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余計な争いに時間を費やすほど人生は長くない

    余計な争いに時間を費やすほど人生は長くない

    【自治体通信Online 寄稿記事】
    自治体職員のための心の運転方法 #2(寝屋川市 職員・岡元 譲史)

    理不尽とも感じられる住民からの要望や上司の指示などに「うぅっ…」となったことはありませんか? 今回は滞納整理というハードな現場で疲弊し切っていた時に筆者が手にした2冊の“恩書”との出会いと、そこから得た学びについて。心が折れそうになる場面でも、ペースを乱されず、前向きになれる“心の運転方法”をお届けします。

    心のドライブを快適にする「障害を避けるための戦略」

    心の運転方法、第2回は「戦略」について語りたいと思います。

    心のドライブを快適にするためには、その進むべき道の途中に余計な障害物がない方がいいですよね?

    できるだけ障害物を避け、可能ならば高速道路のように一切障害物がなく、スピードアップできる道を探る。心の運転方法において、私は「戦略」をそのようなイメージで捉えています。非常に重要な「戦略」というものについて、一緒に考えてみましょう。

    私が「戦略」を意識し始めたのは、寝屋川市に入庁し、滞納整理の仕事を始めて1~2年が経過した頃でしょうか。当時の私の滞納者対応はとにかくトラブル続きでした。窓口では口論になって、最終的には上司と一緒に頭を下げないといけないところまで追い込まれたり、電話口では一方的に怒鳴られ、夜間の電話催告時に電話を切った後、暗くなった執務室で一人泣いたりしていました。

    そんなトラブル続きの私を救ってくれた、恩人ならぬ「恩書」と呼ぶべき本が2冊あります。その1つが中国古典の『孫子』(著:浅野裕一/講談社学術文庫)、もう1冊がデール・カーネギーの『人を動かす』(訳:山口博/創元社)です。

    今回はその2冊を紹介しながら、私が実際にどのように現場で活用し、「余計な戦い」を避けてきたかをご紹介します。

    どうせなら、「戦わずして勝つ」ための努力を

    私が孫子から教わったことは、「戦わずして勝つ」ことの大切さです。孫子が言う「戦略」とは、「余計ない」を「省せよ」ということで、「できる限り戦うな」と言っているんですね。加えて、「戦うことなくこちらの目的を達成した上で、敵を味方に変えることができれば最高だよ」とも説いています。

    『孫子』を読んだ当時の私は、自分自身がこちら(役所)側の正義を振りかざして相手を屈服させようと必死だったことに気づかされました。自ら余計な戦いを仕掛けては無益な衝突を起こして、疲弊していた―。

    つまり、自分で自分の首を絞めていたわけですね。

    『孫子』を読んでからは「どうすれば余計な戦いを生まずに済むか?」を第一に考えることに徹しました。

    一方で、孫子は「必要な戦いは徹底して行う」ということも述べています。本の中にもかなり残酷な行為が書かれているのですが、時代が時代だということと、その真意として「相手の戦意を早期に喪失させて降伏を促し、可能な限り彼我の損失を最小限に留める」狙いがあります。

    「人間」をより深く知ること

    デール・カーネギーからは「人間」をより深く知ることの重要性を学びました。滞納者対応に困っていた私はこの本を何度も繰り返し、ボロボロになるまで読み込みました。

    結論として私が言えることは、今回のテーマとして挙げた戦略―つまり、「余計な戦いを省略し、可能ならば相手を味方にする」ことを実践するにあたって、『人を動かす』ほど役に立つ本はないということです。いくつか私が感銘を受け、実践してきた教えを共有します(以下は『人を動かす』からの引用)

    「およそ人を扱う場合には、相手を論理の動物だと思ってはならない。相手は感情の動物であり、しかも偏見に満ち、自尊心と虚栄心によって行動するということをよく心得ておかねばならない」

    「手きびしい非難や詰問は、大抵の場合、なんの役にも立たない」

    「友を得るには、相手の関心を引こうとするよりも、相手に純粋な関心を寄せることだ。人間は、他人のことには関心を持たない。ひたすら自分のことに関心を持っているのだ―朝も、昼も、夜も」

    「学び」を実際の現場に落とし込む

    これらの学びを、私はどのように実際の現場に落とし込んだか? 具体的にお伝えします。滞納整理の事例ですが、参考になれば幸いです。

    まずは、『人を動かす』で学んだ内容を駆使して滞納者と丁寧にコミュニケーションを取り、なるべく敵対せず、できることなら『岡元さんが言うなら払いますよ!』と言ってもらえるぐらいの関係を築けることを目指します。

    その上で、相手が約束を破ったり、まったくこちらの意見を聞き入れなかったりした場合は、徴収職員としての役割を果たすために徹底して差押えや捜索、裁判所を通じた回収手続きを行うといった対応を取っていました。

    相手を味方にするためには、「その人が困っていることを解決してあげる」という方法が効果的です。たとえば借金問題で困っている人に債務整理の知識を提供し、有能な弁護士を紹介する。時には子育ての悩み相談にも乗るなど、滞納者の問題解決に時間と労力を費やすようにした結果、「余計な戦い」は少なくなった上、滞納者を納期内納付者へと導ける確率が上がりました。

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    「戦いを省略」する戦略を身に着ければ百戦あやうからず

    お互いの限りある命、貴重な時間を「余計な戦い」に費やすのではなく、同じエネルギーを「いかにして余計な戦いを生じさせないか?」「どうすれば問題を解決できるか?」ということに注力しましょう。

    このように、わざわざ目の前の障害物に自ら衝突していく必要はありません。避けられる障害物は避け、どうしても通らなければいけない道に障害物があるならば、可能な限り短い時間で切り抜ける。限られた心のドライブタイムを無駄にしないよう、紹介した2冊を通じて「戦略」を学び、活用してくださいね。

    次回は、「“当たり前”のコントロール」についてお話しする予定です。

    (「心の安全運転に必要な“当たり前”のコントロール」に続く)

    《お知らせ》
    本連載執筆者・岡元譲史さんの「出版記念オンラインセミナー」が開催されます。
    2021年5月に発刊された岡元さんの初めての著書『現場のプロがやさしく書いた自治体の滞納整理術』(学陽書房)の出版を記念した無料オンラインセミナーです(主催・岡元譲史出版記念セミナー実行委員会)。

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    今や、滞納整理の第一人者として研修を開催し、北海道から沖縄まで日本全国で延べ3,700名が参加する人気講師でもある岡元さんが、自著のポイントについてわかりやすく解説します。
    書籍の中に登場する人物のゲスト出演や、出版の裏話など、盛りだくさんの内容。
    ※書籍をお持ちでない方もご参加いただけます。
    日時:2021年9月18日(土) 20:00~22:00(放課後タイムあり)
    場所:オンラインセミナー(Zoom)
    費用:無料
    詳細および申し込みはコチラ
    https://sites.google.com/view/okamotojyoji/home

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    自治体通信への取材のご依頼はこちら

    岡元 譲史(おかもと じょうじ)さんのプロフィール
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    寝屋川市(大阪)経営企画部 企画四課 課長代理 兼係長
    1983年生まれ。2006年に同市入庁後、12年間にわたり、様々な債権の滞納整理に従事し、市税滞納額70%(約25億円)削減に貢献。2020年より現職。
    「滞納整理に価値を見出して伝えることで、受講者の不安や葛藤を取り除く」という独自スタイルによる研修を全国で実施し、6年間で延べ3,700人が参加。受講者が給食費の滞納ゼロを達成するなど、すぐに使えて再現性の高いノウハウを伝えている。
    執筆に「滞納整理のための空地・空家対策」(『税』2018年2月号)など。
    「地方公務員が本当にすごい! と思う地方公務員アワード2018」受賞。
    プライベートでは2男児の父。PTA会長を務めるなど地域の活動も行う。
    2021年5月21日に『現場のプロがやさしく書いた 自治体の滞納整理術』(学陽書房)を刊行。同書の印税は「全額、寝屋川市の発展のために使う」としている。
    <連絡先>okamoto.joji@city.neyagawa.osaka.jp

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