【自治体通信Online レポート】
シン・行政 #2:農林水産省のYouTubeチャンネル「BUZZ MAFF」その成長要因を探る(後編)
省庁や自治体等のYouTubeチャンネルとしては異例の登録者10万人を突破した農林水産省の「BUZZ MAFF(ばずまふ)」(https://www.youtube.com/channel/UCk2ryX95GgVFSTcVCH2HS2g )。前編「異例の10万人超え『農林水産省のBUZZ MAFF』」では独自のディレクションのあり方に焦点を当てて人気チャンネルに成長した要因を探りました。後編ではリスナー(視聴者)の共感を生んだ“BUZZ MAFFの想い”に迫ります。
《成長のカギ~其の参》若手の志をカタチにする!?
前編で触れたように、BUZZ MAFFは農林水産省の正式な業務の一環であり、制作にかかった材料費、農山漁村等でロケした際の出張費等の費用が支払われている事実はあまり知られていないかもしれません。また「業務時間の2割をBUZZ MAFFの制作に充てて構わない」という省内ルールも明確化されています。
制作には費用も時間もかかるので当たり前と言えば当たり前ですが、およそ2兆円の予算をもつ農林水産省全体から見れば微々たるものとはいえ、これはとりもなおさず「BUZZ MAFFに税金を投入する」ということ。率直に言うとボトムアップではすんなりとは通りにくい“思い切ったアイデア”と言えそうです。
それが可能になったのは、BUZZ MAFFの提唱者である当時の江藤 拓 農林水産大臣がこれらの細かいルールも指示したから。なぜ、そこまでBUZZ MAFFに強い思い入れをもったのでしょうか?
江藤元大臣はBUZZ MAFFを提唱した理由について「(日本の農林水産業の魅力を伝えるBUZZ MAFFを通じて)ひとりでも多くの若い担い手が生まれてくれればいい」(「TBS NEWS」公式YouTubeチャンネルの【政治をSHARE #7】より)という“対外的な目的”のほか、「(農林水産省の)若手官僚の発想で成し遂げられるもの」(同)が必要だったためと話しています。BUZZ MAFFには“農林水産省の組織内部に向けたねらい”もある、ということです。
【政治をSHARE #7】:https://www.youtube.com/watch?v=puOGsKzKFbY
自治体においても同じですが、行政では法律・制度をつくり、それに深くかかわるという役人本来の仕事ができるようになるのは経験を積んだ中堅以降。そのため「(20代の若手時代は)日本の農林水産業に貢献できているという実感はもちにくいかもしれない。しかし、せっかく志をもって入庁してくれたのだから、(若手官僚を)もっと大切にしなければならない」(同)と江藤元大臣は力説します。
こうした想いが“若手の志を実現する場づくり”としてのBUZZ MAFF開設に結びついたようです。
《成長のカギ~其の肆》「おもちゃ箱」を貫く“横ぐし”!?
チャンネル創設時からBUZZ MAFFのコンテンツをつくり、現在は専任で運営を担当している農林水産省 大臣官房広報評価課広報室 広報企画第1係の白石 優生さんも「若手の僕らとってBUZZ MAFFは“日本の農林水産業に貢献したい”との想いをカタチにできる大切な存在。ひとりでも多くのリスナーさんに見てもらい、日本の農林水産業の魅力を伝えたい。ですから、役所がやることなので炎上させられませんが、登録者数や再生回数にはこだわっています」と話します。
普通に暮らす一般の人たちにとっては垣間見る機会すら難しい「若手官僚のピュアな志」―。それがBUZZ MAFFの“横ぐし”であり、だからこそ「おもちゃ箱」のように多種多様なコンテンツが詰め込まれているのにもかかわらず、そのどれもがブレない「BUZZ MAFFらしさ=BUZZ MAFFの世界観」で貫かれています。
そうした“若手のピュアな志をカタチにする”というBUZZ MAFFの世界観を象徴するコンテンツのひとつが、再生回数97万回超(2021年10月時点)を記録した「【BUZZMAFF】農水省から皆様へのお知らせ」です。
BUZZ MAFFの方法論③
~若手の志をカタチにする~
2020年3月に公開したこの動画は、新型コロナウイルスの影響で需要が低下した花の消費拡大を図るため、家庭や職場に春の花を飾って楽しむことを提案する農林水産省の取り組み「花いっぱいプロジェクト」の周知啓蒙をはかるもの。
何もない殺風景な会議室でプロジェクトの趣旨・内容を堅い表情で淡々と説明し始めると、シーンが切り替わるごとに少しずつ花が増え、ついにはたくさんの花に埋もれるという予想外のエンディングに(そして、なぜかサングラスもかけている)。
公開後、SNS上で「官僚がこんなことをやるなんて」「花が増えていくのがシュール」と大きな話題を呼び、BUZZ MAFFの存在が世に知られるきっかけとなった動画です。
動画本編のURLはhttps://www.youtube.com/watch?v=Mlky1vJI0EY
この動画を制作(出演も)した白石さんは「リスナーさんに『おもしろい』と感じてもらえるものをつくりたいと思っていましたが、何かをねらったわけではなく、その時に自分たちができることをしただけ」と話します。
「“花いっぱいプロジェクトの周知を図りたい”と大臣から指示があったのは動画公開の前日。1日で制作しました。本来、花卉(き)の生産者さんにとって卒業式等がある3月は最盛期。しかし、新型コロナウイルスの影響でイベントが軒並み中止され、丹精こめて育てた花は行き場を失い、生産者さんは経済的にも困っていました。ですから、職務として大臣の指示をすぐにカタチにしなければという責任感があったのと同時に、一刻も早く行動することが生産者さんの支援につながる、という想いがありました」(白石さん)
「花がどんどん増えていくアイデアは数分でまとまりました。ひらめいたというか、花はたくさんありましたので、とにかく花をたくさん使う動画にしようと。動画を制作するために僕らが使えるものは、何もない会議室とたくさんの花だけ。そうした場所で、できることを反射的にしただけ。たくさんのリスナーさんに見てもらえたおかげで生産者さんの窮状を周知でき、プロジェクトに賛同してオフィスやリモートワークをしている家の中などで花を飾ってくれる人が増えました」(同)
「この動画を公開する前は、どれも再生数は100回前後という状況。“花いっぱいプロジェクト”の動画がバズったことでBUZZ MAFFの可能性を感じると同時に、僕らのやるべきこと、僕らにしかできないことが少しずつ見えてきました」(同)
おもしろさ、わかりやすさだけではなく、一般の人にとっては遠い存在だった官僚の“素の想い”がモニター越しに伝わってくることが、10万人もの登録者数を集めた大きな推進力だったのではないでしょうか。
最後に…「俺らのBUZZ MAFF」の現在地とこれから
取材の最後に、BUZZ MAFFの取り組みを振り返って、シティプロモーション等、情報発信に取り組む自治体にヒントになりそうなことはないか、白石さんに聞きました。
「若手官僚ならではのフレッシュな視点で企画制作している点も“BUZZ MAFFらしさ”をつくっています。長く農林水産省に務めていればいろいろなことが当たり前になって、一般のリスナーさんが“おもしろい”と感じるネタを見過ごしがちになると思います。しかし、若手はまだ役所に染まっていませんから、先輩・上司が当たり前に思っていることにも新鮮な驚きや発見がいろいろあります」(白石さん)
「それと同じように“外の目”で自分たちのまちを見つめなおすことで、必ず新鮮で魅力的なネタに気づくことができるはずだと思うんですね。その際に、経験はないけど志と想いだけはあって“役所の当たり前”に染まっていない若手の意見も聞いてもらえたら、と思います」(同)
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♪ 農林水産業
アピれ! アピれ!
俺らのBUZZ MAFF ♪
こうした歌詞で始まる、10万人登録を記念してつくられた「BUZZ MAFFテーマソング」の動画(2021年10月公開)は現時点で約3万回視聴されています。そこに書き込まれた150件以上のコメントはBUZZ MAFFの現在地を物語り、これからの姿を暗示しているようです(以下、コメントから抜粋引用、原文ママ)。
「バズマフのお陰で農林水産省がとても身近に感じられるようになりました」
「子どもの保育園の卒園記念DVDを見る母のような気分」
「なぜか涙腺にくるものがある…」
「みなさんの活躍は海外にも届いていますよ」
「BAZUMAFUを観て、国産の農水産品を意識するようになりました」
BUZZ MAFFという農林水産省のプロジェクトは行政組織の垣根を飛び越え、行政を支える公務員と社会の間に新しい関係をつくりだしつつあります。「俺らのBUZZ MAFF」は、制作チームのものでも農林水産省のものだけでもなく、日本の食を担う生産者やリスナーを巻き込み、国民と行政が想いを共有する場へと進化していきそう―。そんな予感がします。
(前編「異例の10万人超え『農林水産省のBUZZ MAFF』」はコチラ)
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