T ホームページと一概に言っても、各局にまたがってそれぞれが膨大な量の情報を管理しているわけですので、その改善に取り組むのは難易度が高い業務となりますよね。 もはやどこから手をつけたら良いのかわからないといった自治体も多いと思うのですが、東京都ではどういったことから取り組まれていますか?
M 東京都では、昨年度からホームページにアクセス解析ツールを導入し、ユーザー数やサイトへの流入経路、デバイスの比率などが把握できるようになりました。それによって気付きが確信に変わりました。 行政のデジタル推進といえば、メタバースや行政手続きのデジタル化、そしてMaaS(Mobility as a Service=移動のサービス化)のような先端技術のイメージもありますが、最も利用されている東京都のデジタルサービスは、結局、「ホームページで情報を探す」ということなのです。 ですから、都民の皆さんの最も大きなニーズは「ホームページで情報をちゃんと探せるようにして欲しい」ということではないかと思うのです。そして、更にデジタルに慣れている人は「申込みもデジタルで」というニーズをもっていることと思っています。 そういった現状を踏まえると、まずは利便性の高いWeb1.0の実現に向けて、検索したら適切な情報にアクセスできるとか、カテゴリーを辿って必要な情報に到達できるとか、基本的なところから1つ1つ利便性を高めていけるといいなと思います。
T まずは現状を定量・定性の両面から正しく把握する。そのために継続して計測する。そして検証し、改善する。民間では当たり前のことではあるのですが、なかなか多くの自治体でも出来ていないのではないでしょうか。ユーザーテストなども組み合わせて、まずはこれを仕組み化することからスタートしなければ、ですね。 また、膨大な量の情報を徹底的に整理して、簡単に検索できるようなシンプルで使いやすいホームページに進化させることは、全国の自治体が取り組まなければならない重要なテーマですよね。
M そうですね。東京都以外の自治体でも、「利便性の高いWeb1.0のホームページを実現して欲しい」「情報を簡単に検索できるようにして欲しい」というのは、最大のニーズなのだろうと思います。当たり前すぎて、利用者は言葉にしないだけで。
自治体は組織として技術に強い!
T それでは、今後のビジョンについてもお伺いしたいと思います。 東京都は17万人を超える職員数と巨大な組織なわけですが、組織の変革に関するビジョンは、どのように描いていますか?
M 都道府県などの広域自治体は、水道や道路といった都市インフラを支えているため、エンジニア(技師)も数多く在籍しています。本質的な組織文化のカルチャーとしては「エンジニアリング・カルチャー」だと思うのですよね。水道や道路などは世界的にも品質を高く評価されていて、毎日、何不自由なく水道や道路を利用できているというのは、まさに組織として「技術に強い」ということなのです。 しかし、デジタルだけ上手くいっていなかった。なぜかと言うと、1つはエンジニアの人数が全く違うのです。水道や道路にはエンジニアが沢山いますが、デジタルは非常に少なかった。私が着任した2年半前は、デジタルのエンジニアは10名ほどでした。今は120名ほどに増えましたが、それでもまだまだ足りないと思います。
T たしかに、そもそも自治体は「技術に強い」組織であるはずなのですよね。デジタルは21世紀の基幹インフラなので、水道・道路など他のインフラに匹敵するぐらいの人数を確保することは、とても重要だと思います。 やはり、組織の変革で目指すべきビジョンは、住民の皆さんだけでなく職員1人ひとりの自信や誇り、1人ひとりのやり甲斐やウェルビーイングの向上ということになるのですよね。 三重県の「あったかいDX」でも、1人ひとりの自己実現こそが変革で目指す理想状態であるとしていますので、とても共感できます。
「並ばない役所」は実現できる
T ところで、組織の変革だけに限らず、もう少し拡げて東京都の未来に向けたビジョンとしては、どのように描いてますか?
T 住民の幸福に貢献する「デジタル社会」の実現は、国が掲げる「デジタル田園都市国家構想」が目指すウェルビーイング・イノベーション・サスティナビリティにも通ずるところがありますね。組織でも社会でも、1人ひとりの幸福に向き合うことが変革を推進する上で、とても重要なのだと強く共感しました。 最後になりますが、この対談は、是非とも全国の自治体の変革推進担当者の皆さんに読んでいただきたいほどに、とても学びの深い対談となりました。本当にありがとうございました!
M こうやって、変革に取り組んでいる者同士で失敗も成功もナレッジを共有できると良いですよね。 こちらこそ有意義な対談の機会をいただき、ありがとうございました!