【自治体通信Online 寄稿記事】
自治体職員の志事〈しごと〉#2(伊勢崎市 職員・橋本 隆)
自身の経験等を通じて「自治体職員という生き方」を全力でまっとうするための、仕事ならぬ“志事
<しごと>”のあり方、向き合い方を伊勢崎市職員・橋本 隆さんに語ってもらう本連載。今回は橋本さんの「志事との出会い」をお伝えします。それは、自治体職員ならありがちなピンチの中にありました!
ピンチに向き合ってみる
人生には、大きな失敗や思い通りにならないピンチを迎えることがあります。私の場合は、転職後に初めて携わった都市計画の仕事でピンチを経験しました。
私は、自治体職員に転職する前に建設会社で9年間ほど働いていました。建設会社を退職するまでは大阪に勤務していましたが、関西国際空港建設事務所に出向していた際に、公務員の経験がある上司や先輩から「公務員の仕事の魅力」を教えてもらいました。設計や施工だけでなく、住民と接する仕事ができることに魅力を感じていた中で、民間経験者採用試験を実施していた地元群馬県内の伊勢崎市を受験し、入職が決まりました。
地元の群馬県内とはいえ、私は伊勢崎市内に住んだことがありませんでした。このため、私は入職当時、町名や土地勘が全くわからず、都市計画の知識もなく、電話や窓口での対応に大苦戦。民間経験採用でありながら即戦力になれない自分に「やはり30歳過ぎの転職は失敗だったのか…」と不甲斐なさを感じる日が続きました。
そんな中で「都市計画をゼロから学ぼう」と思い立ち、民間時代の退職金全額を元手に夜間大学院への進学を決めました。仕事を続けながら、2年間の修士課程という志事(しごと)に挑戦することにしたのです。
できそうなことに挑戦してみる
私が夜間大学院で学び始めると、少しずつ都市計画の内容も理解できるようになりました。あまり器用ではない私は、勤務時間中には電話や窓口での対応に追われてしまい、都市計画の専門的な内容まで考える余裕がなかったのです。しかし、夜間大学院では気持ちを入れ替えて、ゆっくり落ち着いて考えることができました。仕事でピンチを迎えた私は、志事の研究のおかげで、仕事の理解が深まりました。そして知識が増えた分、電話や窓口でも自信を持って対応できるようになり、新しい業務に対しても余裕を持って考えられるようになりました。
私自身も、こうなることは全く予想していませんでしたが、少しだけ勇気を出して挑戦することで困難を乗り越えられたのです。そんな経験を通して「失敗は、諦めたときに本当の失敗になる。諦めない限り、失敗は成功の糧である」ということを学びました。
楽しければ続けてみる
人事異動で都市計画課を離れ、また修士課程を修了してからも、都市計画の研究だけは続けていました。プライベートであれば研究を続けることができますし、異動後の新たな気付きによって、異なる視点からの研究もできました。そして、「仕事で疑問→志事で調査研究→仕事で自信→志事でさらに調査研究」という良いサイクルが生まれました。
こうして研究を開始してから10年が経った頃、恩師から「博士論文を書いてみたらどうか」との助言があったのです。当時、私はもう40歳を過ぎていたため、少し悩みましたが博士課程で学び直すことにしました。また長い学生生活が続くかと思いましたが、10年間の研究業績が認められ、修業年限短縮による1年間で修了することができました。
ピンチの中にも志事の原石がある
私の転職後のことを振り返ると、ピンチを迎えて嫌な気持ちにもなりましたが、今となっては良い思い出になっています。長い人生には良いときも悪いときもあり、どんなに悪いときでも諦めないことが大切ではないかと思っています。悪いときには頼れる人に相談し、独りで抱え込まないようにすると良い結果に繋がることが多いと感じています。
研究という志事のおかげで、本業の仕事が理解できるようになりました。都市計画という仕事が全くわからなかった当時、夜間大学院で学び直すという決心ができなければ、しばらくわからないまま過ごしていたかもしれません。また、研究という志事を始めたおかげで、その20年後に書籍の出版という新たな志事を経験することにも繋がりました。そう考えると、ピンチの中にも志事の原石が転がっていて、その原石を磨くことで宝物になったりするのかもしれません。
誰にでも、大きな失敗や思い通りにならないピンチがあるでしょう。でも、諦めないで、前向きに取り組むことが大切だと感じています。
(続く)
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■ 橋本 隆(はしもと たかし)さんのプロフィール
群馬県 伊勢崎市 都市計画部 都市開発課長
1972年生まれ。9年間勤務した建設会社を退職後、2003年伊勢崎市入庁。都市計画課、群馬県県土整備部都市計画課(派遣)、企画調整課、土木課、区画整理課長、都市計画課長を経て、現職。総合計画や都市計画マスタープランの策定のほか、県内市町村初の景観行政団体や世界遺産登録の実務を経験。
博士(工学)、技術士(建設部門)、一級土木施工管理技士。「地方公務員アワード2022」を受賞。
職員研修講師や外部講演会講師を数多く務める一方で、職員自主研究グループ「人財育成研究会」代表、全国5,000人以上の公務員が参加するオンライン市役所の「都市計画のゲンバ」自主ゼミ長を務める。
20年間ほど参加している市民団体「いせさき街並み研究会」の活動で、まちづくり功労者国土交通大臣表彰(2016年)等を受賞。