【自治体通信Online 寄稿記事】自分にしかできない仕事を企画・実践できる自治体職員になる#1 (糸島市 経営戦略部企画秘書課 行政改革推進係長・岡 祐輔)
「公務員のリスキリング(職業能力の再開発、再教育) 」という言葉が注目され始めています。おもにDX人材育成の観点から語られることが多いですが、「“まち”をより良くしていくには自治体職員が自ら『学びたい』『おもしろそう』と感じたことを学び続け、リスキリングしていくことが大切だと感じます」と話すのは、糸島市(福岡県) 職員の岡 祐輔さん。岡さんは歯科大学中退後、自治体職員に。その後、本業の傍ら大学院に通学し、MBAを取得。博士課程にも進み、今春には博士号を取得するという、まさに「半生そのものがリスキリング」と言える自治体職員。学びの成果を仕事に活かしてEBPMに基づいた「糸島マーケティングモデル」を推進し、数々の賞も受賞しました。そんな岡さんに「経験に基づいた、自治体業務に活かせる実践的リスキリング」を連載してもらいます。意外にも最初のきっかけは、自分の力不足への焦りや将来への漠然とした不安、だったそうです―。
はじめに
「リスキリング」という言葉が流行していますが、私自身はあまり意識して、リスキリングしようと思ったことはありません。人生や仕事の中で、投資したいと思った分野のスキルに投資してきました。だから、この記事で皆さんが思うリスキリングとは少し違うかもしれませんし、流行っているリスキリングの定義とは異なるかもしれない点はどうぞご容赦ください。
また、リスキリングといえば特に、DX人材にスポットがあたっていますが、私はこれにこだわらず、広く業務などの将来のキャリアアップに役立つスキル と捉えて、これまで私の経験やそこから考えたことを紹介します。
なぜ私が?
さて、「なぜあなたが?」と思われるかもしれません。
私は歯科大学を中退し、糸島郡二丈町(現・糸島市) に入庁、自治体職員として働き始めてから、学部から修士課程(MBA) 、そしてこの春、博士課程(学術博士) まで無事に修了することができました。最初に「これを学ぼう!」と思ったきっかけから、学びの途中で出会う新たな体験を通じて、さらに経済学や経営学で使われる多くの分析方法(例えばマーケティング)、統計学、プログラミングといった分野にも関心がわいてきた結果、必要なスキルを習得してみようとなりました。
そして自治体職員も民間企業で使うようなスキルが必要な時代に変わり、私が学んできたスキルと職場での経験を組み合わせて、新しい事業を企画し、実践 してきた結果、多くの賞をいただくことになり、著書や講演、メディアなどで、自治体職員の皆さんに紹介させていただく機会をもらえるようになったのです。
出会った学びのチャンス
私は、平成15年4月に糸島郡二丈町(現・糸島市) に入庁したての頃は、仕事を覚えることに必死で、自治体職員なら誰もが知っている地方自治法や地方公務員が書かれた小六法を読んだり、業務関係法令を読んだりしていました。環境部門で日々電話や窓口、そして現場で苦情の嵐だったので、クレーム対応に関心がわき、その分野の本をたくさん読み、進んで研修を受け、経験を積むため率先してクレーム処理に立ち向かっていた記憶があります。
しかし、自分にしかできない仕事がしたい、頼られる存在になりたい(社会的価値を創造し、自分の存在価値を高めたいetc.)という熱い思いはいつも胸に秘めていました。思い返せば、もし別の職業に就いていたとしても、同じ気持ちを持ったと思います。公務員の現場に活かせるリスキリングをしたいと感じて、この記事を読んでくださっている人たちは私に似たような熱いハートを持っている人が多いかもしれません。
当時は目の前のことに精いっぱいでしたが、チャンスは思わぬところに転がっています。たまたま職場回覧された雑誌で、行政改革の記事を見ました。今では批判も多い分野ですが、当時はイギリスの民間経営手法を持ち込んだ行政評価やPFI(Private Finance Initiative) 、公会計制度などが注目を集めました。行政改革という言葉はさておき、マーケティングやアカウンティング(会計) 、戦略論などのスキルを応用した手法に、とても惹かれたのです。いつも「何か改善したい」「新しい取り組みをしたい」という気持ちを持っていたので、たまたま転がってきたチャンスにも気づけた のだと思います。
興味と学び~パッと惹かれた瞬間を大事に
不安やコンプレックスもリスキリングのチャンス
自治体職員は、法学や経済学を学んできた人が多いと思います(今は少し違うかもしれません)。もちろん私のように歯学科中退なんて人は周りにはいないし、きちんと体系的に学んだ分野がなく、地方自治体職員として活かせる専門的な能力は何もないことがコンプレックスでした。
それに「自治体職員である以上、将来どこに異動になるかわからない」「だからこそ、どこに行っても使える能力が欲しい」と思ったし、「今のうちに自分に投資し、もっと能力を高めて、自分にしかできない仕事を企画・実践できるようになりたい」「それによって自分のいるまちや職場に貢献したい」と強く思いはじめました。そこで、「公共経営に民間経営手法を活かす」ために、当時海外で活躍されていた経営者やエリートサラリーマンのスキルとして注目されていたMBA(Master of Business Administration=経営修士) を目指すことを決意したのです。
これも日頃から仕事でのスキルアップやキャリア形成に関心を持っていて、学びのチャンスに敏感になれたおかげで、一歩踏み出すきっかけになったと思います。
第2回以降の記事でも紹介したい大事なことですが、リスキリングに「好き」な度合いは重要です。関心を持った記事などは、自分が好きなスキル開発の分野である可能性が高い と思います。
ぜひ、皆さんもパッと惹かれた瞬間を大事にして、リスキリングのチャンスを考えてみてください。
■ 岡 祐輔(おか ゆうすけ)さんのプロフィール
糸島市 経営戦略部企画秘書課 行政改革推進係長/MBA(経営修士)/Ph.D(学術博士) 2003年に糸島郡二丈町(現・糸島市)に入庁。民間の経営手法を公共経営に活かすため、仕事の傍ら、九州大学ビジネススクールに飛び込み、MBA取得。九州大学大学院博士課程で経済地理学を専攻・修了し、2023年3月に博士号を取得。2023年4月より現職。
受賞歴 2015年:QBSビジネスプランコンテスト準優勝 2016年:内閣府地方創生☆政策アイデアコンテスト・地方創生大臣賞 2017年:内閣府地方創生☆政策アイデアコンテスト・帝国データバンク賞 2018年:HOLG地方公務員アワード賞、QANアワード最優秀賞
■ 著書紹介
※書名をクリック・タップすると版元の著書紹介ページに移動します。
『スーパー公務員直伝! 糸島発! 公務員のマーケティング力』 (学陽書房) 「アイデアがあってもどうせ組織では何もできない」など、これまで政策アイデアの作り方や実現方法に悩んでいた方に、経営学、特にマーケティング手法をベースにした政策アイデアや実現方法を自治体の事例に沿って解説。1年目の新人職員はもちろん、若手・中堅職員・ベテラン・管理職問わず、新しいことに挑戦したい方ならどなたにとっても仕事の羅針盤となる一冊。
『地域も自分もガチで変える! 逆転人生の糸島ブランド戦略』 (実務教育出版) 福岡県の最西端に位置する「糸島市」。海があるだけ・自然があるだけ、だったまちが「行ってみたい」「住んでみたい」人気のまちへ。置かれた場所で挑戦しては壁に当たり乗り越えてきた公務員の実話。お役所仕事のイメージを覆し、「糸島ブランド」を発信し続ける著者が、若手公務員・若手サラリーマンへ、その手の内を明かす。
『ゼロからわかる! 公務員のためのデータ分析』 (学陽書房) 自治体職員の方々に向けて、自身のスキルひとつでデータを思う存分に活用できるようになるための考え方と方法やアイデアをとことんわかりやすく紹介。日々の実務で求められるアンケート、インタビュー、行政評価といった方法をより正確に、かつ効率的にすることはもちろん、その実践事例、今日から活かせるスキルが手に取るようにわかる!
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