余力がない…
自治体が公民連携に取り組もうとする場合、次の“3つのあり方”のどれか、もしくは組み合わせで推進することが多いと思います。
ひとつは「公民連携室」といった専門部署で民間の政策アイデアを受け付けるケース。
たとえば私が市議会議員を務めていた横浜市(神奈川)では、政策局に設置した「共創推進課」が民間事業者などからの公民連携に関する相談や提案の受付窓口となっています。
2つめは、自治体がテーマを設定して民間からアイデアを募るケース。
これも横浜市の事例ですが、同市には「テーマ型共創フロント」という制度があり、「住宅地の市有地活用についてのアイデア募集」「消防機器資材の開発改良」「自転車保険の加入促進に関する連携」など多種多様な公共政策領域で民間アイデアを募っています。公民連携の推進と同時に地方自治への住民参画を促すねらいもあります。
そして3つめは、首長のリーダーシップや職員個人の問題意識で実現させるケ-ス。これまで述べた“仕組み”ではなく、属人的な“頑張り”で公民連携を推進するパターンです。
横浜市のような大規模な自治体なら専門部署を設置して専任職員を配置することも可能でしょう。しかし、人的リソースや予算に余裕がなく、仕組みをつくれない自治体では首長や職員といった個人の頑張りが公民連携の推進力となっています。
ところが、もっとも多いパターンは、仕組みはなく、問題意識はあるものの目の前の業務に忙殺され、公民連携をやろうにも余力がない―。こんなケースなのではないでしょうか。
公民連携は、言うまでもなく、地域課題の新しい解決手法として期待され、さまざまな成果も各地の自治体からも出ています。しかし、積極的に取り組んでいるのは一部の自治体にととどまり、なかなか広く波及していないのが現状です。
その理由は、予算や人員などのリソース不足により、多くの自治体で「仕組みがない」ことにくわえ、意欲があっても職員の「余力がない」ことが原因であるように感じます。
大きな地域間格差に
こうした現実は、自治体の将来に黒い影を落としています。
公民連携を推進できる自治体では公共課題の解決にヒト・モノ・カネ・情報の民間リソースを活用できますが、推進できていないところは自治体単独のリソースで地域課題と向き合わざるを得ないからです。その結果、何が起きるか―。
自治行政が専門のある大学教授は「公民連携を推進している自治体は、従来の行政にはなかった地域課題解決の新しい知見を豊富に蓄積できる。公民連携ができていない自治体は前例踏襲型で地域の問題に対処せざるを得ない。そのため、長期的に両者の間には大きな地域間格差が生じるのではないか」と指摘します。
その通りだと思います。だからこそ、公民連携を切実に必要としているのは、仕組みをつくりたくてもつくれない自治体、目の前の業務に職員が忙殺され、公民連携をしたくてもできない自治体だと思います。
「よこらぼ」
さらに、予算が限られているなかで忙しくて手が回らないなかで、「やり方がわからない」「誰に、どう頼んでよいのかわからない」ということも公民連携に踏み出せない大きな“障壁”になっているのではないでしょうか。
その解決策のひとつとして、公民連携のノウハウや事例をシェアできるプラットフォームづくりがあります。
公民連携の進め方だけではなく、地域課題の解決に貢献してくれるパートナー企業なども簡単に探せる仕組みがあれば、日本全体で公民連携がより加速するでしょう(私自身、自治体と民間を橋渡しするプラットフォームづくりに取り組みたいと考えています)。
しかし、現状、そうしたプラットフォームはありません。それでも、どんな自治体もできる公民連携促進の取り組みはあると思います。モデルになるのは横瀬町(埼玉)の「よこらぼ」(横瀬町とコラボする研究所)です。
平成28年にスタートした横瀬町独自の公民連携プラットフォーム「よこらぼ」は、誤解を恐れずに言うと自治体の“敷居”を低くすることで、それまで町独自のリソースだけで取り組んでいた公共領域の課題解決と地域の魅力度向上の取り組みに民間を続々と巻き込むことに成功しています。
縛りが多いと
「よこらぼ」ではフリーテーマで民間から「やりたいこと」を募り、行政と民間がオープンにディスカッションしながら煮詰めます。そして、町は実施にあたっての法的課題の解決や地域をまとめるサポート役に徹します。
「町がやりたいこと」をアウトソースするのではなく、提案から実施まで一貫して民間主導。民間の自由度がきわめて高い点が大きな特徴です。
公民連携を実施する際、「〇〇をなんとかしたい」と自治体が課題設定することは多く、課題解決策すらも自治体があらかじめ決めてしまうことは珍しくありません。
たとえば「健康寿命延伸を目的としたカフェスタイルの高齢者ためのコミュニティ施設をつくりたい。場所はここで、広さはこのくらいで、営業時間は○時から○時まで…」といったようなケースですね。
このような“縛り”が多いほど「民が官に合わせる」ことになり、民間の自由度は低くなります。「予算がないから企業に投げよう」という真意も見えます。
これは非常にもったいない公民連携です。「カフェスタイルの高齢者コミュニティ施設」といった行政が考える解決策より、もっと実効性が高く、もっと低予算で効率的なノウハウや政策アイデアをもっている民間企業などを“縛り”によって結果的に排除してしまっているからです。
ホンネの発信が状況を変える
これとは真逆のスタイルが「よこらぼ」です。民間側のやりたいプロジェクトが先にあり、自治体側は「それが町のためになるならお手伝いしますよ」というスタンス。「官が民に寄り添う」カタチです。
「よこらぼ」で実現した事業やプロジェクトは、IT、ドローン、遠隔医療相談などの先端分野からスポーツやアートのイベントなど、内容は多岐にわたり、地域活性をもたらしています。それまではなかった、上場企業や大学をはじめ、外資系、ベンチャーなどの企業とのつながりも新たに生まれています。
「よこらぼ」によって横瀬町は町の可能性を拡張しています。“縛り”を極力設けず、自治体がサポート役に徹して民間に高い自由度を担保すれば、小規模な基礎自治体でも多様で魅力的な公民連携を推進できることを証明している、とも言えます。
「誰に、どう頼めばいいのかわからないから公民連携に踏み出せない」―。こうした“ニワトリが先か、卵が先か”のような悩みにとらわれている自治体は多いでしょう。そうした場合、思い切って「誰に、どう頼んでいいのかわからないんです」「民間のみなさんの自由な提案が欲しいんです」と発信することで、難しい状況を転換できるかもしれません。
(続く)
本連載「公民連携の進化と深化」のバックナンバー
第1回:自治体が変わる「公民連携」の近未来と課題
参照記事
横瀬町 富田 能成 町長 インタビュー~小さな町が取り組む新しい官民連携のカタチ~人、モノ、金、情報を呼び込み民間の力をダイナミックに活用する
伊藤 大貴(いとう ひろたか)さんのプロフィール
1977年生まれ。2002年早稲田大学大学院理工学研究科修了後、日経BP社入社。「日経エレクトロニクス」編集部記者として産学連携や知的財産、環境などを取材。
2007年に横浜市議会議員に初当選。3期10年を務める。テクノロジー、都市開発、まちづくり、合意形成プロセスなどの政策分野を得意とし、“元祖Twitter議員”として注目された。
2019年5月15日に、元地方議員、現職地方議員が中心となって公共戦略コミュニケーションを支援する株式会社Public dots & Companyを立ち上げ、代表取締役に就任。
著書に、デジタル・テクノロジーが社会に与える影響とこれからの都市の変化を分析した『未来予測シリーズ「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」』(日経BP社、総合監修および執筆)など。テクノロジーと都市をテーマに世界銀行(2018年、2019年)や企業などで多数講演。フェリス女学院大学非常勤講師。
株式会社Public dots & Companyのホームページ
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メール:info@publicdots.com