職員の“熱い想い”も伝えたい
藤枝市が担当している講座は2年次配当の専門科目「地方自治論A(前期)」と「同B(後期)」で、1こま100分。現役職員が週替わりで講師を務め、前・後期それぞれ15こま、合計30こまの講義を実施します。
講師を務めるそれぞれの職員自身が取り組んでいる施策の内容や進め方等を毎回の講義テーマとしており、講義内容は“地方自治のリアル”を解説するものとなっています。
市側でこの取り組みを取りまとめている藤枝市理事で同市人財育成センター長の山梨 秀樹さんは「学生さんたちが地方行政の“生の現場”を知る機会は非常に少ないと思います。今回の講義をきっかけに自治体とそこで働く職員の仕事に関心と理解を是非とも深めてもらい、住民に身近な地方自治の大切さ、市民が市政に参画することの重要性、そして行政の真の姿や今後のあり方などを学んで頂きたいと思っています」と抱負を話しています。
各回の講師は関係課が選定しており、課長から若手まで幅広いレイヤーの職員が講師を務めることになっています。
「市民のため、地域社会のためにバリバリやっている快活な職員が、毎回登場します。担当業務のことはもちろんですが、仕事に対する熱い想いと市民に奉仕する元気な姿を学生さんたちに是非、見てほしい」(山梨理事)
毎回の講義後に寄せられる学生からの感想として、
・地方自治が想像以上に私たちにとって身近なものだとわかった
・コロナ騒動のなかで公務員の方たちが今、どんな仕事をしているのか聞きたい
・地方自治は行政機関のみに任せるのではなく、住民の協力が必要だと感じた
・現場の最前線で活動している職員の方に授業をしてもらえることは本当に貴重。この講座で得た経験を、自分が公務員にならなくても、就職先で活かしていきたい
こうした反響が寄せられています。
「地方公務員という仕事への理解が深まり、新鮮な気づきと学びを提供できているようで、うれしい限りです。理論だけではなく、講座を通じて地方行政や市職員の仕事のおもしろさを今後の講義でも届けていきたいですね」(山梨理事)
地方公務員の“実像と醍醐味”を学んでほしい
静岡産業大学 学長補佐(地域連携担当)で同大学総合研究所事務局長の藤村 啓太さんは、現役職員に講師なってもらうというユニークな取り組みを藤枝市と連携して行っている理由について「地元企業や行政機関等と連携した『実学教育』による“人づくり”に本学は力を入れているからです」と話します。
「今年度の地方自治論では、理論だけではなく、具体的な行政分野の政策実務や行政事例を見ながら学ぶ内容にしたかった。日ごろからさまざまな連携・交流を深めてきた藤枝市に相談したところ、即断即決で了解してくれたことから実現しました。藤枝市と本学は従来から産官学連携懇話会、藤枝駅前のサテライト・キャンパスや学生との共同事業などで連携しています」(藤村局長)
~静岡産業大学の概要~
1994年開学。学生数は約2,000名。経営学部と情報学部があるほか2021年度からスポーツ科学部を開設予定。
地域社会が望む人材を実学教育で育成する「ビジネス教育」を標榜。企業等との地域連携を積極的に推進しており、企業名等を講座名につけ社会人が講義する「冠講座」等を行っている。
元学長で株式会社ブリヂストン経営情報部長、米国ブリヂストン経営責任者、宣伝部長などを歴任した大坪 檀(おおつぼ まゆみ)氏が提唱した、自分自身の価値に気づいてもらい向上心やチャレンジ精神を後押しする「大化け教育」でも知られる。現学長は富士製鉄(現新日鉄住金)出身の鷲崎 早雄氏。上写真は静岡産業大学 藤枝サテライト・キャンパス。
静岡産業大学のサイト ⇒ https://www.ssu.ac.jp/
もともと藤村さんは藤枝市 企画創生部(企画政策課、ICT推進室、広域連携課、広報課、情報政策課を統括)部長等を歴任した同市職員OB。今回の取り組みの背景には、自治体と大学教育という両方の現場に接した藤村さんの想いがあります。
「若手職員が入庁数年で自治体を辞めてしまうケースが全国的に見受けられるようです。地方公務員の仕事は理論通りにいかない苦労があり、『思い描いていた仕事と違う』部分があるのは否めません。しかし、そうした苦労を乗り越えた末に想いを込めた事業や取り組みが実現し、地域に貢献することができたときこそ大きな達成感があり、地方公務員のやりがいがあります。そうした地方公務員の仕事の実像や醍醐味を学生に伝えることで、職員採用のミスマッチを防げるし、民間企業に進んでも地域貢献意識の高い“人づくり”につながるはずです」(藤村事務局長)
職員育成の狙いも
教材(下写真参照)は総合計画の概要や市民PR資料などをもとに各課で作成したパワー・ポイントなどの“手づくり資料”。各回の中身に合わせ、視覚に訴えるまとめかたをしたり、データを豊富に駆使する等の工夫を凝らしています。
「わかりやすく伝えるため、各教材のページ数はコンパクトに、5~6枚程度としています」(山梨理事)
すでに地方公務員制度をテーマに講義を行った総務部 人財育成室の山村 浩二さんは「今回の取り組みを聞いた時、初めての経験なので“どうすればいいんだろう?”という声が職員から多く聞かれ、庁内にはちょっとした緊張が走りました」と振り返ります。
「実際に講義の準備を進めていくと、自分自身の業務の棚卸になり、仕事を見つめ直すいい機会になりました。また、地方公務員には自治体業務にそれほど詳しくない住民のみなさんにわかりやすく説明したり、複雑な事業を平易にプレゼンしなければならない場面が多々あります。学生さんへの講義は、こうした住民のみなさんとの対話に近いものがありました。今回の経験は自治体業務の現場でも活かせると感じています」(山村さん)
現役職員が自らの仕事をテーマに大学で講義するという藤枝市と静岡産業大学のユニークな連携事業は、これから社会に飛び出す学生にも、自治体職員にとっても、おたがいにメリットが多い双方向の取り組みだと言えそうです。
「地方自治やその現場についてあまり情報のない人たちに、的確にその姿を語るのは、職員としてもプレゼン能力、説明力の向上に役立ちます。つまり、今回の取り組みは職員育成の狙いもある戦略事業なのです。そして何より、これからの社会を担う若者たちの想いや意見は、行政として非常に重要です。学生さんたちからすでにさまざまな政策提案も頂いており、これからの市政の参考にしたいと思っています」(山梨理事)
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