【自治体通信Online 寄稿記事】
これからの時代の公務員が「幸せ」になる働き方 #10(さいたま市職員・島田正樹)
自治体の春といえば恒例の異動シーズン。さまざまな感情が交差する、1年のなかでもっともデリケートな季節に、実は見落とされがちな“自治体職員の複雑な想い”があります。今回は異動対象にならなかった人たち、“残留組”が抱えているモヤモヤについて考えます。
語られることがなかったもうひとつのモヤモヤ
3月中旬、人事異動の内示を受けてモヤモヤするひとのためのワークシートを制作して、SNSなどでご紹介し、ご連絡いただいた希望者にPDFファイルで配布をしました。(国家資格キャリアコンサルタントとしての活動です)
使ってくださった方からは、「今(3月末)の時点でできることが明確になった」「今(異動前)の職場への想いを自覚できた」「次の部署でもがんばろうと思える元気が出た」といったコメントをいただき、制作者としてホッとしました。
一方で、異動していく転出者を送り出し、異動してくる新しい職員を受け入れる「残留組」もモヤモヤするんだというお話もお聴きしました。
言われてみればそのとおりなのですが、人事異動の話題は「異動する職員」が主役で、異動しなかった「残留組」についてはあまり語られない気がします。
ここまでひと月あまり頑張ってきた残留組の皆さんも疲れが見えるこの時期に、改めて残留組のモヤモヤとキャリアについて考えてみたいと思います。
残留組が支える春の現場
人事異動で各部署の3分の1の職員が入れ替わる地方自治体。転出者から転入者への引継ぎはしっかり行われるのが慣習となっています。
しかし、人事異動の内示が3月中旬~下旬になることもあり、引継ぎに十分な時間をかけられることは稀です。書面に頼る部分も大きく、対面での引継ぎは半日程度の説明で終えるのが実態ではないでしょうか。
そういう状況で4月には職場に残っている残留組が転入者のフォローをし、必要なOJTをし、短ければ2~3日、長くても2週間程度である程度担当業務を担える状態まで仕上げることになります。異動先の前任者に連絡して教わることもありますが、やはり「今ここ」にいる残留組のサポートは重要です。
人事異動制度の副作用ともいうべき春の混乱は、まさに残留組が現場を支えることで何とかやりくりできているといっても過言ではないのです。
残留組のモヤモヤのわけは
そんな残留組がモヤモヤを感じるポイントはいくつかあります。
例えば、「今の部署に5年間いるし、そろそろ…」と在籍期間を根拠に異動を期待したり、どうしてもやりたい仕事があり毎年異動希望を出していたりといった、「異動したかったのにできなかったひと」もいるでしょう。
また、仲の良かった先輩が異動してしまい、代わりに異動してきた先輩とはコミュニケーションが何だかかみ合わないとった「人間関係の変化に悩むひと」や、そのチームの柱となっていた職員が転出してしまって、担当する業務を本当に回せるのか不安を感じるといった「業務遂行に不安を感じるひと」もいることと思います。
ただ、年度はじめでバタバタしている職場の中で、3月までと変わらぬ職場で3月までと同じような業務に取り組んでいる残留組は、誰に見出されることもなく静かにモヤモヤを抱えているのではないでしょうか。
残留組の問題意識を活かしたり、やりたいことを形に
では、残留組のひとたちは、これらのモヤモヤにどのように向き合ったらいいのでしょうか。
これは人事異動をしたひとの場合も同じなのですが、「事実がどうであるかはひとまず脇に置いて、そう考えてみませんか」ということです。自分なりに今回の残留に意味付けをするのががおすすめです。
もし、長い期間同じ部署にいてそろそろ異動するだろうと期待していたり、異動の希望を出していたのに異動できなかった場合には、例えば、今の部署で必要な人材と評価されているのかもしれません。
他にも、自分が職場の中でいよいよベテランになってくることで、たとえ年次が若くても、職場の中で影響力が強くなってきます。このタイミングでその影響力を使い、職場の中で変えたいと思っていたことを実現するなど、自分の想いを活かすチャンスだと考えることもできます。
若くして職場の中での影響力が強くなるということは、担当する事業の進め方などにおいて、同年代が経験しないような事業のマネジメントの一旦を任せてもらえるかもしれません。
私も環境部門でエコカーやエネルギー関連の事業を担当していたとき、ひとりだけ在籍期間が長くなり、チームの中でその事業を引っ張っていたことがあります。そのときはまだ3年目の若手でしたが、今でも思い出す大切な経験です。
いずれにしても、感じているモヤモヤの正体を見極め、自分が好きな働き方や強み、今後のキャリアのことを考えて、今回の「残留」に自分なりに納得できる意味を与えてあげることが大切だと、私は考えています。
残留組のモチベーション、大切にしてますか?
残留組の職員個人の「意味付け」だけに頼るのではなく、組織としても考えるべきポイントはあります。中でも大切なのは、残留組のモチベーションを保つために、上司や先輩が「あなたの頑張りをちゃんと見ているよ」と伝えることです。
組織の管理職(課長)も監督職(係長)も異動してきたひとのモチベーションには、比較的注意が向きます。
「今度異動してきた○○さんは、何か困ってないかな」
「職場のひとたちとうまくコミュニケーションがとれているかな」
異動者はそんなふうに気にかけてもらえます。
でも、残留組はどうでしょうか。
一緒に働いてきた仲間が異動して、本当は寂しいかもしれません。それでも気持ちを切り替えて「残った私たちがしっかりしなくては」と気を張り、異動してきた新しい仲間のために自分の仕事を後回しにしていろいろと教え、伴走するのです。
そして日中に終わらなかった自分の仕事を残業時間に片付けながら、ため息がもれる。
その背中に、上司や先輩は労いや感謝の言葉をかけているでしょうか。
もし皆さんが上司や先輩の立場なら、そんな残留組の職員(もしかしたらご自身もそうかもしれませんが)に、ぜひひと言、声をかけてください。
一所懸命取り組んでいるひとにとって、誰かが自分のことを気にかけてくれていることは、それ自体が大きな報酬になり、モチベーションの支えにもなるはずです。
(「《発注事務の心得》外部の人との仕事では『自責思考』がおススメ」に続く)
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島田 正樹(しまだ まさき)さんのプロフィール
2005年、さいたま市役所に入庁。内閣府・内閣官房派遣中に技師としてのキャリアに悩んだ経験から、業務外で公務員のキャリア自律を支援する活動をはじめる。それがきっかけとなり、NPO法人 二枚目の名刺への参画、地域コミュニティの活動、ワークショップデザイナーなど、「公務員ポートフォリオワーカー」として、パラレルキャリアに精力的に取り組む。
また、これらの活動や、公務員としての働き方などについてnote「島田正樹|公務員ポートフォリオワーカー」で発信するとともに、地方自治体の研修や「自治体総合フェア」等イベントでの講演を行う。2021年に国家資格キャリアコンサルタントの資格を取得し、個別のキャリア相談にも対応している。
『月刊ガバナンス』(ぎょうせい)や『公務員試験受験ジャーナル』(実務教育出版)をはじめ、雑誌やウェブメディア等への寄稿実績多数。ミッションは「個人のWill(やりたい)を資源に、よりよい社会・地域を実現する」。目標はフリーランスの公務員になること。
2021年2月に『仕事の楽しさは自分でつくる! 公務員の働き方デザイン』(学陽書房)を刊行。
<連絡先>shimada10708@gmail.com