

兵庫県姫路市の取り組み
データ利活用の推進①
見やすいレポート作成にこだわった、行政情報分析の基盤を構築
総務局 情報政策室 主幹 原 秀典
総務局 情報政策室 係長 小坂 哲史
総務局 情報政策室 岡林 利典
※下記は自治体通信 Vol.29(2021年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
人口が減少するなか、いかに限られた財源や職員で効果的な自治体経営を行っていくかが重要視されている。そのためには、カンや経験に頼らず、科学的データにもとづいた政策立案が肝要だ。姫路市(兵庫県)は、平成28年度から行政情報の分析を行うための基盤構築を開始し、データを活かした自治体経営に取り組んでいる。同市の担当者3人に、その詳細を聞いた。



業務に膨大な時間を要し、属人化する傾向に
―姫路市が、行政情報の分析を行うための基盤構築に取り組んでいる背景を教えてください。
原 市役所業務において、データを分析して行政に活かす取り組みはこれまでも行っていました。ただ、業務データからほしい情報を収集し、分析するには膨大な時間が必要に。なおかつ、そうした業務を行うにはExcelやAccessといったツールを使いこなす必要があり、業務が属人化する傾向にあったのです。そのため、職員が効率的かつ日常的にデータを活用できるための仕組みづくりが必要だと。そこで、平成28年度の「ひめじ創生戦略」において、行政マネジメント強化の重要な施策として位置づけ、データ分析基盤の構築に取り組み始めたのです。
―どのようにして仕組みづくりを行っていったのでしょう。
小坂 基盤構築で重視したのは、知識やノウハウに関係なく職員が使えるということ。さらに、プライバシーリスクの観点から、個人情報に配慮したデータの収集が行えること。そうした点に留意して調達した結果、「姫路市が実現したい仕組みを一緒につくりましょう」と言ってもらえたエーティーエルシステムズと共同開発することになりました。そして構築したのが、『行政情報分析基盤for LGWAN-ASP』です。
原 まずは、政策立案のベースとなる人口の分布・異動を分析することからスタート。個人情報に関しては、データを抽象化して蓄積する仕組みをつくりました。そして、分析レポート作成でこだわったのは、集計表やグラフのほか、情報を地図上で表示し、かつ経年で見られるようにすることです。
―それはなぜですか。
原 分析結果を、庁内外にわかりやすく伝えるためです。たとえば、保育所の適正配置を検討する場合には、地域ごとの子どもの人口分布や、実際に利用する保育所との位置関係から、地域ごとの保育ニーズを視覚的に把握することができます。さらに、10年前、5年前、そして現在というふうに、経年で見られるようにすることで、人口の移り変わりなどの客観的なデータから計画が策定でき、住民へもわかりやすく説明できると考えたのです。ここまでデータを落とし込む作業は、職員だけではとうていムリですからね。

データ活用の幅を、庁内に広げていきたい
―実際に活用してみての感想はいかがでしょう。
岡林 飛躍的な作業効率化につながっています。たとえば「小学校区別年齢別児童数」のデータを作成する際、以前はデータの収集時間に24時間、分析時間に32時間を要していましたが、合わせて5~10分で終了。さらに、データを見やすくしたことで、市の情報が伝えやすくなったと実感しています。
原 現在は、保育所の適正配置や特定健診の受診率分析などに活用しています。これをもっと庁内に広げていくために、データ活用の重要性や活用方法を庁内に浸透させることを、エーティーエルシステムズの支援を受けながら行っていきたいですね。
支援企業の視点
専門家のサポートがあれば、データ収集・分析は誰でも可能に
ICT事業部 データソリューション部 部長 浜口 孔真
ICT事業部 データソリューション部 第1ユニット 八木 雄人


―データを活用しようと考える自治体は増えているのですか。
浜口 増えています。官民データの適正かつ効果的な活用推進のため、平成28年に政府から「官民データ活用推進基本法」が公布されたのも大きいですね。各自治体がデータを活用しようと考えた際、課題になるのは姫路市のように、データの収集や分析に時間がかかったり、職員の能力により業務に差が生じたりしてしまう点。そもそも、「どうやってデータを活用したらいいかわからない」という自治体も多いでしょう。
―どうすればいいでしょう。
八木 やはり、データの収集や分析を行える専門家のサポートを得ることが必要でしょう。たとえば当社の『行政情報分析基盤 for LGWAN-ASP』であれば、職員のスキルに関係なく、誰でも同じようなデータを得ることが可能。また、LGWANのなかで動かせるため、セキュリティ面でも安心。さらに、データを収集する際、当社独自の抽象化処理を行うことで、プライバシーリスクを限りなく下げた状態での提供が可能なのです。
浜口 現在、パラメータのかけ合わせで何千種類ものレポート提供が可能ですが、今後は介護保険やマイナンバーなど、分析可能な対象業務を増やしていきたいですね。
データベース構築を民間に任せ、自由度の高い「セルフ分析」を実現

埼玉県さいたま市の取り組み
データ利活用の推進②
データベース構築を民間に任せ、自由度の高い「セルフ分析」を実現
データの利活用が自治体で広まるなか、エンドユーザー自身でデータの分析やレポート作成ができるセルフサービスBI(※)ツール、「セルフBI」を導入する動きも見られる。さいたま市(埼玉県)も、そうした自治体のひとつだ。同市は、「セルフBI」を活用するためのデータベース構築をエーティーエルシステムズとともに行っている。担当者の勝山氏に、その詳細を聞いた。
※BI:Business Intelligenceの略。組織に蓄積される業務データを収集・分析してその結果を可視化し、業務や経営の意思決定に活用する仕組み

現場に密着したデータ分析を、どうしても行う必要があった
―データの利活用に取りデータの利活用に取り組んでいる経緯を教えてください。
当市では、アメリカのボルティモア市が実践している「シティスタット」を参考に、業務で蓄積した情報や各種統計などのデータを全庁的に政策立案や業務改善に活かす取り組み「さいたまシティスタット」を平成26年度から開始。そのためのデータベース基盤である「さいたまシティスタット基盤」の構築を、エーティーエルシステムズとともに行い、平成28年度から運用していました。
―そんななか、「セルフBI」を導入した理由はなんでしょう。
「さいたまシティスタット基盤」には、住民基本台帳をはじめ多種多様なデータとその分析レポートが蓄積されていました。ただ、ごく一部のレポートを除き、アクセス件数が伸びず、職員に業務であまり活用してもらえていないという課題がありました。その原因を調査し、課題解決策を検討した結果、現場の仕事に密着し、それぞれの業務のニーズに合わせたカタチでデータ分析を行う必要があると考えました。しかし、そのようなデータ分析をニーズが生まれるたびに専門の事業者に依頼するのは現実的ではありません。
―それでは、コストも時間もかかってしまいますね。
はい。そのため、データ分析は市職員自ら行い、それを助けるツールの導入や活用支援、データベースの構築を業務委託しようというアイデアを考え、「セルフBI」の導入にいたったのです。「セルフBI」のツールは、『Microsoft Power BI』を採用。小中規模のデータ分析であればそれだけで行えますが、住民基本台帳などの大規模かつ複雑なデータを分析するには専用のデータベースが必要。その構築に、エーティーエルシステムズの『行政情報分析基盤 for セルフBI』を活用したのです。
「新型コロナ」の状況を、いち早く伝えることができた
―導入後はいかがですか。
データベースそのものは構築中ですが、大規模なものでなければ『Microsoft Power BI』単独でデータ分析ができるので、庁内各課の業務データ分析を行って意思決定の支援をしたり、分析機能を活用して業務データ集計作業を効率化したりといった活動をすでに実施。各課の反応はとても良く、それを聞いた別の課から依頼が来たり、いい流れができています。
データベースに住民基本台帳などの個人情報を格納する際、抽象化処理してもらうことで、分析の品質を落とさずにプライバシーリスクを低減できるのが大きいですね。

―今後におけるデータ利活用の方針を教えてください。
「セルフBI」を活用し、自由度の高いデータの利活用を進めていきます。実際に、市内の新型コロナウイルスの感染状況を表したレポートを『Microsoft Power BI』を活用して作成し、HPに公開。住民に、充実した情報発信をいち早く行うことができました。これを事業者に依頼したら、何ヵ月かかっていたかわかりません。
今後は、テキストマイニングや重回帰分析、AIの活用など、より高度なデータの利活用をエーティーエルシステムズの伴走支援を受けて、挑戦していきたいですね。
支援企業の視点
多種多様な切り口や集計値をもとに、オリジナルのデータ分析を
ICT事業部 データソリューション部 第1ユニット マネージャー 萩原 開城
ICT事業部 データソリューション部 第1ユニット 清水 裕紀


―「セルフ分析」を行う自治体は増えているのでしょうか。
萩原 当社がさいたま市以外にも「セルフ分析」の支援を行っているという点から考えると、徐々に増えていると思います。近年は「セルフBI」の機能性が高まっていますし、「スピーディかつオリジナルのレポートをつくりたい」と考える自治体は多いでしょうから。
―「セルフ分析」を行ううえでのポイントはなんですか。
清水 そうした分析を行いやすいような、データベース基盤を構築することです。たとえば、当社が提供している『行政情報分析基盤 for セルフBI』は、データを分析するうえで多種多様な切り口や集計値を用意。さいたま市のように、データ情報を追加でカスタマイズすることもできます。職員の自由な発想で分析を行うために必要な、データ提供を行っているのです。
―自治体に対する今後の支援方針を教えてください。
萩原 繰り返しますが、「セルフ分析」を行うには、その材料となるデータベースの基盤構築が重要。それを、自治体が行うのは、難しいでしょう。その準備を当社が行うことで、自治体がデータの分析やレポート作成に集中できるような環境づくりの支援を、「セルフ分析」の普及も含めて行っていきたいですね。
設立 | 2008年11月 |
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資本金 | 2,000万円 |
売上高 | 8億7,000万円(2019年12月期) |
従業員数 | 46人(2020年1月時点) |
事業内容 | ・ITソリューションの企画、提案、コンサルティング ・電算業務システム全般のコンサル調査、調達支援 ・ネットワーク及びシステム設計、構築、メンテナンス ・行政情報分析基盤の販売、導入、構築、データ利活用支援(研修など) ・教育情報化(GIGAスクールなど) |
URL | https://www.atl-systems.co.jp/ |
お問い合わせ電話番号 | 055-220-6456(平日8:30~17:30) |
お問い合わせメールアドレス | lgwan-asp@atl-systems.co.jp |
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