※下記は自治体通信 Vol.52(2023年9月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
近年、大雨により毎年のように日本各地で甚大な水害がもたらされている。これまで河川が氾濫したことのない地域でも氾濫が生じる事例がみられることからも、河川の水害対策は各自治体において喫緊の課題となっている。そうしたなか、藤枝市(静岡県)では河川の水位予測システムを検討・活用し、水害リスクに備えているという。同市担当者の2名に、詳細を聞いた。
[藤枝市] ■人口:14万1,643人(令和5年7月末現在) ■世帯数:6万1,518世帯(令和5年7月末現在) ■予算規模:1,210億4,300万円(令和5年度当初)
■面積:194.06km² ■概要:静岡市から西へ約20km、静岡県のほぼ中央に位置している。市域は、北は南アルプスを望む赤石山系の森林地帯から、南は江戸時代「越すに越されぬ」と言われた大井川の一部まで広がっている。昭和29年3月に市制を施行し、平成21年1月に、隣接する岡部町と合併。静岡県の中核都市として発展している。中学、高校におけるサッカーの実力は全国レベルで、Jリーガーも数多く輩出している。近年では、「藤枝MYFC」がJ2で活躍している。
藤枝市
都市建設部 基盤整備局 河川課(水害対策室) 課長(室長)
井原 豊いはら ゆたか
藤枝市
企画創生部 情報デジタル推進課 主幹 兼 スマートシティ推進係長
齋藤 栄一郎さいとう えいいちろう
本格導入を見すえ、新たなシステムを模索
―藤枝市ではどのような水害対策を行ってきたのでしょう。
井原 近年は、頻発する豪雨に伴う水害が多発しています。令和4年9月の台風15号では、藤枝市内でも多くの地区で浸水被害が発生しているため、こうした水害に今後も備えていかなければなりません。そのためには、リアルタイムの河川水位の把握が重要で、二級以上の河川には国や県が管理する水位計が設置されていますが、市が管理する準用河川などには設置されていませんでした。そのため、水防活動時の河川巡視により、職員が実際に現地を確認して河川水位を把握していたのです。そこで平成29年度から、独自の施策として市内の準用河川などに水位計を設置。初年度は8河川8基、現在は17河川19基を設置しています。
―そうしたなか、水位予測システムを検討した理由はなんですか。
齋藤 水位計に加え、雨量予測を基に河川の水位予測ができれば、発災前に土嚢を積んだり、河川近くの道路を通行止めにしたりといった先手の水防活動ができるからです。そこで、令和2年度から水位予測システムの実証実験を始め、ある程度の有用性が確認できたので、社会実装へのフェーズ移行を検討し、それに適した水位予測システムを再検討することにしたのです。結果、構造計画研究所のリアルタイム洪水予測システム『RiverCast』に着目しました。
―着目した点を教えてください。
齋藤 まず、気象庁などのリアルタイム雨量情報と本市のリアルタイム河川水位情報を分析し、30分ごとに15時間先までを見通した水位予測が可能という点でした。また、本市がこれまでの実証で計測した水位データを活用すれば、より精度の高い分析ができることも評価し、令和4年度から、本格導入を見すえた活用を始めたのです。
住民に避難情報を発令する判断材料としても期待
―どう活用しているのでしょう。
井原 現在は19基ある水位計のうち、3河川3基にて『RiverCast』を活用しています。令和4年台風15号を経験し、雨量予測がおおむね一致した場合は、高精度の水位予測ができるという結果が得られました。遠隔でリアルタイムの河川水位を確認できるうえに、河川水位予測もできるため、迅速かつ的確な水防配備体制の構築に活用できるものと感じています。
―今後における水位予測システムの活用方針を教えてください。
井原 引き続き、データを収集しつつ、『RiverCast』の活用範囲を広げていきたいですね。また現在は、水防活動での活用ですが、将来的には住民への避難情報を発令する判断材料にも活用していけるようになればと考えています。
基準水位を超える確率が出せれば、「降水確率」のように対応を判断できる
株式会社構造計画研究所
エンジニアリング営業2部 防災コンサルティング室
山口 裕美子やまぐち ゆみこ
宮城県生まれ。平成18年、株式会社構造計画研究所に入社。解析コンサルティング業務に従事した後、現職にて水害対策ソリューションを中心に公共系の営業を担当している。プライベートでは4児の母。
―河川の水害対策強化に取り組む自治体は多いのですか。
多いです。豪雨災害の激甚化と頻発化によりハード面での対策では追いつかず、ソフト面の強化に取り組む自治体が増えています。そこで注目されているのが、IoTの活用です。藤枝市のように、まずは現状把握のために水位計を導入する。さらに、「水位予測まで行えたほうがより早期の水防活動ができる」と、水位予測システムに注目するケースがみられます。実際、当社が提供している『RiverCast』に対する自治体からの問い合わせも増えていますね。
―システムの詳細を教えてください。
クラウド型の水位予測システムでリアルタイムの雨量と水位情報を活用して、30分ごとに15時間先までの水位予測ができ、過去の水位データからより高精度な予測が可能です。職員は手元の端末から同システムにアクセスすれば、どこにいても情報を得られます。予測の特徴は、自治体が「これ以上は危険」と設定した基準水位を何%の確率で超えそうかという超過確率も算出できる点。これにより、「80%であれば高確率で超える見通しなので準備をしよう」など、判断基準を降水確率のように数値化できるのです。
―自治体に対する今後の支援方針を聞かせてください。
システムの提供で、自治体の河川における治水・浸水対策の支援をしていきたいです。現在、実証実験を含め、13自治体45地点での活用実績があり、その経験に基づく支援が可能ですので安心してほしいですね。