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住民満足度向上の鍵は「職員ES」にある

    住民満足度向上の鍵は「職員ES」にある

    【自治体通信Online 寄稿連載】新・自治体組織論①(船井総合研究所 経営改革事業本部 地方創生グループ・関根 祐貴/元埼玉県庁職員)

    国全体の少子高齢化などを背景にした「税収減」「住民減」「職員減」といった深刻な問題に自治体が直面している一方で、行政の役割はますます増大しています。そこで、社会構造の大きな変化に対応しうる“新しい自治体組織論”について、現在は船井総研で自治体の地方創生などを支援している関根 祐貴さんに考察してもらいました。行き着いたのは、あらゆる組織の原点である“ヒト”、つまり自治体職員についての本質論です。

    【目次】
    ■「住民CSの向上」を目標に掲げる自治体が増加
    ■ 民間企業では常識化
    ■ 想定以上の施策効果が期待
    ■「自治体の生産性」にも影響
    ■ 住民満足度との関係
    ■ 職員ESの向上が必要な理由
    ■ 政策目標の効果も左右

    「住民CSの向上」を目標に掲げる自治体が増加

    自治体の皆様はCS(Customer satisfaction)という考え方をご存知ですか。

    日本語では「顧客満足」と訳され、民間企業において重要な運営スコアに設定していることが多い要素です。顧客満足の向上は売上増加や市場シェア獲得につながるとされ、各企業が商品・サービス提供を通じて顧客満足の向上を目指しています。

    自治体においても「自治体のCSは住民満足度」との考えから、調査などを通して住民満足度を測る取り組みも多くの自治体で行われています。政策目標のアウトカム指標として取り入れている事例も見られます。

    CS自体は耳にされたことのある方も多いのではないでしょうか。一方でES(Employee satisfaction)というワードはどうでしょうか。

    ESは「従業員満足」と訳され、CSに対し、企業・団体で働く社員や従業員の満足度を示すスコアです。こちらの言葉はあまりなじみがないかもしれません。

    民間企業では常識化

    実は行政機関では庁内で働く「職員の満足度(ES:Employee satisfaction)」を考える機会が大変少ないと感じています。これは地方自治体に限らず国や第3セクター等でも同様です。

    民間企業においてはESの向上はもはや常識となっています。それは、ESの向上がCSの向上と“正の相関関係”にあると認識されているからです。

    行政サービスを提供している行政においてもそれは同様で、サービス提供者である自治体職員ESの向上は、サービス受益者である住民のCS向上につながることが想像できます。

    想定以上の施策効果が期待

    行政サービスといっても行政庁・行政職員の役割は“公共の福祉の増進”であり、民間企業でいうサービス業とは性質が異なります。

    しかし、それぞれの施策に携わる行政職員自身の心身が不満足の状態=ESが低い状態では、住民に対し満足のいくサービス提供を行うことはできません。

    近年は公務員でありながらも民間サービス業の様な業務を求められる施策も増加していることから、これまでのような公権力の行使に留まらない業務、サービス業に類するような業務も求められる時代になりました。

    例えばここ10年ほどで全国の自治体のブームとなった「シティプロモーション」はまさにそういった施策と言えます。

    どのように自治体のシティプロモーションを進めていくかの施策設計は大変重要ですが、その施策を展開する自治体の職員が業務に対するポジティブな考え方を持っていれば、想定した施策効果以上のよりよい施策実施も可能となるでしょう。

    「自治体の生産性」にも影響

    自治体職員自身の満足度、職員ESの向上はこれからの行政サービスの行くすえや行政施策の成否、果ては住民満足の向上にまで密接に関係しています。

    そして何より、税収減、住民減、職員減の3つの危機に直面する地方自治体においては、それぞれの職員がこれまでよりハイパフォーマンスで業務にあたらなければこれまでと同等以上の行政サービスを提供できない状況に直面しています。

    職員ESの向上は職員のパフォーマンス向上、組織間連携強化にも良い影響を与える指標です。

    住民CSの向上、民間サービスに類する行政サービスの増加、行政組織の危機を含め、これからの行政組織は職員ESの向上による自治体組織全体の活性化が必要である局面に突入していると言えるのです。

    住民満足との関係

    ESとCSの関係は「サービスプロフィットチェーン理論(Service Profit Chain, SPC)」という考え方に基づきます。

    これは1990年代にサービス・マーケティングの先駆者であるハーバード・ビジネススクールのへスケット教授(J.S.Heskett)と、サッサー教授(W.E.Sasser,Jr.)らが提唱した理論です。

    この理論では、サービス業の消費がサービスの生産と同時に行われることから、直接顧客に接しサービスを提供する従業員の満足度を向上させることが大変重要であるとされています。

    そして従業員満足であるESの向上を行うことにより、顧客満足であるCSの向上を生み、そしてCSの向上から発生する企業利益が従業員に還元され、再びESが向上するポジティブサイクルを回すことが可能となります。(下図を参照)

    ES向上がCS向上につながり、その結果、企業業績も向上するとともに社員のESがさらに向上する好循環が生まれる
    ES向上がCS向上につながり、その結果、企業業績も向上するとともに社員のESがさらに向上する好循環が生まれる

    職員ESの向上が必要な理由

    では行政においてサービスプロフィットチェーンの考え方を取り入れた場合どのような体系となるでしょうか。

    企業の場合のアウトプットは顧客満足、アウトカムは企業利益でしたが、自治体の場合のアウトプットは「住民満足」および「他自治体競争優位の実現」、アウトカムは観光移住等の「関係人口増加」と「住民シビックプライド醸成」ということになります。

    つまり行政職員が高いESのもと高い質の行政サービスを行うことで、このまちに住んでいること、またこのまちの住民であることに満足感を覚え、地域産の物的コンテンツ・シビックプライドの評価を副次的に高めることができるサイクルが発生します。(下図を参照)

    職員ESの向上が住民CSの向上をもたらし、その結果、関係人口増加やシビックプライド醸成など自治体の魅力が向上するとともに職員ESがさらに向上する好循環が生まれる
    職員ESの向上が住民CSの向上をもたらし、その結果、関係人口増加やシビックプライド醸成など自治体の魅力が向上するとともに職員ESがさらに向上する好循環が生まれる

    自治体が提供するサービスに満足することで「このまちを好きになる」好循環フローを生むことが期待できます。

    このように職員ESと住民CSは深い関係があるのです。

    政策目標の効果も左右

    しかし先述のように、住民CSには気を配っているにも関わらず、職員ESに意識を置いている自治体は全国でもほとんど見られません。そのような中で住民CSの向上を政策目標に掲げても効果は出ないでしょう。

    そしてこの傾向は平成30年度に弊社・船井総研が行った自治体ES調査の結果として如実に現れることになりました。

    次回はそのスコアを民間企業と比較しながら見ていくこととしましょう。

    (第2回「自治体職員の約6割が仕事に不満を抱えている」に続く)

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    関根 祐貴(せきね ゆうき)さんのプロフィール

    埼玉大学教育学部英語学科卒業後、埼玉県庁に入庁。2018年に株式会社船井総合研究所に入社し、地方創生支援部 地方創生グループに所属。
    前職の埼玉県庁では道路事業、介護保険事業、予算調整に関わる。「地方・東京の両方を元気にしたい」との信念から船井総合研究所へ入社。地域企業の活性化と行政の活性化を同時に達成するコンサルティングを行っている。

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