“イメージの鵜吞み”でいいの!?
バブル崩壊後、イメージとしては、日本経済はずっと低迷を続けているように感じられます。「失われた10年」と言われたものが、いつしか20年になり、「失われた30年」という方さえおられます。
1990年頃を境に、それまでずっと拡大基調だった日本経済にストップがかかったのは確かで、地域経済もなかなか明るい展望は開けません。
しかし、きちんと経済動向を見ていると、この間、ずっと沈みっぱなしだったわけではないことがわかります。それどころか、統計資料を見ると、1990年以降でも景気拡大期の方が後退期よりはるかに長いのです(下グラフ参照)。
もちろん、成長率が小さい、地域や業種に偏りがある、といったことはありますが、少なくとも下がり続けてきたわけではありません。
誤った前提で政策運営すると…
仕事柄、他の自治体の施政方針や予算編成方針を見ることがあるのですが、こんな文言をよく見かけます。
「長引く景気の低迷により…」
「景気回復が見込めないなか…」
これがリーマンショック時などの景気後退期ならいいのですが、2000年代前半の「いざなみ景気」(下の囲み記事参照)の期間や、アベノミクスによる景気拡大期にもこうした文言が使われていました。
~いざなみ景気~
2002年2月から2008年2月までの73ヵ月間続いた好景気のこと。従来の景気拡大期間が最も長かった「いざなぎ景気」(1965年11月から1970年7月までの57ヵ月間続いた高度経済成長時代の好景気)よりも景気拡大期間が長かった。「いざなみ」(伊弉冉、伊邪那美、伊弉弥)は、日本神話の女神。
「だからどうした」と思われる方もおられるかもしれませんが、景気認識ができていないままに政策運営をすることは、大きな間違いにつながりかねません。
おそらく税収が伸びないことを景気の低迷と混同されているのだと思われますが、国全体としての景気は悪くないのに、当該自治体の税収が伸びていないのだとすれば、景気以外の原因を考える必要があります。
それは、その地域の基幹産業の低迷かもしれませんし、働き手の減少によるものかもしれません。そこを見つける必要があります。
原因が特定できていないとすれば、対応も間違ってしまう可能性が大です。
「いい仕事」をするために
景気全般だけではなく、経済にはいろいろな側面があります。
例えば、域内の主要企業が貿易で利益を上げているのであれば、為替市場に目を配る必要があります。土地価格の動向は、固定資産税に直結します。有効求人倍率が上がれば、人を確保することが難しくなり、各種委託料の金額が上がるかもしれません。
行政担当者は、こうしたことにも目を配っておく必要があるのです。
経済を知ることは、世の中を知ることでもあります。どんな商品に人気が集まっているのか、情報を仕入れておきたいところです。新しい技術が注目されているのだとしたら、役所にどんな影響があるか考えておきたいものです。また、どんな企業が伸びていて、どんな経営者が注目されているのかを知ることは、時代の流れを知ることにつながります。
さらに、どんなサービスが注目されているのかアンテナを高くしておくと、仕事に応用できるかも知れません。
経済に関心を持たないということは、世の中を知ろうとしないことであるように思います。世の中を知らないのでは、いい仕事はできないように思うのですが、いかがでしょう?
(「経営者や経営学の本は『役所の仕事』のヒントの宝庫」に続く)
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第1回:「ケチケチ大作戦」で意識が止まっていませんか?
林 誠(はやし・まこと)さんのプロフィール
所沢市(埼玉)財務部長
1965年滋賀県生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。日本電気株式会社に就職。その後、所沢市役所に入庁。一時埼玉県庁に出向し、現在に至る。
市では、財政部門、商業振興部門、政策企画部門等に所属。役所にも経営的な発想や企業会計的な考え方も必要と中小企業診断士資格を、東京オリンピック・パラリンピックに向けて通訳案内士資格を取得。また、所沢市職員有志の勉強会「所沢市経済どうゆう会」の活動を行う。
著書に「お役所の潰れない会計学」(自由国民社)、「財政課のシゴト」(ぎょうせい)、「イチからわかる!“議会答弁書”作成のコツ」(ぎょうせい)、「9割の公務員が知らない お金の貯め方・増やし方」(学陽書房)「どんな部署でも必ず役立つ 公務員の読み書きそろばん」(学陽書房)。
<ブログ>
「役所内診断士兼案内士のヨモヤ」
https://matoko.blog.ss-blog.jp/