセス)の中で、単にRPAへの置き換えを行っても導入効果は最大化できないことが理解されると思います。
つまり、「BPRなき導入業務の選定」は業務効果を限定的にする要因になってしまい、さらに「RPAは定型のXXX業務にしか適用できない」という先入観に陥ってしまうと、業務の洗い出しすら滞ってしまう要因にもなってしまうのです。この点は留意が必要です。
「細かなフローチャート」より「業務全体の概観」を
このように、RPA対象業務の洗い出しや選定における重要なポイントは業務選定の前に必ずBPRを検討する点にあります。現状の業務フローを見て対象業務と導入範囲を決めるのではなく、必ずBPR後の将来あるべき業務フローに対して考察を行うことです。
従って、現行の業務手順の整理段階で細かな「フローチャート」を一生懸命書くことは止め、まずは業務全体の「目的/ゴール」「インプット/アウトプット」を整理し、主要手順と課題を概観でとらえるところから始めることをお勧めします。
一方で、BPRで失敗する場合も少なからずあります。もっとも多いのは、現行の業務手順の整理に時間と労力を掛け過ぎることで、「将来あるべき議論に至るまでに力尽き」「現行の手順に意味付けをしてしまい」「業務変更が難しい」という思いに囚われ、BPRを断念するケースです。
しかし、そもそもRPA導入には少なからず業務変更が必要となりますし、そもそも「変革意識」がないのであれば、第2回で取り上げた通り、導入効果は期待できません。この前提は、「現行の業務手順にこだわり過ぎることに意味がない」ことを示しています。
(参照記事:「RPAの導入・運用は情報システム部門だけでやるもの」ではありません)
ちなみに、私たちは「Decision Matrix」という当社独自ツールを使うことでこの点を実現し、業務概観と変革ポイントを見極めることで、早期にBPR議論の段階へ移行する支援を実現してきました。この手法は、自治体でのRPA導入推進者を育成する集中トレーニングのコンテンツにも盛り込んでおります。
効果のある業務に当たりをつける方法
一方で、「現行の業務手順だけでRPA導入業務の洗い出しや選定を判断するのは避けた方がいいというのは分かるが、効果のある業務に当たりをつける方法はないのか」という悩みも自治体等からよくうかがいます。すでに多くの自治体でRPAの取り組み実績があるのだから、そこから何らかの考察ができるのではないか、というものです。
本稿では「RPA導入はBPRありきで考察すべき」と述べていますが、私たちはこれまでの実績から、「個々の処理単位」にではなく「目的のある業務単位」に着目した業務類型分析手法を有しています。RPA効果はあくまでもBPR後の業務でしか判定できないのですが、これまでの実績で、現行の業務手順の特性により20業務を類型化しています。啓蒙活動がしっかりなされ、期待されるBPRも実現できる前提において、全庁効果の俯瞰と、どこに業務の当たりがありそうかを示唆する分析手法です(下図参照)。
調査においては職員の皆様の協力が必要ですが、個々の職員にRPA知見は不要です。また個々の処理を細かく挙げる必要もありません。調査の前提をしっかり理解すれば、活動指針の検討や協力部門選定の当たり付け、それぞれの優先順位付け等に有効な情報となることでしょう。
次回は、全庁展開における推進論点について考察します。
(続く)
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本連載「地方行政戦略教室『自治体×RPA』」のバックナンバー
第1回:「カン違い」への気づきがRPAのポテンシャルを最大化する
第2回:「RPAの導入・運用は情報システム部門だけでやるもの」ではありません
品川 政之(しながわ まさゆき)さんのプロフィール
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
シニアマネジャー
大手通信事業者、情報セキュリティコンサルファームを経てデロイト トーマツ コンサルティング合同会社に入社。民間の大規模BPRを始め、経営管理基盤構築、財務管理強化、IR強化、M&A等数多くの実績を有する。近年は自治体でのRPAを活用した全庁業務改革支援に注力、業務類型の考察知見を有する。BPR推進者を育成する技術トレーニングや、自治体の将来を討議する幹部向け集中ワークショップ、全職員向け啓蒙セミナー等、自治体の業務改革に必要な意識醸成及びノウハウ伝承を目的とした研修の豊富な講師経験を有し、受講者はこの1年で1,000名を優に超える。
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メール:mshinagawa@tohmatsu.co.jp