自治体組織が円滑に運営されている秘密とは?
弊社・船井総研では、これまで多様な規模の自治体様をご支援してまいりました。大きくは都道府県から、小さいところでは人口1万人程度の町村まで様々です。
それぞれの自治体に地域ごとの特色はありますが、一方で「組織が円滑に運営されているか否か」という評価軸は、全国どこでも一律に変わりませんでした。
連載第3回目の今回は、弊社のコンサルティングの経験から、どのような状態が職員ESの高い組織であるかというロールモデルとして、実際のbest自治体組織事例を見てみましょう。
(参照記事:「住民満足度向上の鍵は『職員ES』にある」)
不得意な施策にチャレンジできる理由
【best事例】東日本のある自治体の場合
この自治体は、関東近郊に位置しますが都市部というわけではなく、のどかな田園地帯が広がる地域にあります。人口3万人程度と大きな自治体ではありません。またこの地域しか持たないような観光資源は多くなく、シビックプライド醸成のためには、これまで以上の施策が求められる自治体です。
しかし、職員の皆様のモチベーションの高さは、これまでご支援した自治体の中でも非常に高いものでした。
この自治体では、職員のパフォーマンスも高く、住民に対してよいサービスが提供できていることから、地域における行政職員の役割が非常に大きくなっていっています。職員もその期待に応え、全国でも導入事例の少ないふるさと住民票などの施策にどんどんチャレンジしています。
そのため職員のやりがいも大きく、地元を全国に積極的にアピールし、自分の自治体を知ってもらいたいと業務にあたっています。職員ESを高めることで住民CSも高まり、住民からのフィードバックで再び職員ESを向上させるというサイクルが回っている好事例と言えるでしょう。
例えばこの自治体では、全国へのシティプロモーション・情報発信を重要施策に掲げています。これは自治体として重視する施策に加え、首長が自ら主導して発案したものです。
シティプロモーションという施策は、地域情報発信・人財育成・テレビを中心とした情報コンテンツ構築など、自治体があまり得意としていない業務が多いことが特徴です。こういった施策をやれと言われたら、一般的な自治体職員は悩み倒してしまうでしょう。
しかし、こちらの自治体では、特に課長職に市長の方針と同じベクトルで動く職員が多数備わっています。いずれの職員もフットワークが軽く、多方面からアイデアのタネを取り入れ、施策実行・コンテンツ作成を行っています。
予算の問題もあり、実はまだすべての住民にシティプロモーション施策のサービス提供ができているわけではありませんが、これらの施策は既にサービス提供を受けている住民からの評価が非常に高く、「早く自分の地域でも自治体の施策提供を受けられるように準備を進めてほしい!」と、未整備地域の住民から多数のラブコールが来ています。
情報収集を奨励する組織風土
また、各職員が自分の業務に関する情報収集にかける時間を惜しまず、業務時間内外にかかわらず、常にアンテナを立てて最新の情報収集をする意識が備わっています。東京都心から車で片道2時間を要するこちらの自治体ですが、業務に関係する勉強会やセミナーがあれば、どんどん参加して知識の取得を進め、また組織も広く情報収集をすることを奨励しています。
定期人事異動が通例の行政組織にあって、一般行政職が特定の業務に対する意識を高く持ち続けるのは難しいものがありますが、こちらの自治体では、担当している職員が自分の職務の分野について、当たり前に自己研鑽を行っていることが強みと言えます。
ひとつの施策に多数の課が参画
また上下左右の相互フォロー、情報交流についても積極的に行い、ひとつの施策を多数の課から多角的に検討することが通例になっています。
通常の自治体では、施策が単独の課のみで運用されるのが一般的ですが、例えば公共施設建築に関し、開発段階から施設建築部門・ICT部門・情報施策部門など、複数の課が参加する横連携組織ができています。
例えば、庁内のある職員が勉強会やセミナーを受講します。するとその勉強会の資料や活動報告は、すぐに庁内掲示板に開示・共有されるというような、クロスファンクション体制がある事も大きな特徴です。
よりよい施策をつくり実行するため「そのプランよりも、こういった視点を加えたプラン作りをした方がいい」「多くの住民が情報の発信者となれるような体制のためには具体的にこう検討を行った方がよい」など、活発な意見交換が行われています。
プロジェクト型の業務体制
実際にこの自治体の6次産業化は「ブランド戦略担当課」「商工観光担当課」「シティプロモーション担当課」「情報政策担当課」「企画政策担当課」をはじめ、全庁一体となって業務を行っています。単なる関係各課ということではなく、プロジェクト型の業務体制を整えられていることからも、横断連携の強さがうかがえます。当たり前の連携体制のように見えますが、実際に各職員の意識レベルで徹底することは、非常に難易度が高いものです。
ここには、首長のリーダーシップに基づいて、職員が自ら考え行動し、自分たちの自治体をよりよくするために一丸となることができる組織体制があります。驚くべきは、首長のリーダーシップに課長等の役職者が感化され、これに主事から嘱託職員まで全職員の一枚岩の体制が完成されていることです。
さて、best事例をご覧いただきましたがいかがだったでしょうか。次回は、best事例自治体のように職員ESを高めるためには、どのような要素を意識すべきなのかをお伝えしてまいります。
(第4回「5つの要素が『職員ES』を高める」に続く)
本連載「新・自治体組織論」バックナンバー
第1回 住民満足度向上の鍵は「職員ES」にある
第2回 自治体職員の約6割が仕事に不満を抱えている
関根 祐貴(せきね ゆうき)さんのプロフィール
埼玉大学教育学部英語学科卒業後、埼玉県庁に入庁。2018年に株式会社船井総合研究所に入社し、地方創生支援部 地方創生グループに所属。
前職の埼玉県庁では道路事業、介護保険事業、予算調整に関わる。「地方・東京の両方を元気にしたい」との信念から船井総合研究所へ入社。地域企業の活性化と行政の活性化を同時に達成するコンサルティングを行っている。