役所内部の状況
まちメシを広げていくための“実証実験”として最初に開始した市役所では、曜日とお店を各セクションごとで割り当てをして、あるお店だけに注文が偏ることのないように、バランスよく注文ができる体制が作られました。
この割り振りは、幹部等の管理職の方々が「注文しなさい」とやってしまうように見えなくもないので“上からの押し付け”と受け止められかねないリスクもあり、僕のような下々の職員から「助け合い」や「困ったときはお互いさま」の共感をもって職員に周知できたらいいなと思っていました。しかし、スピード重視でそうともいかず、一気に割り当てが進みました。
結果、今のところ、押し付け感はない様子で安心しています。むしろ、お昼になると「同じ釜の飯を食う仲間」のような感覚が甦ったのか、または「これまで不可能だった庁舎内デリバリー」が許された開放感からなのか、職員間でワイワイする姿が見られ、個人的に「職員のESも上がってんじゃん!」と感じています。
シズル感と若年層の巻き込み
とにかくスピードを重視して、最初はFacebookによって情報発信を行なっています。それに加えて、若い人を巻き込むためにも、Instagramを使ってとにかくメニューの「シズル感」が伝わるように設計しました。
また、SNSをやっていることを知られたくない人や、そもそもSNSをやっていない人でも見れるように、無料で作れる簡単なWEBサイトを半日で立ち上げました。ここもレイアウトなどは作り込むことをせずに、スピードを重視しています。Instagramを更新すると自動的にWEBサイトも更新する仕組みです。
また、Facebookの情報発信などを読まれた、地元の新聞記者の方や放送局の方から取材依頼があり、まちのお店の状況を取り上げてくださいました。まちメシの仕組みも発信してくださったので、広範囲で、しかも各世代に情報を届けることができたのです。小さく始めたことがインパクトにつながり、取り上げてくれたのかもしれないと思っています。
地元新聞・テレビが取り上げてくれたことで、まちメシの取り組みは、いま、群馬県内のほかの市町村にも波及しています。
まちメシを展開したそれぞれのメディアの特性をまとまると、次のようになります。
Facebook→30~50代(リーチの分析から)
Instagram→20~40代(若い世代にシズル感を伝え、クチコミを狙う)
新聞とテレビ→40代~高齢者(情報拡散を下支えしてもらえた)
Webサイト→匿名とSNSのない人(今はここをメインに編集)
ちなみに、いくらフォロワー数が多いからといって、注文があるとは限りません。フォロワー数=注文数ではないので、フォロワー数の獲得に走るのはやめた方がいいです。
とにかく「スピード感」
もうお気づきかと思いますが、これまで何も難しいことはなく、ただ単純にひたすら情報を集めて発信して、自分たちでメシを食って、それをさらに広げたという、まちメシは誰でもできる“なんてことのない取り組み”です。
ただし、刻々と変わっていく状況に対して、素早く対応策を考え、変化をして、行動に移していくこと。当たり前だけど、ここがポイントです。
どこの役所も「対応が遅い」と言われます。しかし、それは組織で動くから遅いのであって、個々の動きはとても早く変化することができます。まちメシプロジェクトは個人で反応した【スピード感】と、組織が反応を見逃さずに【管理規則の暫定許可】という変化をしてくれたことがキーになり、結果、たくさんの人を助けることができる選択肢が生み出されたわけです。
地域の経済循環
まちメシでは、新型コロナ対策に限定したものではなく、コロナ後も見据えた取り組みにしています。地域でお金を落とすことの意味を発信し、まちの人や飲食店の方にもお伝えしているからです。
土木学界の論文「消費者の買い物行動時の選択店舗の相違が地域経済に及ぼす影響に関する研究」(脚註参照)によれば、お金は「地元にあるお店で消費すると42~52%」は地元に落ちて、「市外に本社があるチェーン店で消費すると20%」が地元に落ちます。個人の消費行動によって、まちの経済を循環させることもできるし、縮小させる要因にもなるということです。
地域経済が縮小することになれば、行政の税収減につながり、住民サービスの維持は困難、すなわち衰退を加速させることにもなるわけです。地元のお店で消費すれば、お金も落ちるし、店主とのコミュニケーションも生まれるし、心もお金も状況も豊かな生活がおくれます。
もちろん、チェーン店は安くて早いなどのメリットもあります。いいお店もたくさんあります。しかし、こんな時だからこそ、(チェーン店と比べて)ちょっと割高であっても、時間がかかっても、選択するのは地元のお店であってほしいものです。
市民主体のまちづくりプロジェクトに
子どもたちが大きくなって、「ここに素敵なお店があったんだよね」と思い出話にするのか、それとも子どもたちが大きくなって、その素敵なお店で乾杯をして、新しい思い出を作るか―。
お店がなくなれば、その分、地域は衰退していき、人もいなくなります。食べるだけで終わらないのが、まちメシの大切なポイントです。地域を育てる視点や想いを残す、市民主体のまちづくりにつながる取り組みだからです。
新型コロナ感染拡大という不可抗力の災厄により地域の人たちが困っているこの緊急事態下で、従前と同じように公務員が仕事をしていていいわけがない、と僕は思うのです。どうやって窮地に陥っている住民に寄り添うのか。その具体的なアクションを考え、行動しないと、地域の主役である住民や飲食店など地域事業者のみなさんからの信頼はなくなってしまうのではないでしょうか。
言うまでもありませんが、公務員の給与と自治体の活動は住民のみなさんの税金で支えられています。私たちの“雇用主”は住民のみなさんなのです。
何より、地域の人たちの痛みを肌身で感じられるのは、生活者のひとりとして地域の人たちとともに暮らし、ともに人生を歩んでいる僕たち基礎自治体の公務員なのではないでしょうか。だからこそ、国や都道府県の取り組み・施策とは別に、基礎自治体だからこそやれること、やらなければいけないことがあるはずだと思うのです。
そのひとつとして、市役所の仲間をはじめ、このプロジェクトを働きかけている僕たちは、今日も明日も、コロナが収束した後も、どれだけ食べても尽きることがない地元・館林の美味しいものを食べまくります。
(前編はコチラ~「まちメシ」の仕組みや環境整備の進め方などを解説します)
関連記事
「まちメシ」で新型コロナを打ち破れ!~館林市が始めたお互いさまプロジェクト~
早川 純(はやかわ じゅん)さんのプロフィール
荒川区(東京)職員、公益財団法人荒川区自治総合研究所を経て、館林市(群馬)に入庁(商工課商業振興係)。「たてばやしリノベーションまちづくり」を推進している。
<連絡先>
shoko@city.tatebayashi.gunma.jp
※新型コロナ対策で業務が多忙をきわめており、お電話でのお問い合わせ等はご遠慮ください。