―西之表市が「認知症リスク測定会」を実施した背景について教えてください。
森:そもそも本市では、全国のなかでも特に高齢化が進んでいます。日本全体で「2060年には高齢化率が40%程度になる」と予想されるなか、本市ではじつに2025年と予想。まさに、日本の将来を映す縮図だといっていいでしょう。
山中:そのため本市は、「健康寿命の延伸」に向けた取り組みを行ってきました。地域サロンの開催や、歌にあわせてムリのない簡単な運動をする「元気アップ体操」など。都市部よりも地縁が強いという特徴を活かし、市内各地の54コミュニティにおいて住民主体のもと、現在も活動しています。
森:ただ、こと認知症でいいますと、もう少し踏み込んだ取り組みが必要だと感じていました。
―それはなぜですか。
森:本市で要介護に認定された高齢者の約3割が、認知症患者でした。まだ認定されていない方や予備軍まで考えると、その対策が急務だったのです。
山中:ただ、対策といっても状況を把握しないとなにも始まりませんし、専門的な知識も必要。もともと本市では、サトウキビの研究など、大学と連携した取り組みを積極的に行っており、そのつながりから認知症対策に取り組んでいる筑波大学の教授、矢田幸博先生を紹介してもらったのです。
そして、矢田先生が主体となって取り組みを開始。まずは、認知症の割合も含めて域内における高齢者の状況を確認するため、測定会が実施されたのです。
―結果はどうだったのでしょう。
森:市内の高齢者に声をかけ、約500人が測定会に参加。平成29年から1年かけて調査を行い、結果として約2割の方が認知機能低下の疑いがあり、なかには「すぐに治療が必要」という方もいることが判明したのです。結果を受けて、「そんなにいたのか」というのが率直な感想でしたね。改めて状況を認識するとともに、認知症対策の重要性を実感しました。
介入試験により3つの商材を改善に活用
―その後、どのような対策を行ったのでしょう。
森:測定会によって、認知症の疑いをはじめとしてさまざまな症状を示す方がいました。そこで矢田先生の紹介により、3社の民間企業に参加してもらい、介入試験を行うことにしたのです。その商材が、認知機能改善に影響があるとされる水素吸入器、頻尿・軽失禁に対処する紙おむつ、睡眠効果が期待される紅茶の3つです。
参加者の症状や希望にあわせて、それぞれの商材を実際に使ってもらい、その効果を検証しようという取り組みです。
山中:現在は実験結果を矢田先生のほうで取りまとめている最中なので、データにもとづく結果が出るのはまだこれから。ただ、利用者からは好意的な意見が出ています。じつは私も水素吸入で特別に参加させてもらっているんです。
森:二日酔いをしなくなったという高齢者の方もいましたね(笑)。特に水素吸入は、ポータブルで気軽に吸えるという点で、日常使いがしやすいと思います。
―一連の取り組みにおける今後の方針を教えてください。
山中:引き続き、検証を行っていきます。今回の取り組みは「認知症は誰もがなりえる病気なんですよ」という啓発活動も意図していたので、それも達成できているのでは、と思いますね。
森:もともとは現状の把握、意識の浸透が目的でしたが、今回は具体的な改善策まで踏み込むことができました。今後、この取り組みが発展し、西之表市発の認知症対策のモデルケースとして全国に広まっていけば、と考えています。