光ファイバ網を張り巡らせる
壱岐市のテレワーク促進事業が成功した要因は、市が実施した3つの施策に集約されそうです。
ひとつは、富士ゼロックスとの連携。前編で触れたように、壱岐市と連携協定を結んでいる同社は壱岐テレワークセンター(以下、テレワークセンター)でサテライトオフィス勤務を実施し、IT環境の構築や運用面で的確なアドバイスと運用ガバナンスを支援しているほか、企業間ネットワークを活用して壱岐市のテレワークの取り組みもPR。壱岐市内の雇用促進のため、島外企業を誘致する活動も支援しています。
(参照記事:毎月200名以上を呼び込む「離島テレワーク」モデル)
もうひとつは、今回のテレワーク促進事業の構想が生まれる以前に、すでに実施した通信環境整備の“英断”です。
壱岐市では「離島という条件不利益地域のなかでさまざまな地域課題を解決するには、時間や場所、年齢、性別、職業等に関わりなく情報共有・情報発信を可能にし、地域におけるさまざまなサービスを本土と同等のレベルまで高めていくことも可能なICTの積極活用が不可欠」(平成24年「壱岐市地域情報化計画書」より)との認識のもと、平成23年に壱岐市内全域に光ファイバ網を敷設。「都市部に負けない情報環境」(同)の実現に取り組みました。
そのため、無線Wi-Fiが安定提供できるなど、壱岐市にはテレワークに最適な環境がすでに整備されていました。長期的な視野に立った市内全域への光ファイバ網整備という“先行投資”が実った形です。
住民の提案が原型
そして、3つ目の成功要因として挙げられるのは地域住民や島外企業との「オープンな対話」です。
そもそも、壱岐市におけるテレワーク促進事業の構想は、住民自らが地域社会の発展と自分たちの未来を自分たちで創る「壱岐なみらい創りプロジェクト」という官民協働の取り組みから生まれました。
このプロジェクトには平成28年から平成29年の1年間で延べ1,046人の住民や島外企業が参加し、参加者からは「自分たちゴト」としてのさまざまな地域活性化策が発案されました。
そのひとつとして市民から寄せられた「遊休施設の利用による、しごと、まなび、つどいの場所づくり」についての提案が、今回のテレワーク促進事業の“原型”となりました。
市ではこの提案を実現するため、平成28年度総務省「ふるさとテレワーク推進事業」の採択を受け、テレワークセンターの開設となりました。
民間企業との連携、自治体による長期的な視野に立った環境整備、住民とのオープンなコミュニケーション―。この3要素がかみ合ったことが、離島という条件不利な環境を「テレワーク適地」という、壱岐市の新しい価値創出につながったと言えるでしょう。
“テレワーケーション”に挑戦
さらに壱岐市では、テレワークにとどまらない「新しい働き方」の開発にも取り組んでいます。
具体的には、アウトドアブランドとして高い人気を誇る新潟県三条市のスノーピークと連携。テレワークに仕事仲間や家族ととともに壱岐市の豊かな自然を味わうことのできるアウトドアでの活動や、バケーションの要素を導入した“テレワーケーション”の推進を図っていくことにしています。
あわせて、テレワークセンター以外でも、民間のシェアオフィス事業者やテレワーケーションに活用可能な観光施設管理者(イルカパーク、市内キャンプ場など)とも連携し、必要に応じて環境整備を行いながら、島全体を“テレワーケーションのフィールド”とすることで、幅広いニーズに対応できる仕組みづくりを行う構想です。
壱岐市は、これらの事業を通じて交流人口の拡大や移住・定住者の増加、そして現在住んでいる住民が「住み続けたい」と思える魅力的な島づくりを目指しています。
【参照記事】
公民連携でテレワーク先進地に~「壱岐市」の取り組み①
毎月200名以上を呼び込む「離島テレワーク」モデル