立場を超えた「三位一体」のチームを組成 「みょうこうミライ会議」(以下、ミライ会議)は妙高市が2020年度からスタートさせた地域課題解決を目指した取り組み。都市部の企業と地元企業や市民および妙高市の複数の原課による“三位一体”で組成した官民連携チームが協働して政策を立案し、「市長プレゼン」を経て市の事業として予算化したり官民連携事業や民間ビジネスとして社会実装することを目的としています(下図参照) 。
「みょうこうミライ会議」の仕組み(左上はシンボルロゴ) こうした新しい官民連携の取り組みを妙高市が開始した背景には、同市が抱える地域課題があります。
妙高市は新潟県南西部に位置し、2005年に新井市が妙高高原町と妙高村を編入し市政施行。人口3万1,515人(2020年8月末現在)の小規模な自治体で、市域の4割近くが国立公園に指定されている自然豊かなまちです。
日本百名山の秀峰、妙高山をはじめ、火打山、斑尾山などに囲まれ、妙高戸隠連山国立公園に属する妙高山麓一帯は湧出量豊富な温泉やたくさんのスキー場などがあり、観光資源に恵まれた地域でもあります。
1シーズンに積雪量が3メートルを超えることもある豪雪地帯で、雪解け水が豊富にあることから大量の「きれいな水」を必要とする半導体製造工場が妙高市に複数進出しています。また、妙高山麓の景観や温泉、上質なパウダースノーでスキー・スノボを楽しむために同市を訪れる観光客数は年間約570万人を数えます。
妙高市の人口順位は日本にある約800市のなかで650番前後と低位グループに位置するものの、地域資源に比較的恵まれている地方自治体と言えそうです。
妙高市へのアクセス地図(左)と同市のシンボルである名峰・妙高山(右) しかし、そうした同市といえども、多くの地方に共通する定住人口減少と高齢化問題により、さまざまな困難に直面していました。
国立社会保障・人口問題研究所の推計によると同市の定住人口は2020年の約3万1,000人から2040年には約30%マイナスの2万2,000人に減少、高齢化率については同期間で37.1%(全国平均は28.7%)から 45.2%(同35.3%)に上昇すると推計されています。
多くの地方自治体を悩ます人口減・高齢化は、商業施設や公共交通の縮小、労働力不足、産業・経済活動の規模縮小、行政サービスの縮小など深刻な課題を地域に突きつけます。これにより地域基盤は“負のスパイラル”に陥り、衰退がさらなる衰退を招く悪循環に直面している日本の地方都市は少なくありません。妙高市もまた、その例外ではありませんでした。
そこで、複雑化した社会課題を解決し、未来を創り変えるために妙高市が挑戦を開始したのが新しい官民連携プラットフォーム、ミライ会議なのです。
ニーズとソリューションの“合致”を担保 ミライ会議の大きな特徴は、「都市部企業」「市民(地元企業や市民団体など)」「行政(市役所)」の三者によるチームを組成し、この官民連携チームが協働して地域課題の解決に効果的で実行力の高い政策形成を行う点にあります(下図参照) 。
民間から地域課題解決のアイデアやソリューション等を募る専門窓口組織や民間提案制度を新設して官民連携を積極推進する自治体は増えつつありますが、今回の妙高市の取り組みのように、アイデアや政策を創り出すところから外部人材(都市部企業)と地元や自治体が協働するケースはまだ多くはありません。
ミライ会議での政策形成の仕組み また、提案出しに終わらせないよう、行政課題や地域課題を仕様書に定めて課題を明確にするほか、最終的にチームごとに市長プレゼンを行って市としての方針を決定する等、事業化・予算化のスキームを明確にし、社会実装の実効性を高める“仕掛け“をポイントごとに施しています(下図参照) 。
みょうこうミライ会議の特徴 通常、官民連携とはいえ、最終的には発注者(自治体)と受注者(企業等)には“一線”が引かれることから、当初の行政側のニーズと企業側が提供するソリューション等が合致しない“余白”が残される場合もあるとされます。
一方で、ミライ会議では行政・地元・都市部企業が協働してチームとして地域課題解決策となる政策を立案し、市長プレゼンによって市長が方針を決定するという流れをつくることで、「どちらかがどちらかに合わせる」ことなく、ニーズとソリューションが合致するよう担保しています。
そこでミライ会議の取り組みを成功させるうえで大きなポイントとなるのは、立場が異なる参加者で組成されるチームの「一体感と認識の一致」にあると言えそうです。特に、距離的に離れており、必ずしも地域のリアルな実情に詳しくない都市部企業とのコミュニケーションをどうはかるのかが課題です。
そのためミライ会議ではオンラインによる“遠隔ミーティング”を仕組化し、都市部企業とのコミュニケーションを密に行っています。
「ミライ会議は官民連携による知見や議論を大いにかわして課題解決につなげるもので、人材研修でもイベントでもなく、妙高市をフィールドとした課題解決プログラムです。これまで市役所ではオンラインで企業と遠隔で打ち合わせ等を実施することはほとんどありませんでしたが、ミライ会議ではチームを組成した当初からオンラインでのミーティングを頻繁に重ねています。そのため、都市部企業の参加メンバーのみなさんにも妙高市の課題や実情をしっかりお伝えすることができたほか、本音で熱い議論を行うことができていると思います」(妙高市 企画政策課 未来プロジェクトグループの斉藤誠さん)
世界的企業や先端ベンチャーも参画 初めての試みとなる今回のミライ会議では地域公共交通と関係人口創出といった2つの地域課題を妙高市が提示し、「交通チーム」(交通利用者のニーズにマッチした新しい交通手段の整備を検討)と「人の流れチーム」(with/afterコロナ時代における妙高市への新しい人の流れの創出を検討)を組成しています。
「交通チーム」には大手自動車メーカーのダイハツ工業、MaaS(脚注参照) ベンチャーのNearMeが参加しているほか、地元のバス・タクシー会社、市役所からは環境生活課や観光商工課などが参画。「人の流れチーム」には日本マイクロソフト、ワーナーミュージック・ジャパン、インターネットベンチャーのカヤックのほか、地元の観光関連企業・団体、市役所から地域共生課、農林課などが参画しています。
【脚注】MaaS:「Mobility as a Service」の略で、直訳すると「サービスとしてのモビリティ」。移動のサービス化を意味する。一般的には自動車や自転車、バス、電車など、さまざまな交通手段をひとつのサービスとして捉え、シームレスにつなぐ新たな移動の概念と理解されている。たとえば過疎地域で需要に応じて運行される乗り合いタクシー・バス(オンデマンド交通)などが代表的。
この妙高市の取り組みをサポートしているのは、同市アドバイザーを務め、総合計画の策定支援等を行った朝比奈一郎氏が代表を務める青山社中(下の囲み記事参照) 。いわばミライ会議そのものが自治体の政策決定プロセスにシフトチェンジをもたらしうる官民連携プロジェクトと言えます。
~青山社中とは~
政治家・政党向けの政策支援や地域活性のコンサルティング業務、教育・リーダー育成の事業を展開。政官民のパブリックリーダー育成のための学校「青山社中リーダーシップ・公共政策学校」 (https://aoyamashachu.com/aslg )などを実施している。
創設者で代表の朝比奈一郎氏は元経産省のキャリア官僚で、2010年に「世界に誇れ、世界で戦える日本のための人材・政策・組織を創る」を標ぼうする青山社中を設立するため退官。内閣官房地域活性化伝道師、内閣府クールジャパン地域プロデューサー、総務省地域力創造アドバイザーを務め、妙高市のほか那須塩原市(栃木県)、三条市(新潟県)、川崎市(神奈川県)、沼田市(群馬県)等、数多くの自治体のアドバイザーを務める。
上写真は妙高市の入村明市長(右)と青山社中 筆頭代表の朝比奈氏(左)。
ミライ会議は2020年7月のメンバー選定から具体的に始動し、8月に現地視察を兼ねたキックオフミーティングを実施。今後、9月に中間報告会をオンラインで実施して政策アイデアに磨きをかけ、10月に同市に参加者が集まって合宿を実施して最終案をまとめ、市長プレゼンを行い、最終方針が決定されます(下図参照) 。
みょうこうミライ会議の全体スケジュール ※後編 ではキックオフミーティングの模様等をレポートします。
(後編「みょうこうミライ会議」の現場、都市部企業メンバーの驚きと確信」に続く)
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