【自治体通信Online 寄稿記事】
自治体職員の「装合計画」#1(元東京都職員/イメージコンサルタント・古橋 香織)
「信頼できそう? そうでもなさそう?」―。人の第一印象は0.2秒で決まるとされます。そんな脊髄反射のような一瞬で「その人の内面」なんてわかりませんから、思っている以上に「見た目」は重要。では、今日のあなたは初対面の住民からも信頼してもらえそうな「見た目」を熟慮して当庁しましたか? 自治体によってあったりなかったりする服装規定。これまで見過ごされがちだった「公務員の装い」を元東京都職員でイメージコンサルタントの古橋 香織さんが連載します。第1回は、古橋さんがこのほど出版した著書への想いについて。
都庁職員からイメージコンサルタントへ
2021年11月に初の著書である『公務員男性の服~普通の服で好印象・信頼・清潔感は出せる』(ぎょうせい)を出版いたしました。イメージコンサルティングラボColor Commonsの古橋香織と申します。
私は2020年に東京都庁を退職し、現在は日本で唯一の「パブリックの領域に強みを持つイメージコンサルタント」として政治家や公務員の方々に服装の提案やイメージコンサルティングを行っております。本書はその中のメンズファッションについての着こなしのメソッドを、公務員というちょっと特殊なお仕事にあてはめて執筆したものになります。
さて、今この文章を読んでいるみなさんの中に「イメージコンサルタント」というお仕事について知っている人はまだまだ少ないのではないでしょうか。イメージコンサルタントのお仕事は一般に周知されているスタイリストとは少し異なり、人の内面や社会的地位を斟酌し、その人の人生の一端を服装でサポートをするお仕事です。
このため私の仕事のゴールとしては「見た目が良くなる」だけではなく「自信が出る」「自己肯定感が向上する」といった内面の変化を見据えてお仕事を遂行します。そこで得られたメソッドをふんだんに詰め込んだものがこの本書です。
今回はありがたいことに自治体通信Onlineさんから連載の機会をいただくことになり、この書評は記念すべき第1回目としてお届けさせていただきます。
公務員業界初のファッション本が生まれたきっかけ
私自身も実感がありますが、公務員は他の職種よりも「世間の厳しい目」に晒されながら生活をしています。それは生活様式であったり立ち居振る舞いであったり、そして身に付けるものにまで及ぶといっても過言ではありません。
いうまでもなく派手な色味や柄、ハイブランドなどの華美なものを身につけるのは禁物であるし、少しでもおしゃれであろうものなら一部の住民の目、そして所属全体の空気が許しません。いわゆる「出る杭」ってやつです。
一方で服装のルールも抽象的な言葉がまとめられているだけであることが多いため、着るものの正解がわからないという問題が発生します。特に近年の服装の軽装化の流れの中では、メンズファッションのアイテムの数が増え、季節の変わり目では「何を着れば正解なんだ!?」問題が発生します。
その一方で着こなしを真似したい先輩や上司とった服装のロールモデルも特におらず、できるのは服装にこれといったこだわりがない周囲の真似をしていくことくらい。それゆえ、本書にも書きましたが、まさしく役所に入ると服装にこだわることは許されない「黒と灰色の世界」が広がっているわけです。特に民間から公務員に転職した男性職員からは、公務員男性の服の着こなしについてカルチャーショックを受けたという話もちらほら聞きます。
それくらい役所の世界ではおしゃれは禁物、にもかかわらずカジュアルな服装を推進しているからもう何を着ていいかわからない。特に住民に近い市区町村、とりわけ地方にいけばいくほどその傾向は顕著であるということも、全国津々浦々の公務員のみなさまとの繋がりの中で得られた気づきのひとつです。
マイナスを普通にするのは簡単!
そのような中、デジタル化や採用活動の変化など、地方自治体を取り巻く環境は変革の中にあります。新たに習得すべき知識や実務能力が山積する中、そのすべてのスキルの土台になるのが服装であり印象です。公務員の服装、もう少しアップデートできないだろうか…。そういう思いを抱えてやきもきしている中で、この本の出版が決まりました。
~本書のPart~
Part1 思った以上に「公務員は見た目が命」
Part2 第一印象で「信頼できそう」感を与えるメソッド
Part3 公務員のためのアイテム選びのメソッド
Part4 業務部門別 鉄板スタイル図鑑
Part4 公務員の服装が変わると地域が変わる
2点皆様にお話ししておきたいことがあります。まず1つ目として、この本は一般に販売されているファッション本のように、おしゃれな人がよりおしゃれになることを目的とするものではありません。逆に「何を着ていいのかわからない」「ファッションのセンスが皆無」といった人こそ手に取ってもらいたいです(特に巻頭のチェックシートにいくつか引っかかる人は、本書を読むと公務員人生が絶対に変わってくると思います)。
チェックシート(※本書より)
□ 手持ちのスーツは量販店のものが多い
□ とりあえず困ったらユニクロに頼る
□ 服をえらぶ基準は「なんとなく」
□ 白のワイシャツしか持っていない
□ ワイシャツのポケットにペンを挿したことが一度でもある
□ ビジネスシューズは黒のみを持っている
□ ネクタイは暗めの青をヘビロテしている
□ 今日身に着けているベルトと靴の色が違う
□ 自分の服装に自信がない
□ でも、見た目は大事だと(ちょっと)思う
おしゃれな人がもっとおしゃれになるのはやはりプロ目線でも難しいですが、マイナスの人を普通にするのはとても簡単です。偏差値のように一定のレベルまでは少しの知識を入れてあげればどんどん伸びていくのがファッションの面白いところ。この本を読むだけで「あれ? 今日の俺なんかいつもよりキマっているんじゃないか?」と鏡に思わずキメ顔をしたくなるような朝が来ます。ええ。必ず来ます。
自分の心を安定させる“特効薬”
次に、本書が他のファッション本とは違う2つ目のポイントです。それはただ単純に「きちんと服を着よう」「見た目を磨こう」という呼びかけだけではなく、世の中の流れとともに仕事の内容が大きく変わり、時には感情を押し殺して業務を遂行しなければならない公務員ならではの心の動きに寄り添った「服装で心を守る」という考え方を取り入れているところです。
私もそうでしたが、公務員の仕事は、特に淡々とこなす日常業務では仕事ぶり自体のダイナミックさが皆無なくせに、仕事を仕上げる過程で地味に心がすり減っていくことが多いです。それゆえ自分で自分の機嫌を取ることが不可欠です。自分の心を安定化させる特効薬、それが見た目を磨くこと、服装のチカラなわけです。
公務員の「見た目磨き元年」を目指して
この本を作り上げるにあたって様々な自治体の男性職員から話を聞きましたが、公務員男性の傾向として、言葉は悪いかもしれませんが「自分を過小評価しがち」な人がとても多いです。褒められたり評価される環境が他の業界よりも少ないため「自分なんて…」という言葉が真っ先に出てきてしまうのではないかと推察されます。
だからこそ、服装は自分に自信をつけるための最も手軽かつ身近なツールの役割を果たすことができるのです。
現在、地方自治体は協働する関係であると同時に「競争」も厭わない関係であるといっても過言ではありません。AI時代とはいっても業務を担う職員がいなくなることはないでしょうし、各自治体はより優秀な職員を採用し自治体間競争を生き抜くと同時に、現場で頑張る職員に所属自治体に愛着を持って長く活躍してもらうためには、外から見た姿だけでなく内側からのイメージアップが不可欠になっているといえます。
執筆の過程で、私自身も「男性心理」や「男のプライド」にここまで寄り添うことはこれまでの人生でありませんでした。それゆえ大事に大事に思いを紡いで育てた本ゆえ、ぜひともこの本が「公務員の見た目磨き元年」としての役割を果たすことができれば幸いです。
本連載では男性だけではなく女性職員の装いも次回以降、考えていきます。どうぞ、よろしくお願いします。
(「【公務員女性の装いのヒント】欲しいのは「ご機嫌」をくれる服」に続く)
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古橋 香織(ふるはし かおり)さんのプロフィール
元東京都職員
イメージコンサルタント
早稲田大学卒業後、2011年に東京都入庁。おもに東京都議会 議会局 管理部 総務課での議員接遇等に従事。在職時、早稲田大学大学院政治学研究科で政治や議会について現場からではわからない理論的な観点からの知識を取得し(公共経営学修士)、銀座イメージコンサルタントプロ養成アカデミーでメンズオーダースーツではトップクラスの受注率を誇るイメージコンサルタント工藤亮子氏に師事し、メンズスーツスタイルを学ぶ。
退職後、2020年1月、イメージコンサルティングラボ「Color Commons」主宰。政治およびパブリックセクターに強みをもつイメージコンサルタントとして独自の立ち位置を取る。多くのエグゼクティブが来訪する公的機関である議会での勤務経験から、特にスーツスタイルやカラーコーディネートを得意とし、現職政治家や政治家志望者、公務員、公務員新規採用者などに、理論とエビデンスに基づいた「信頼感あふれる見た目」を土台としたイメージづくりの提案を行っている。
全国の公務員にオンラインで着こなしを教える講座「公務員ファッションアカデミー」を月1回開催している。
2021年11月に『公務員男性の服~普通の服で好印象・信頼・清潔感は出せる』(ぎょうせい)を上梓。
女性向けには自身のインスタグラムで「お役所女子必携コスメ」(https://www.instagram.com/kaori_colorcommons/)を紹介している。
<Color Commonsのサイト> https://colorcommonslab.com/
<連絡先(問い合わせフォーム)>http://colorcommonslab.com/otoiawase