【自治体通信Online 寄稿記事】
自治体DX完全ガイド~season2~#4
(電子自治体エバンジェリスト/合同会社 KUコンサルティング 代表社員/豊島区 元CISO・髙橋 邦夫)
行政手続きのオンライン化を進める際に発生しがちな「従来のリアルな窓口業務」と「オンライン申請受け付け」という二重作業の壁は、どうすれば突破できるか―? 電子自治体エバンジェリストで多数の自治体のアドバイザーを務める髙橋 邦夫さん(KUコンサルティング代表社員/豊島区 元CISO)が、今さら聞けない基礎、見落とされがちなポイント、他自治体事例など自治体DXの全体像を解説します。
窓口職場からの“痛いところを突いた指摘”にどう対応すべき!?
今回は、行政手続きのオンライン化についてお話しさせていただきます。
DXを担当している自治体職員のみなさまは、 窓口職場の職員と自治体DXを進めようとする際、「対面とオンライン、2種類の申請を受け付けなければいけないのは手間だ」という苦情や意見を聞いた経験があると思います。
痛いところを突いた指摘ですね。「そこをなんとか…」と窓口職場に負担をかけて強引に推し進めるわけにはいきません。この問題は自治体DXにおける“ひとつの壁”だと思います。
どうすれば、この壁を突破できるか。私は「来庁された方にも窓口でオンライン申請を行っていただく」ことが、解決策になりうると考えます。
自治体DXは“三方よし”の取り組み
下のスライドをご覧ください。こちらは、私が考えた自治体が手続きのオンライン化を進める理由です。
まず、住民の方にとっては、オンライン化によって窓口に出向く手間が削減されますので、メリットが大きいと思います。特に働いている人からは喜ばれます。オンライン申請が整備されていないと、住民票の請求や転出入届など何かしら役所に届け出をする場合、会社に言って休暇を取得しなければなりません。しかし、オンライン申請なら365日24時間で、自分の都合に合わせて届け出ができます。
自治体職員にとっても窓口応対の時間が削減されます。削減された時間を別の業務に振り向けることが可能となり、仕事の効率化や改善ができます。
さらに、行政にとって届け出内容がその場でデータ蓄積できることは大きなメリットです。 たとえば、コロナ給付金がどの程度進んでいるのか、ワクチン接種がどこまで進んでいるのか、どのような方が打っているのか。こういったことが手に取るようにわかるようになり、必要な手立てを迅速に打てるようになります。
住民×自治体職員×自治体にとり、自治体DXはまさに“三方よし”と言えるでしょう。
行政の質を高めることが可能
このことからも、行政手続きのオンライン化は自治体業務デジタル化の推進とマッチします。
そのためには、内部事務のデジタル化も必要です。せっかく住民の方がオンライン申請してきたにも関わらず、 自治体職員がそれを紙に打ち出して、決裁を回しているようでは仕方ありません。
住民の方が提出してきたオンライン内容をRPAに読み込ませることによって大量処理が可能となります。
そして、データが蓄積されれば、 BI(脚注)やAIというさらに、高度な技術を使って、より行政の質を高めることが可能となるでしょう。
(脚注)BI: Business Intelligenceの略。組織のデータを収集・蓄積・分析し、その結果を可視化して意思決定に活用する仕組み。
今回のまとめ
まとめます。行政手続きのオンライン化を円滑に進めるためには、
- 利用者目線に立って、オンラインで申請してもらえるよう工夫する
- 民間企業などを参考に来庁者にもオンライン申請をしてもらう
- デジタルデバイド対策として、入力を補助する仕組みも考案する
この3点に留意していただければと思います。
リアルな窓口業務とオンラインでの受付業務という “二重作業”の非効率を解消するためにも、 民間企業などの先進的な事例を参考に、来庁者にもオンライン申請をしてもらえる仕組み(人員配置など)を考えてはいかがでしょうか。
そうなりますと、デジタルデバイド対策として入力を補助する仕組みも考案する必要があります。
行政手続きのオンライン化が進むことで、 よりデータに基づく自治体運営が可能となり、よりよい地域社会を築くための基盤が整備できます。このことからも、手続きのオンライン化を進めていただきたいと思います。
(「《自治体DX推進計画における“6つの重点”~4》AI・RPAの利用促進」に続く)
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■ 髙橋 邦夫(たかはし くにお)さんのプロフィール
電子自治体エバンジェリスト
合同会社 KUコンサルティング 代表社員
豊島区 元CISO(情報セキュリティ統括責任者)
1989年豊島区役所入庁。情報管理課、税務課、国民年金課、保育課などに勤務。2014~2015年は豊島区役所CISO(情報セキュリティ統括責任者)を務める。
2015年より総務省地域情報化アドバイザー、ICT地域マネージャー、地方公共団体情報システム機構地方支援アドバイザー、文部科学省ICT活用教育アドバイザー(企画評価委員)、2016年より独立行政法人情報処理推進機構「地方創生とIT研究会」委員。2018年豊島区役所を退職、合同会社KUコンサルティングを設立し現職。
豊島区役所在職中、庁舎移転に際して全管理職員にテレワーク用PCを配布、また庁内LANの全フロア無線化やIP電話等コミュニケーションツールを用いた情報伝達など、ワークスタイルの変革に取り組む。庁外では、自治体向け「情報セキュリティポリシーガイドライン」、教育委員会向け「学校情報セキュリティポリシーガイドライン」策定にかかわる。
自治体職員としての29年間、窓口業務や福祉業務を経験する一方、情報化施策にも継続的に取り組んでおり、情報化推進部門と利用主管部門の両方に所属した経験を活かし、ICTスキルとともにDX推進のための組織の問題にもアドバイスを行っている。一関市のほか、深谷市、飯島町など10を超える自治体のアドバイザーを務めるほか、電子自治体エバンジェリストも務める。
著書に『DXで変える・変わる 自治体の「新しい仕事の仕方」』(第一法規)がある。
<受賞歴>
2015年:総務省情報化促進貢献個人等表彰において総務大臣賞受賞
2019年:情報通信月間記念式典において関東総合通信局長表彰(個人)受賞
2022年:情報通信月間において総務大臣表彰(個人)受賞
<連絡先>kuconsul@ybb.ne.jp