※下記は自治体通信 Vol.25(2020年8月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
多くの自治体において、情報インフラの運用改善をもたらした仮想化基盤技術。だが、同技術の導入メリットはそれだけにとどまらない。近年注目されているのは、システムの災害復旧対策として導入するケースであり、富士市(静岡県)もそうした事例のひとつである。同市総務部情報政策課の担当者に、仮想化基盤技術の導入経緯とその効果などを聞いた。
富士市データ
人口:25万2,666人(令和2年7月1日現在)世帯数:10万7,835世帯(令和2年7月1日現在)予算規模:1,778億3,173万円(令和2年度当初)面積:244.95km²概要:静岡県東部に位置し、日本で唯一、富士山と海があるまち。製紙業に代表される産業は、この恵まれた自然環境と交通の要衝という地理的条件を活かし、発展を遂げてきた。
システム化の進展とともに、災害復旧対応も大きな課題に
―富士市ではどのような情報インフラ運用を行ってきたのですか。
大長 当市では長く、全庁の情報インフラをわずか3~4人の担当者が管理してきました。そのため、少人数で効率よくシステム管理できる手法を早くから研究しており、平成13年度にはデスクトップ仮想化技術を導入していました。庁内で業務のシステム化が進むなか、管理するシンクライアント端末は当初の400台程度から現状では2,300台ほどまで増加しました。その間、サーバ台数も増加の一途をたどり、その管理も複雑化。今後も庁内のシステム増強要請に柔軟に応えながら運用管理を担うには、新しい情報インフラの仕組みが必要との問題意識が生まれていました。
加藤 同時に、自治体のあいだで事業継続計画(BCP)を策定する動きが広がるなかで、当市でも平成29年度に業務継続計画を策定。それに合わせ、情報政策課でも、実効性のある「DR対策(※)」の導入が求められていたという事情もありました。
※DR対策:Disaster Recoveryの頭文字をとり、災害によって被害を受けたシステムの復旧を目的とした対策
―その後、情報インフラの刷新はどう進められたのでしょう。
加藤 令和元年度のリプレイスに際し、システムを柔軟にスケールアウト(※)しやすく、情報インフラそのもののバックアップがとれる技術として、仮想化基盤導入の検討を開始しました。そのうえで、システムの簡素化によりサーバ台数を大幅に削減でき、運用負荷も減らせるという点を評価し、『Nutanix Enterprise Cloud(以下、Nutanix)』の導入を決めました。
※スケールアウト:構成するサーバの台数を増やすことで、システムの処理能力を高めること
大長 サーバ台数を削減できることは、DR環境の構築を目指す際に大きなメリットになります。DR対策としてメインかバックアップ、いずれかのクラスタ(※)をデータセンターに構築する場合、サーバ台数は管理費用や電気料金といった維持管理コストに直結するからです。DR環境の構築を念頭に、システムのスケールアウト要請にも柔軟に対応できるソリューションを検討した結果、当市では『Nutanix』を選定しました。
※クラスタ:複数のコンピュータを結合し、ひとまとまりとした集合体
「真の効果」は、住民サービス向上への貢献
―導入効果を聞かせてください。
加藤 本格運用は今年1月に開始したばかりですが、パフォーマンスの安定度は評判通りに高いです。仮想サーバをつくったり、消したりといった当たり前の作業が、なんの不具合もなく実現できること自体が価値のあることです。これにより、各課から新たなシステム導入を要望された場合でも、必要な設備を仮想空間に素早く提供できる体制が整いました。
大長 サーバ台数も大幅に削減できました。当初の設計ではデータセンターでサーバラックを4架借りなければいけない想定でしたが、『Nutanix』への移行でこれが3架に収まることになり、運用コストの削減につながりました。複数のクラスタを一元管理できる統合管理ソフトによって、運用担当者の負担を大きく減らすこともできました。メインのデータセンター側と、バックアップとなる市庁舎側との切り替えもスムーズに行えるなど、期待通りのDR環境を構築することができました。
―仮想化基盤の導入を、今後どう行政に役立てていきますか。
大長 各課が求めるシステム導入にスピード感をもって対応できることが、仮想化基盤導入の最大のメリットです。そのメリットを今後、住民サービス向上につなげていく。それこそが、今回の仮想化基盤導入の「真の効果」と言えるでしょう。