【自治体通信Online 寄稿記事】
これからの時代の公務員が「幸せ」になる働き方 #5(さいたま市職員・島田正樹)
「なぜ、こんなやり方をいつまでもやっているのだろう…」「従来から続けている事業をよりよくしたい」―。こんな問題意識をもったことはありませんか? 今回は“前例踏襲との向き合い方”について。といっても眦(まなじり)を決するような檄ではなく、周囲を巻き込み、味方を増やすアプローチを考察します。
はじめに
自治体通信Onlineをご覧の皆さんは、ご自身のお仕事を少しでもいいものにしたいという意識をお持ちの方が多いのではないでしょうか。
そういった職員にとって、立ちはだかる壁のひとつが前例踏襲という組織の性質です。
この記事では、そんな前例踏襲について考えてみたいと思います。
前例踏襲=悪いこと?
「前例踏襲」という言葉は、これまでのやり方(前例)をそのとおりにやる(踏襲)という意味です。この言葉自体に、本来は悪いことという意味はありません。
様式も同じものが使えますし、起案書も日時を変えるだけで使えるかもしれない。何より「ここはどうしようかな?」と考える手間を省くことができます。とても効率的です。
むしろ、いいことだと言えるかもしれません。
しかも、行政の場合、同じサービスを継続して提供することも重要なこと。先週利用した人と今週利用した人で、提供されたサービスに差があったら「なんで?」と思いますよね。
にもかかわらず、「前例踏襲」という言葉は、どちらかというと好ましくない意味で用いられています。
私たちは「前例踏襲」という言葉を聞くと(恐らくは自ら言うときも)、前例に倣(なら)うことが本当にいいことなのかしっかり考えず、思考停止して前例のまま行うという意味で理解します。
前例に倣うのは必ずしも悪いことではなく、状況によっては合理的ではあるはずなのですが、それが思考停止の結果である場合に「前例踏襲はけしからん」と問題にしているのです。
前提を疑う
例えば、講座の参加者に答えてもらうアンケートについて考えてみます。属性として性別を回答する欄を見ると、「男性」「女性」だけではなく「その他」や「回答しない」といった選択肢を用意していたり、性別の回答欄自体をなくしているのではないでしょうか。
今は、「男性」「女性」だけの選択肢に違和感を覚える人が多いでしょうが、20年前ならそれほど私自身も違和感を覚えなかったと思います。アンケートを受け取った参加者も疑問に思う人はほとんどいなかったでしょう。
でも、ずっと「男性」「女性」という選択肢しかなかったアンケートに、「あれ? 男性と女性しか選択肢がないのはおかしいのではないか」と気付いた担当者がいたはずです。
それってすごいことだと思うんです。どうしてその職員は「男性」と「女性」しか選択肢がないことに疑問を持てたのでしょうか? 当時は当たり前だったはずなのに。
そこには当たり前にやってきたことにいちいち「なぜ?」と問いかける習慣と、広くアンテナを張って組織の外の情報にも接することが必要になります。
変化を必要とする3つの要素
繰り返しになりますが、前例に倣うのは効率的です。しかも、前例を踏襲せず結果的に「改悪」になってしまった場合、「変えたのはこの人」と非難されるかもしれません。特に管理職になるとそのプレッシャーは大きいでしょう。
裏を返せば前例踏襲は作業的にも心理的にも楽だから蔓延(はびこ)るのです。そこには一定の合理性があります。
だからもし、何かしら前例踏襲を打破して、従来のやり方を変えたい場合、次の3つの要素で考えて上記の合理性を上回るかどうかを関係者と議論できるといいのではないでしょうか。
1つ目は、コスト削減の観点。お金だけではなく職員が作業をしたり、関係者に作業を強いる時間も含めてコストとして考えます。従来の作業と比較して、どのくらいみんなで楽ができるのかという考え方です。
2つ目は、効果の増大の観点。同じコスト(お金と手間)をかけても、効果が大きくなることを示せるかどうかを考えます。
1つ目と2つ目は、具体的に試算してみたり小さく試みることで、検討の精度を高めることもできるでしょう。
3つ目は、リスク回避の観点。社会の変化が速くなっている中で、前例を頼りにするリスクは日に日に大きくなっています。組織も関係者も変化していない中でも、取り巻く社会が変わっていれば、同じように実施することでネガティブに評価される可能性があります。
「今まで10年間続けてきたのに、なんで急に批判されるんだ…」と戸惑うこともあるでしょうが、住む人の価値観やライフスタイルが多様化する中で、今までポジティブに評価されていたことに対してこれからも同じ評価が得られるという先入観は捨てた方がいいと思います。
手ごわい人から理解してもらう
そうは言っても、なかなか変えられないのが組織の中の考え方です。そこには上記のような合理性の議論だけではなく、この連載でも以前にお伝えした「私と他者の価値観のギャップ」なども大きく影響してきます。
(参照:「#3 上司との人間関係があまりよくないと思うなら」「#4 新しい企画に無関心な上司をどう攻略するか」)
前例を変えるためには、組織の中で周りの人の理解を得る必要があります。合理性の議論だけでみんなが理解してくれるならいいのですが、多くの場合、なかなかそうはいかないでしょう。
そんなとき、中でも特に手ごわい人に真っ先に理解してもらうという作戦は、有効かもしれません。いちばん高いハードルを最初に越えられれば、残りの人たちにも理解してもらいやすいでしょうし、その「手ごわい人」が味方になってくれることもあります。何かを変えるときに、キーマンを味方につけるというのは定石です。
とはいえ、それまで長い間慣れ親しんだやり方を変えるのは、そもそも簡単なことではありません。一度や二度認められなかったとしても「私には変える力なんてないんだ」と自分を否定しないでください。
すぐには変えられなかったとしても、前例踏襲を打破したいという思いは大切にし、何回でも挑戦してみるといいのではないでしょうか。その挑戦した時間は、たとえ結果に繋がらなかったとしても、きっと公務員としてのあなたを成長させる糧になるはずです。
(「残業があたりまえでも自分らしく働きたい」に続く)
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■ 島田 正樹(しまだ まさき)さんのプロフィール
2005年、さいたま市役所に入庁。内閣府・内閣官房派遣中に技師としてのキャリアに悩んだ経験から、業務外で公務員のキャリア自律を支援する活動をはじめる。それがきっかけとなり、NPO法人 二枚目の名刺への参画、地域コミュニティの活動、ワークショップデザイナーなど、「公務員ポートフォリオワーカー」として、パラレルキャリアに精力的に取り組む。
また、これらの活動や、公務員としての働き方などについてnote「島田正樹|公務員ポートフォリオワーカー」で発信するとともに、地方自治体の研修や「自治体総合フェア」等イベントでの講演を行う。2021年に国家資格キャリアコンサルタントの資格を取得し、個別のキャリア相談にも対応している
『月刊ガバナンス』(ぎょうせい)や『公務員試験受験ジャーナル』(実務教育出版)をはじめ、雑誌やウェブメディア等への寄稿実績多数。ミッションは「個人のWill(やりたい)を資源に、よりよい社会・地域を実現する」。目標はフリーランスの公務員になること。
2021年2月に『仕事の楽しさは自分でつくる! 公務員の働き方デザイン』(学陽書房)を刊行。
<連絡先>shimada10708@gmail.com