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難しい「住民主体の介護事業」を推進するコツ

    難しい「住民主体の介護事業」を推進するコツ

    【自治体通信Online 寄稿連載】高齢者が続々と介護を“修了”できる「大東市式総合事業」の仕組み④(大東市職員・逢坂 伸子)

    “元気な高齢者づくり”を推進することで、取組み開始後、わずか3年で年間3億円の介護給付費削減等の大きな成果を上げている「大東市式総合事業」。その大きな特徴のひとつは「住民主体の介護予防と介護サービス」が定着していることです。連載第4回は、なぜ、こうしたカタチの公民連携を機能させることができたのか、その理由や方法などを大東市式総合事業を編み出した同市職員の逢坂 伸子さん(保健医療部高齢介護室 課長参事/理学療法士・保健学博士)に解説してもらいました。

    【目次】
    ■ “出前講座”で介護保険の未来を伝え続ける
    ■ 住民に“選択”してもらったこと
    ■ 立ち上げ支援は3回の指導員派遣とDVDのみ
    ■ 元気になれば“仲間”を誘ってくれる
    ■ 自分自身のためにやっていること

    “出前講座”で介護保険の未来を伝え続ける

    大東市(大阪)の「住民主体の通いの場」である「大東元気でまっせ体操」は2005年から普及を開始しました。
    (参照:公と民の地域資源フル活用で介護給付費「年間3億円超削減」)

    通いの場づくりは、ひたすら“出前講座”の繰り返しです。それも、こちらから講座を開くのではなく、他の目的で集まっている住民たちのところに出向いていく形での講座です。

    そういった場面で、話を聞いている人たちに直結するような話題を盛り込みながら
    「介護保険の仕組み」
    「元気でいるために必要なこと」
    「自分自身が、地域が、何をすればどうなるのか」
    「また、やらなければどうなるのか」
    これらを伝え続けました。これは今もなお継続しています。

    2005年当初もそうですが、本市の介護保険料の推移と今後の推計も隠さずに出しています。介護保険を使う人が増えると保険料は高くなる。元気な高齢者が増えると保険料が高くなることを防ぐことすら夢ではないことを伝えています。
    (参照:住民と事業者に「意識改革をしてもらう」)

    住民に“選択”してもらったこと

    「効きまっせ、若うなりまっせ、寝たきりならんで儲かりまっせ」を大東元気でまっせ体操のキャッチコピーにしています。

    「大東元気でまっせ」体操の一例
    「大東元気でまっせ」体操の一例

    軽度なうちは介護保険サービスを使っても1割の自己負担額はそれほどの負担ではないでしょうが、重度になって、オムツを代えてもらって、お風呂だって好きな時間に入れない状態で、1割負担といっても年間10万円や20万円支払っている人も少なくありません。

    そうした事実をお伝えしながら今、少しの努力=週1回の大東元気でまっせ体操をすることで、寝たきりになるのを防ぎ、重度になれば自己負担になる年間20万円でハワイ旅行に使うか、どちらがよいかを住民に選択してもらってきました

    ですから、大東元気でまっせ体操のキャッチコピーは「効きまっせ、若うなりまっせ、寝たきりならんで儲かりまっせ」なのです。

    そして、本市の住民の多くは介護の自己負担ではなく、元気なままでハワイ旅行に行くことを選択したということです。

    年を取ると足腰が弱ることは当たり前と思っていた人たちは、年を取っても足腰が弱らず、元気なままでいられる方法を知ると目の色が変わります。諦めなくてもいいのだと。

    立ち上げ支援は3回の指導員派遣とDVDのみ

    出前講座では、他の目的で集まってきた人たちなので、最初のうちは興味がなさそうな態度の人が多いのですが、講座の半ばを過ぎる頃には前のめりの姿勢に変わってきました。

    また、「いい話やったなぁ」だけでは活動は始まらないので、必ず体操の体験をしてもらい、「地域で10人以上が集まって週1回体操をするなら」を条件に支援内容も伝えました。

    支援内容といっても立ち上げのための運動指導員を3回派遣し、DVDを1枚渡すだけです。後は半年に1回の体力測定と年に1回の口腔機能評価、年に数回の運動指導員、栄養士、歯科衛生士の講話と実技指導のみです。

    「通いの場には健康意識の高い人は集まるが、それ以外の人は参加しない」という声をよく耳にしますが、本市では「自分だけの健康づくりでなく、周辺の虚弱な人を誘って元気になってもらうと介護保険料の値上がりをより防ぐことができ、もっと儲かることになる」という意識づくりをしてきました。

    元気になれば“仲間”を誘ってくれる

    住民たちは最初のうちは介護保険料の値上げ予防の気持ちで誘ったのかもしれません。しかし、体操のグループの中に虚弱な高齢者がひとりでも混ざると、さまざまなよいことが起こり始めました。

    元気な高齢者はもともと元気なので、体操をしてもそれほど劇的な変化はありません。しかし、虚弱な高齢者は上がり幅が大きいので、劇的な変化が出てきます。

    ヨロヨロと杖をついて参加していた人がしっかりと歩けるようになって杖を忘れて帰って行く人、痛みが取れて諦めていた大阪・梅田の百貨店までショッピングに出かけることができるようになった人などがたくさん出てきています。

    そのような劇的変化を遂げた人がいると、また同じような虚弱な高齢者を誘いたくなるのです。そうするうちに今では大東元気でまっせ体操の参加者全体の4分の3ほどが二次予防対象者を含めた虚弱な高齢者となっています(下グラフ参照)

    「大東元気でまっせ体操」参加者の内訳
    「大東元気でまっせ体操」参加者の内訳

    自分自身のためにやっていること

    本市でもコミュニティ意識は希薄だったと思います。しかしながら、その地域で生活している住民の価値に合わせたものの伝え方とすると、多くの方が“我が事”として参画してこられました。
    (参照:高齢者の安心は「地域の介護」がつくる)

    しかし、住民たちは誰も「行政参画している」とは思っていないでしょう。行政のためではなく、あくまでも自分自身のためにやっていることなのです。誰かを支援することですら、将来の自分のためです。そこをハッキリと示したことが“我が事”と感じていただけたのだと思います。

    また、本市では昭和60年には介護ボランティアが存在していました。無資格ながら障害者の機能訓練や機械浴の補助にも入るボランティアです。難病患者のグループワークや銭湯での入浴介助、車椅子の移動介助までやってのけるボランティア団体です。

    障害者の介護に比べると虚弱な高齢者と一緒に活動するのは簡単なことですから、このような団体の存在が住民の力を信じさせてくれたのだと思います。

    (事前の実態調査で浮かび上がった『数々の矛盾』」に続く)

    本連載「高齢者が続々と介護を“修了”できる『大東市式総合事業」の仕組み』のバックナンバー
    第1回:公と民の地域資源フル活用で介護給付費「年間3億円超削減」

    逢坂 伸子(おうさか のぶこ)さんのプロフィール

    医療法人 恒昭会 藍野病院に勤務後、大東市役所に入庁。IBU 四天王寺大学人文社会学研究科 人間福祉社会専攻 博士前期課程 修了、大阪府立大学総合リハビリテーション学部研究科 生活機能・社会参加支援領域 博士後期課程 修了。厚生労働省「地域づくりによる介護予防推進支援モデル事業」広域アドバイザー(2014年4月~2016年3月)、同省「地域づくりによる介護予防推進事業検討委員会」検討委員(2016年4月~2017年3月)などを歴任。現職は大東市役所 保健医療部高齢介護室 課長参事(2019年11月末現在)。

    <連絡先>
    電話:072-870-0513(大東市 保健医療部高齢介護室 直通)
    メールアドレス:ohsaka@city.daito.lg.jp

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