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高齢者の安心は「地域の介護」がつくる

    高齢者の安心は「地域の介護」がつくる

    【自治体通信Online 寄稿連載】高齢者が続々と介護を“修了”できる「大東市式総合事業」の仕組み③(大東市職員・逢坂 伸子)

    大東市(大阪)の職員、逢坂 伸子さん(保健医療部高齢介護室 課長参事/理学療法士・保健学博士)に、介護予防の実効性が高く、即効性もある同市独自の総合事業の全体像を徹底解説してもらう本シリーズの第3回。今回は、公民連携で地域資源をフル活用した「大東市式総合事業」が目指す“地域のあり方”を解説してもらいました。


    【目次】
    ■ 「不足する介護職」を確保する仕組み
    ■ 「施設入所」は抜本的解決にならない
    ■ 「現場の意識」にも課題
    ■ 組織を挙げて“覚悟”を

    「不足する介護職」を確保する仕組み

    大東市の総合事業のポイントは「住民主体の通いの場」と「住民主体の生活支援」を主軸としているところです。総合事業の全てのサービスがこの住民主体の地域資源と繋がるように組み立てられています。
    (参照:公と民の地域資源フル活用で介護給付費「年間3億円超削減」)

    本市の総合事業の方針は「不足する介護職の確保」。ですから、総合事業によって、それまで軽度者に費やされていたプロの介護職のマンパワーを重度者への支援にシフトすることができたので、介護のプロはプロでなければできない重度者のおむつ交換、体位変換、食事介助、入浴介助などの身体介護に集中できるようになりました。その結果、寝たきりのひとり暮らしの方も、施設ではなく、在宅で生活できる地域になりました。
    (参照:住民と事業者に「意識改革をしてもらう」)

    これからますます増え続ける後期高齢者。その一方で介護に関係する労働者と国や自治体の財源は減り続けます。さらに、地域医療構想では入院のベッド数は増えません。ひとりの人が長くベッドを占拠してしまうと、他に入院が必要な人がいても満床で入院できなくなります。

    これから入院する率が高い85歳以上人口が急激に増える中、病院のベッドはできる限り多くの人でシェアしなければならなくなります。だからこそ、おむつ交換、検温、血圧測定、配食、食事介助が自宅に提供できる「地域の介護」や医療体制を整えて、超急性期が過ぎれば、寝たきりのひとり暮らしの住民を含めて、できるだけ早期に退院できる地域包括ケアが必要となります。

    「施設入所」は抜本的解決にならない

    この地域包括ケア体制が整備できず、入院して寝たきりでひとり暮らしだから退院できない、もしくは退院するまでの調整に手間取っている間、本来は多くの人でシェアしなければならないベッドを占拠することになってしまうのです。

    そうすると自宅で生活していて急変した、もしくは事故に遭った住民を救急搬送しても、近隣の医療機関から満床だと受け入れを拒まれてしまうことになり、以前、東京で起こった妊婦のたらい回しの高齢者版が起こります。

    地域の受け皿体制がとれていないところでは寝たきりのひとり暮らしの住民が病院から退院するには自宅ではなく、どこかの施設に入っていただくことになります。

    社会保障費だけを考えると入院が長引くよりも施設入所の方が給付の負担は少なくて済むかもしれませんが、在宅に比べると施設入所の負担は大きく、しかも、住民にとっては住み慣れたところに戻ってこられないことが一番悲しく、寂しい事なのではないでしょうか。

    地域包括ケア体制が整えられない地域では、近隣の医療機関に入院できないだけでなく、「退院しても自宅では暮らせない人が出てきてしまう」ということになります。

    「現場の意識」にも課題

    自治体職員の多くがこの近い将来起こりうる未来予想図を知りません。福祉分野、介護保険分野、健康分野の職員も、真剣にこの未来予想図を見据えて立ち向かっているかというと、疑問です。

    目の前のことで精一杯、国が、県が言うことをこなすだけ、などという言葉をよく耳にします。我々基礎自治体の職員は国や県のために雇われているのではなく、住民のために、しかも今、目の前にいる住民だけでなく、将来の住民のことも含めて考え、市民サービスを提供するために雇われているはずなのに、実際の現場の意識は???です。

    とにかく、本市では総合事業により、寝たきりのひとり暮らしの方でも自宅で生活できる地域になりました。
    (参照:公と民の地域資源フル活用で介護給付費「年間3億円超削減」)

    そして、自宅で生活を送っている住民たちが急変した時に近隣の医療機関に救急搬送しても受け入れてもらえるベッドのシェアができる地域包括ケア体制が整ってきたということです。

    “元気な高齢者づくり”に大きな成果を出している大東市のオリジナル体操「大東元気でまっせ体操」をする同市の市民(大東市ホームページより)
    “元気な高齢者づくり”に大きな成果を出している大東市のオリジナル体操「大東元気でまっせ体操」をする同市の市民(大東市ホームページより)

    組織を挙げて“覚悟”を

    大東市式総合事業を他の自治体で取り入れることは可能だと考えています。但し、それにはまず、現場の職員だけでなく、首長、議会を含めて「住民のために腹をくくる」ことが必要となります。

    これまで当たり前だと考えられていた介護サービスのあり方を根本から見直し、方向転換を図るためには行政や介護保険の関係者であるケアマネジャー、介護サービス提供事業者だけでなく、利用者や将来の利用者である住民の意識も変えなければならないからです。
    (参照:住民と事業者に「意識改革をしてもらう」)

    また、ケアマネジャーや介護サービス提供事業者たちには意識だけでなく、一度は要支援認定者になってしまった住民を自立=元の生活を取り戻すための自立支援のための技術が必要ですので、その技術向上研修やOJTが必要となります。

    そして、何よりも、ベースに要支援レベルへの支援は介護給付サービスに頼らず、住民が力を出し合う「住民主体の通いの場」と「住民主体の生活支援」が必要となります。

    これら全てのノウハウは大東市に蓄積されています。そして、大東市以外の自治体に合致させるアレンジ力も兼ね備えています。本市ではこの総合事業を成功させるノウハウを有償で現地支援を含めたパッケージとして提供しています。

    (「難しい『住民主体の介護事業」を推進するコツ』」に続く)

    本連載「高齢者が続々と介護を“修了”できる『大東市式総合事業」の仕組み』のバックナンバー
    第1回:公と民の地域資源フル活用で介護給付費「年間3億円超削減」
    第2回:住民と事業者に「意識改革をしてもらう」

    逢坂 伸子(おうさか のぶこ)さんのプロフィール

    医療法人 恒昭会 藍野病院に勤務後、大東市役所に入庁。IBU 四天王寺大学人文社会学研究科 人間福祉社会専攻 博士前期課程 修了、大阪府立大学総合リハビリテーション学部研究科 生活機能・社会参加支援領域 博士後期課程 修了。厚生労働省「地域づくりによる介護予防推進支援モデル事業」広域アドバイザー(2014年4月~2016年3月)、同省「地域づくりによる介護予防推進事業検討委員会」検討委員(2016年4月~2017年3月)などを歴任。現職は大東市役所 保健医療部高齢介護室 課長参事(2019年11月末現在)。

    <連絡先>
    電話:072-870-0513(大東市 保健医療部高齢介護室 直通)
    メールアドレス:ohsaka@city.daito.lg.jp

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