【自治体通信Online 寄稿記事】
これからの時代の公務員が「幸せ」になる働き方 #6(さいたま市職員・島田正樹)
「17時に仕事を終えられるのが魅力」。そんなふうに言われることも多かった地方公務員の仕事。一方で、最近は新型コロナウイルス感染症対策の影響もあり、遅くまで働いている現場の実態も知られるようになりました。今回は、そんな「残業」のことについて考えます。
17時に帰れる? それとも残業があたりまえ?
以前より少なくなったのかもしれませんが、地方公務員を志望する学生の中には、定時で帰れることが志望動機であるひとも少なくないようです。かくいう私もそのひとりでした。
でも、実態は…公務員の皆さんがご存じのとおりです。
ちなみに2017年3月に総務省が発表している「地方公務員の時間外勤務に関する実態調査結果※1」によると、首長部局の管理職を除く一般職員で月に13.2時間、年間で158.4時間というのがコロナ禍の前の地方公務員の残業時間の平均だそうです(下グラフ参照)。
※1:総務省報道発表資料「地方公務員の時間外勤務に関する実態調査結果の公表」(2017年3月29日)
(https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01gyosei11_02000077.html)
ただし、みんなが毎月十数時間残業しているわけではなく、ほとんど残業がない部署がある一方で残業が多い部署もあり、十数時間という残業時間は全体の平均に過ぎません。
実際、上記の総務省の調査でも本庁職員の5.4%が60時間超の残業をしていると報告されています。あくまで私が知る範囲の話ですが、財政や企画など非常に忙しい部署と支所・出張所のようにほぼ定時で帰れる部署とでは大きな差があります。
「地方公務員は定時に帰れるのか、残業があたりまえなのか?」
この問いに対する答えとしては、「部署や担当する業務による」というのが実態です。
残業があたりまえの部署にいるなら
では、たまたま残業が多い部署に所属している場合、職員個人としてはどのようにその状況と向き合ったらいいのでしょうか。
ポイントは「変える」と「適応する」です。
「変える」というのは、その部署の無駄な残業を減らすように働きかけるということです。周囲を巻き込んで係内、課内で無駄な残業を減らせれば大変有意義ですが、最初は自分の仕事を見直すことから始めるのがやりやすいでしょう。
そのうえで、もし上司が後押ししてくれるなら、部署の仕事の見直しまで挑戦してみてもいいかもしれません。長時間労働は、構造的な問題が原因であることも多く、自分の机の上のことだけ考えても解決しない部分が残ります。
いずれにしても、せざるを得ない状況であればこそ、残業を筋肉質―成果の密度が高く、個人としても成長につながるような仕事―にする意識は必要です。
ふたつ目の「適応する」というのは、せざるを得ない状況でも、自らの心身の健康を保つということです。そのために大切なのは、「睡眠」と「居場所」だと考えています。
睡眠が主に身体のために(でも、心のためにも)大切なのは、異論がないのではないでしょうか。22時まで仕事をしても、24時に寝て、6時に起きれば6時間は寝られます。むしろ24時までに寝られない原因として、残業だけではなく、生活習慣、例えば食事の時間、飲酒、SNSや動画視聴なども疑った方がいいでしょう。
居場所は、自分がその職場に居ていいと自分に対して思えるかどうかということです。役割がある、貢献できていると感じられることは、「その職場には自分の居場所があるんだ」という感覚をもたらしてくれます。
逆に、居場所があると感じられなければ、そこにいること自体がストレスになることも。
多くの公務員は、その部署への配属を自分の意志で決められません。そのうえ、配属された職場を居場所だと感じられなかったら、心の負担は非常に大きくなるはずです。
居場所は、職場での関係性とつながっているので、本来ならみんなで考えたい話題ですが、自分ひとりで始められることもあります。声に出しての挨拶やこまめな報告などで周囲との関わり方を少しだけ丁寧にしてみたり、「できたことリスト」や1行日報などでその日の成果を見える化してみたりといったことは、ひとりでも取り組みやすいのでおすすめです。
ひと皮むける修羅場経験
ここからは、残業を「単純な悪者」としてではなく、自分のキャリアの中でどう捉えるのか、ひとつの考え方としてお示しします。
大人が仕事の中で成長する過程では、「くぐっているときにはつらい修羅場のような経験」※2が重要だと言われています。もちろん、長時間働くことだけが修羅場経験の要素ではありません。ただ、厳しい環境の中で与えられた課題を乗り越える時間がひとを成長させるとすると、どうしても長時間労働が避けられないこともあるでしょう。
※2:「働くひとのためのキャリア・デザイン」(金井壽宏、PHP新書)
朝から晩まで無我夢中で仕事に没頭する時期が、その後のキャリアにとって重要な意味をもつことは、感覚的にも分かる気がします。
私にとっては、環境部門での官民連携の仕事に取り組んでいたとき、内閣府/内閣官房で特区や地方創生の仕事を担当していたとき、そして昨年コロナ禍での定額給付金のチームに合流していた期間は、それぞれ「修羅場経験」として成長する機会になりました。
繰り返しになりますが、これは残業して成長しましょうという意図ではなく、厳しい上司や頼れる仲間と深夜まで働くような職場が自分の成長につながる場合があることを知っていただきたいということです。残業を筋肉質にしつつ、心身の健康を保ちながら困難な課題に立ち向かう環境に置かれたら、このことを思い出してモチベーションを維持する材料にしてほしいのです。
逆に、その部署でそのひとだけがたくさん残業をしているケースがあります。
これは要注意です。
そもそも上司のマネジメントが不十分であるケースもあるのでしょうが、残業している本人に対する評価も下がってしまう場合があります。上司が期待するよりも仕事が遅いとか、上司とのすり合わせ不足と評価されかねないのです。
さらには、どの部署に異動しても残業の材料を探して何とか残業しようとする「残業体質」の職員だと思われる可能性もあります。これらは上司からすると、自分のマネジメントに対する評価を下げることにつながるので、高評価どころか迷惑に感じることもあり、結果的に低く評価される可能性もあります。
残業はしなくて済むなら、自分の評価のためにも生活の質のためにも、しない方がいいのは確かです。それでも本当に残業せざるを得ないのであれば、この記事で書いたように、その意味や価値、上司からの評価なども考えながら向き合ってみてはいかがでしょうか。
(「【公務員のジレンマ】空気が読めないやつだと思われたくない?」に続く)
《お知らせ》
~公務員限定対話型イベント~
「自己申告」からキャリアを考える
2021年10月30日(土曜日)
参加費無料
本連載『これからの時代の公務員が「幸せ」になる働き方』を執筆している島田正樹さんら現役公務員でありながらキャリアコンサルタントとして活動している皆さんが公務員限定対話型イベント「『自己申告』からキャリアを考える」というイベントを開催します。
自己申告について日頃考えていることを語り合い、その意味を捉え直す対話型のイベントです。
【日時】2021年10月30日(土)15時~17時(定員30名)
※ 申込期限は10月30日、12時まで
【場所】オンライン(zoomを想定)
【対象】国家公務員・地方公務員・その他公的機関職員
※人事担当者向けの内容ではありません
【参加費】無料
【プログラム(予定)】
・キャリアコンサルタントによる対談「自己申告とキャリアデザイン」(仮題)
・参加者同士の対話(ブレイクアウトルーム)
※ お申込みは下記URLから
https://jikoshinkoku2021ccpss.peatix.com/
* * *
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こうしたことにお心当たりがある方は、きっと得るものがあるはずです。
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島田 正樹(しまだ まさき)さんのプロフィール
2005年、さいたま市役所に入庁。内閣府・内閣官房派遣中に技師としてのキャリアに悩んだ経験から、業務外で公務員のキャリア自律を支援する活動をはじめる。それがきっかけとなり、NPO法人 二枚目の名刺への参画、地域コミュニティの活動、ワークショップデザイナーなど、「公務員ポートフォリオワーカー」として、パラレルキャリアに精力的に取り組む。
また、これらの活動や、公務員としての働き方などについてnote「島田正樹|公務員ポートフォリオワーカー」で発信するとともに、地方自治体の研修や「自治体総合フェア」等イベントでの講演を行う。2021年に国家資格キャリアコンサルタントの資格を取得し、個別のキャリア相談にも対応している。
『月刊ガバナンス』(ぎょうせい)や『公務員試験受験ジャーナル』(実務教育出版)をはじめ、雑誌やウェブメディア等への寄稿実績多数。ミッションは「個人のWill(やりたい)を資源に、よりよい社会・地域を実現する」。目標はフリーランスの公務員になること。
2021年2月に『仕事の楽しさは自分でつくる! 公務員の働き方デザイン』(学陽書房)を刊行。
<連絡先>shimada10708@gmail.com