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【公務員が関わるべき“もうひとつの公共財”】「対話」は社会のインフラ

    【公務員が関わるべき“もうひとつの公共財”】「対話」は社会のインフラ

    【自治体通信Online 寄稿記事】
    我らはまちのエバンジェリスト #10(福岡市 職員・今村 寛)

    主張がぶつかり合うばかりで話し合いが決裂! これほど非生産的なことはありません。双方向の濃い対話が生まれ、単独ではなしえなかった深い集合知が形成される、こうした超生産的な好循環を庁内で、地域でつくる方法を今回は考えます。

    「対話は社会のインフラ」という隠喩

    『「対話」は道路や上下水道、あるいは通信ネットワークといった社会資本と同じ』―。

    これは「対話」をテーマにしたあるイベントで登壇者からいただいた言葉です。

    その社会に暮らすすべての人が、いつでも安心して安全に使えるようにあらかじめ整備されていて、そこに暮らす人は普段その存在を当たり前のように感じ、それを活用するという意識を強く持ってはいないものの、それがないととたんに困るもの、といった感じでしょうか。

    私はこれまで「対話」の必要性、重要性をいろんな言葉で語り、特に自治体職員には「対話」が必要だということを、自治体の財政運営に長く携わった経験から、予算編成の作業において庁内の「対話」がないということを強調してきました。

    「対話は社会のインフラ」というメタファー(隠喩)は、自治体の予算編成においてどのように置き換えられ、意味づけられるのでしょうか。

    私は拙著『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く」』の中で、「対話」という言葉を「自分と相手、あるいは意見の違う者同士が相互に理解しあうために言葉を交わすこと」と定義していますが、件の「対話は社会のインフラ」と言う場合には、実際に言葉を交わす行為だけを指すのではありません。
    (参照記事:【自著書評】「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く」

    互いが気軽に言葉を交わし合える距離に位置しているということや、言葉を交わし合える関係性にあること、また、言葉を交わし合う場や機会が改めて設けられるまでもなくそこに存在していて、常時使えるようになっていること、さらにその場には心理的安全性が担保され、誰もが口を開きやすく互いの言葉に耳を傾けやすいグラウンドルールとそれを守るために必要なファシリテーターが存在している、といった「使いやすい状態」のことも指している。そう考えると理解しやすいでしょう。

    使いやすい状態にあるということ

    では「対話」をインフラだと例えた場合にそれが「使いやすい状態」とは、どういう状態を指すでしょうか。

    わかりやすいように、私が長く携わった予算編成の現場で考えてみましょう。

    ・予算編成で対立しがちな財政課と現場が、気軽に言葉を交わし合う距離や関係性に位置するためには、互いの権限や責任、おかれている状況についてあらかじめ情報の共有が行われ、互いに理解できていること
    ・予算編成時に限らず常時相談や意見交換ができる仕組みがあり、それを活用する心理的、物理的ハードルが低いこと
    ・予算編成をはじめとする意見交換、協議、議論の場において、互いの意見を尊重し拝聴する関係性がグラウンドルールとして担保されており、そのルールを互いに遵守することがあらかじめ取り決められていて、それを守らせる存在がいること
    といった感じでしょう(下図参照)。

    これらは予算編成のルールや手続き、財政課と現場の事務分掌や役割分担など、仕事のやり方を具体的に定義していくことであり、そのやり方をルーティンとして反復し組織文化として根付かせていくことが可能だと思われます。

    いわば、きちんと機能するものを設計し、使いながら改良を加えていくことが大事、ということになります。

    ただあるだけでは使えない

    しかし「対話」というインフラが使いやすい状態であったとしても、実際に私たちがそのインフラを道具として使いこなせなければ意味がありません。

    私は前出の拙著の中で、『「対話」は、自分自身の立場の鎧を脱ぎ、心を開いて自分の思いを「語る」ことと、先入観を持たず否定も断定もしないで相手の思いを「聴く」ことから成り立っており、「語る」は「開く」、「聴く」は「許す」ともとらえられることから、「対話」=「開く」×「許す」』と説いています。

    「開く」は自分の持っている情報や内心を開示すること。
    「許す」は相手の立場、見解をありのまま受け入れること。
    財政課と現場が互いに内心を開示し、相手の存在や立場をありのまま許容する。

    これは、先ほど述べた予算編成ルールや手続きなどのインフラ設計において情報開示、共有の方法を決めることだけでなく、相手の言うことを否定も断定もせずに耳を傾けるといった「対話」そのもののスキルを身に着け、高めていく必要があります。

    いわば、道路を作ってもその上を走る車を持っていなければ走れないし、車を持っていても運転技術がなければ上手く走ることができない、というようなもの。

    「対話」そのものに対する理解とそれを実践していこうという意欲、そしてそれを実際に行うことができるスキルが必要であり、これらは予算編成に置きなおした場合には、財政課が決める予算編成ルールや手続きとは別に、関係する職員が「『対話』って大事だよね」という共通理解を持つ研修や、その実践を通じた体感によって「対話が大事」と考える個人の価値観や組織文化を育てていくことになるのだと思います。

    インフラはみんなで維持するもの

    予算編成に限らず、私たちが役所の内外で仕事をするうえで不足しているとされる、社会インフラとしての「対話」。

    きちんと整備され、使えるようになるまでは誰かが汗をかかなければならないけれど、使えるようになり、それを使う人が増えれば、世の中は一変し、格段に暮らしやすくなる、それが社会のインフラたるゆえんです。

    インフラが使える状態に整っていない貧弱な基盤の上でスキルもノウハウもない者同士が互いに何らかの思いを届け、受け止めるその不便さ、不自由さは、道路や上下水道などの社会資本を整備し維持管理することを本務とする自治体に籍を置く職員であれば容易に想像できると思います。

    「対話が社会のインフラ」であるという言葉は、誰もが使えるようにあらかじめ整備されているイメージがありますが、自然にそこに存在するわけではなく、必要だと叫んでも誰かがすぐにつくって与えてくれるわけではありません。

    本当に必要な時期にそれが使いやすい状態で足元にあるためには、自分たちで汗をかき、あらかじめ備えておく必要があります。

    しかもせっかくきれいに整備しても、メンテナンスを怠ればすぐに使えなくなってしまいます。

    そしてそのインフラを整備することも維持することも、公共財としてそれを使う、そこに暮らす者たちが等しくその義務を負う。

    「対話が社会のインフラ」という言葉は、そんな意味まで持っている、とても含蓄のある言葉だと思います。

    このコラムで常に申し上げている「自治体と市民をつなぐ対話の架け橋“まちのエバンジェリスト”になりましょう」というのは、まさに私たち自身が対話で人と人をつなぐ「架け橋」というインフラになりましょうということ。

    社会インフラの整備、維持管理のプロである私たち自治体職員にとっては、言いえて妙なこの例えがとても心に響くのではないでしょうか。

    (《行政と市民を対話でつなぐために必要な所作》「対話力」が未熟な私たち」に続く)

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    今村 寛(いまむら ひろし)さんのプロフィール

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    福岡地区水道企業団 総務部長
    1991年福岡市役所入庁。2012年より福岡市職員有志による『「明日晴れるかな」福岡市のこれからを考えるオフサイトミーティング』を主宰し、約9年間で200回以上開催。職場や立場を離れた自由な対話の場づくりを進めている。
    また、2012年から4年間務めた財政調整課長の経験を元に、地方自治体の財政運営について自治体職員や市民向けに語る「出張財政出前講座」を出講。「ビルド&スクラップ型財政の伝道師」として全国を飛び回る。
    好きなものは妻とハワイと美味しいもの。2022年より現職。
    著書に『自治体の“台所”事情~“財政が厳しい”ってどういうこと?』(ぎょうせい)、『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』(公職研)がある。財政担当者としての経験をもとに役所や公務員について情報発信するnote「自治体財政よもやま話」を更新中。

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