シビックプライドの測定方法
多くの自治体には行政評価制度が用意されているため、「シビックプライドをどう測定すればよいか」という質問を受ける。
既存の自治体の事例を参考にして、シビックプライドの有無を測定する方法(指標)は、大きく2つある。それは①居住意向調査、②住民推奨度調査、である。
①居住意向調査
多くの自治体で実施されている居住意向調査は、シビックプライドを測定する指標として一般的に使用されている。住民に対して「今後もまちに住み続けたいか」や「まちに愛着をもっているか」などの設問の数値を集計して算出する手法である。これらにより、住民が住んでいる自治体に持つ愛着や誇りが明らかになると言われている。
例えば、2014年に実施した戸田市(埼玉)の「戸田市市民意識調査報告書」には、問18が「あなたは、戸田市にこれからも住みたいと思いますか(○は1つ)」という設問がある。この問は、住民の居住意向を確認している。同調査の結果は「住み続ける」と「たぶん住み続ける」を合わせると 76.2%である。一方で「たぶん移転する」と「移転する」を合わせると 9.6%である。ここで記した76.2%が高いか低いかは、他の自治体と比較や経年比較をしないと分からない。
そこで時期がやや異なっていて申し訳ないが、参考として他自治体の数値を紹介する。八王子市(東京)の調査には「あなたは、これからも八王子市に住み続けたいと思いますか(○は1つだけ)」という設問がある(2015年、「市政世論調査結果報告書」)。その回答は、「ずっと住み続けたい」(42.9%)と「当分は住み続けたい」(45.7%)を合わせた「住み続けたい」は88.6%となっている。
尾張旭市(愛知)は「尾張旭市まちづくりアンケート」の問3「あなたは、尾張旭市に『愛着』を感じますか」という設問に対する回答は、愛着を「感じている」の割合は64.3%であり、「感じていない」は5.0%という結果である。
よく指摘されることは「居住意向や愛着の数字が高いほどシビックプライドが強い」である。ただし、持家率が高い自治体ほど、居住意向も高くなる傾向がある。この観点から、居住意向調査からシビックプライドを測定することに疑問を持つ学識者もいる。
②住民推奨調査(ネットプロモータースコア)
居住意向調査の限界から、ネットプロモータースコア(Net Promoter Score)を応用して、シビックプライドを測ろうとしているのが川崎市(神奈川)である。
ネットプロモータースコアとは民間企業において使用される「顧客ロイヤルティ指標」で、例えば「企業(あるいは製品やサービス等)を友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか? 0~10点で評価してください」という質問に対する回答をもとに点数(推奨度合)を導き出す調査方法である。
顧客ロイヤリティとは「継続的な商品の購入など、特定の企業や製品・サービスに対して持つ高い忠誠心のこと」を意味する。顧客ロイヤリティが高ければ肯定的なクチコミが広がりやすくなり、新たな顧客を獲得することにつながる。その結果、顧客ロイヤリティの向上が企業の成長につながると主張される。ちなみに、クチコミなど直接の利害関係がない第三者による情報は高い信憑性を獲得しやすいとされ、これを“ウィンザー効果”と言う。
川崎市は、居住意向調査に加え、ネットプロモータースコアも活用している。居住意向調査は、現在住んでいる市民の愛着と誇りを測る指標である。そして市民の市外への推奨度合を測る指標としてネットプロモータースコアを活用している。
具体的には、川崎市への「居住」と「来訪」を友人・知人に薦めるかについて回答を求め、その結果を集計し得点化している。設問は「あなたは川崎市に住むことを友人、知人に勧めたいですか」「あなたは川崎市に買い物・遊びなどで訪れることを友人・知人に勧めたいですか」などを用意している。
関係人口とシビックプライド
ところで、自治体が注目している「関係人口」とシビックプライドには大きな関連がある。
関係人口は「長期的な定住人口や短期的な交流人口でもない、地域や地域の人々と多様にかかわる者」と定義され、「交流人口以上、定住人口未満」とよく言われる。定住人口ではないけれど、交流人口以上であり、地域の人々と多様にかかわる者が関係人口とされ、その地域に住んでいなくても、その地域に関わりたいという人、ということになる。特に地方創生の第2ラウンドでは、この関係人口がキーワードになっている。
なお、国土交通省は、以前「協働人口」という概念を使っていた。この協働人口も関係人口に近い概念と思われる。また自治体の現場では「応援人口」と言われることもあった。協働人口、応援人口などは、関係人口と同じような概念と考える。
この関係人口をよく観察すると、「良い関係人口」と「悪い関係人口」があるように感じている。そして、良い関係人口に変えていくためには、シビックプライドが大いに役立つ。関係人口とは「地域や地域の人と多様にかかわる者」である。「かかわる」ことが主体であるため、実際に目に見える行動である。そして「かかわる」ためには、個人の意識が変わらなければいけない。
シビックプライドは、個人の心に働きかける取り組みである。心という意識が変わらなければ、かかわるという関係人口にはならない。シビックプライドを醸成することにより、良い関係人口を創出していくことにつながる。
そのように考えると、関係人口の前提にあるのがシビックプライドと捉えることができる。関係人口を頑張っていこうと思った自治体は、同時に、あるいは関係人口の前に、シビックプライドを高めていかないと絵に描いた餅に終わってしまう可能性がある。
「活動人口」という概念
筆者は「良い関係人口」を「活動人口」と称している。活動人口とは「地域に対する誇りや自負心を持ち、地域づくりにいきいきと活動する者」と定義している。活動人口を増やしていくことが、人口が減っても元気で、価値ある地域になると考えている。
簡単なシミュレーションをしてみる(下図参照)。現在と未来があり、定住人口が100人から80人に減っていく。しかし、活動人口が20人から30人に増えれば、地域における活動人口率が上昇する。これが「人口が減っても元気で、価値ある地域」を意味する。
地方圏の自治体は活動人口が増えれば、人口が減少しても、地域の価値は高まっていける。さらに言うと、活動人口が増加することは、結果的には、人口の維持、ないしは増加にも寄与するかもしれない。地域で頑張っている人が多く存在すれば、「ここに住もう」という気になるはずである。そのため、活動人口は人口の維持や増加にも貢献する。
そのためには、ひとりひとりでも多くの人に活動人口になってもらう必要がある。その前提としてシビックプライドの醸成が求められる。そうすることにより、自治体の新しい未来が見えるかもしれない。
“呪縛”からの脱却を
最後に指摘しておきたいのは、活動人口の存在は、人口の維持や人口の増加という呪縛からの脱却をもたらしてくれるかもしれない。現在、少なくない自治体は人口を増やそう、維持しようと頑張っている。それはそれでよいと考えるが、現実的には増加できないし、維持できない自治体も多数ある。そこで、「人口が減っても、活動人口で頑張っていこう」という発想もある。
その活動人口を創出していくためには、シビックプライドの醸成が必要不可欠と考える。
一部には「自治体がシビックプライドを醸成するという行為は、上から目線であり、おこがましい」という意見がある。確かに、その考えも理解できる。この場合は長期間を要することになる(数十年が必要になる)。自治体政策の一環として、自治体がシビックプライドの醸成に取り組むことは「攻め」の展開になる。
自発的醸成がいいのか、積極的介入の醸成がいいのかはわからない。しかし、どちらの手法を選択したとしても、シビックプライドが確立できればよいと考える。
(「急速に盛り上がる『SDGs』その課題と展望」続く)
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第1回:定住人口増等に不可欠な「地域戦略」の新しい基軸に
牧瀬 稔(まきせ みのる)さんのプロフィール
法政大学大学院人間社会研究科博士課程修了。民間シンクタンク、横須賀市都市政策研究所(横須賀市役所)、公益財団法人 日本都市センター研究室(総務省外郭団体)、一般財団法人 地域開発研究所(国土交通省外郭団体)を経て、2017年4月より関東学院大学法学部地域創生学科准教授。現在、社会情報大学院大学特任教授、東京大学高齢社会研究機構客員研究員、沖縄大学地域研究所特別研究員等を兼ねる。
北上市、中野市、日光市、戸田市、春日部市、東大和市、新宿区、東大阪市、西条市などの政策アドバイザー、厚木市自治基本条例推進委員会委員(会長)、相模原市緑区区民会議委員(会長)、厚生労働省「地域包括マッチング事業」委員会委員、スポーツ庁参事官付技術審査委員会技術審査専門員などを歴任。
「シティプロモーションとシビックプライド事業の実践」(東京法令出版)、「共感される政策をデザインする」(同)、「地域創生を成功させた20の方法」(秀和システム)など、自治体関連の著書多数。
<連絡先>
牧瀬稔研究室 https://makise.biz/