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熊本県益城町の取り組み
先進事例2023.12.05
新庁舎の地震対策①

「復興のシンボル」新庁舎に採用した、熊本地震にも耐える免震技術の実力

[提供] 日鉄エンジニアリング株式会社
「復興のシンボル」新庁舎に採用した、熊本地震にも耐える免震技術の実力
この記事の配信元
日鉄エンジニアリング株式会社
日鉄エンジニアリング株式会社

※下記は自治体通信 Vol.54(2023年12月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

最大震度7の巨大地震に立て続けに2度襲われるという過去に経験のない大災害となった平成28年の熊本地震。もっとも大きな被害を受けた益城町(熊本県)では、復興事業の大きな柱のひとつであった役場新庁舎が完成し、今年5月より供用を開始した。ここでは、過去の教訓を活かして、先進の免震構造を採用したことが注目を集めている。どのような検討を経て、採用を決めたのか。同町新庁舎等建設課の内村氏と竹辺氏に話を聞いた。

[益城町] ■人口:3万3,986人(令和5年10月末現在) ■世帯数:1万4,381世帯(令和5年10月末現在) ■予算規模:358億5,997万3,000円(令和5年度当初) ■面積:65.68km² ■概要:熊本県のほぼ中央北寄りにあり、県庁所在地熊本市の東隣りに接している。県庁まで8.5km、熊本市役所まで13km、また、空の玄関口である阿蘇くまもと空港まで7.5kmの至近距離にある。町の周りは西から北西部にかけて熊本市、北部が菊池郡菊陽町、東は阿蘇郡西原村、南は上益城郡御船町、南西部が同郡嘉島町に接している。
インタビュー
内村 康成
益城町
新庁舎等建設課 課長
内村 康成うちむら やすなり
インタビュー
竹辺 真二郎
益城町
新庁舎等建設課 主幹(長崎県佐世保市応援職員)
竹辺 真二郎たけべ しんじろう

熊本地震で庁舎が被災し、災害対策本部として機能せず

―新庁舎建設に際しての基本構想とは、どのようなものでしたか。

内村 当町では熊本地震の際、災害対策の司令塔となるべき役場庁舎が甚大な被害を受け、機能不全に陥りました。その結果、災害対策本部としての機能が発揮できないという苦い経験を味わいました。この教訓から、新庁舎建設にあたっては、震度7の巨大地震が立て続けに2回発生した熊本地震に再び襲われても、耐えうる庁舎とすることを最大のコンセプトに据えました。

―建設計画の策定では、どのような議論を重ねたのでしょう。

竹辺 基本計画を策定する段階で、地震対策として建物の構造は耐震、制振、免震の選択肢がありました。しかし、熊本地震の数年前に耐震補強工事を実施していたにも関わらず、旧庁舎は甚大な被害を被ったため、当初から「耐震構造では不十分ではないか」という疑問を持ちました。また、町内の人的被害を分析すると家具や什器の転倒によるものも多く、躯体が強いだけでは被害を防げないという認識もありました。さらに、地震後は役場として機能を失わないことが重要である点なども考慮し、免震構造の採用を基本計画に定めました。免震構造の採用によって、建設コストが耐震構造に対して5%程度上昇するとの試算もありましたが、益城町が経験した被害の大きさを考えると、これは必要不可欠な経費だという結論に至りました。

新庁舎は「復興のシンボル」

―免震技術の選定は、どのように進めたのですか。

竹辺 国が定める告示波に加え、実際の熊本地震の際に観測された地震動のデータなども用い、複数の免震装置を比較検討しました。具体的には、「天然ゴム系積層ゴム+鉛プラグ入り積層ゴム」「球面すべり支承」「球面すべり支承+鋼製U型ダンパー」という3つの技術です。その結果、応答加速度や応答変位、応答せん断力など、いずれの基準でも「球面すべり支承+鋼製U型ダンパー」がもっとも優れた結果を示したため、益城町の地質特性を考慮すると、この技術が最適解だと判断しました。実際の建屋には、4階建て延べ床面積約7,000m²の基礎部分に、球面すべり支承が55基、鋼製U型ダンパーが8基設置されています。

―免震構造を採用した効果を、どのように感じていますか。

竹辺 今年5月の供用開始以降は、多くの町民が見学に訪れられますが、免震装置の挙動を映した説明動画をお見せすると、非常に高い関心を持たれます。先日も地震と避難生活を経験された町民が、その動画をご覧になり、「安心・安全な庁舎ができてよかった」と涙ながらにお話しされていました。また、全国の自治体からの視察も多いですが、その際には、被災体験とともに、「熊本は、大地震が起こる確率が高い地域とは想定されていなかった。ゆえに全国どこで起こってもおかしくない」との我々の認識もお伝えしています。

―新庁舎のもとで、今後どのようなまちづくりを目指しますか。

内村 免震構造の採用のほか、水道や電気といったライフラインの冗長化によって、被災後に庁舎が災害対応を実施するための機能を72時間維持できる設備体制が整いました。一方で、新庁舎には休日にも開放する憩いの場を設けたほか、ガラス張りとした東側階段室の照明で終夜まちを照らす設計が施されており、そこには今後長く町民の心の拠り所となってほしいとの願いが込められています。まさに「復興のシンボル」であるこの新庁舎を中核として中心市街地のデザイン化を進めながら、震災以前のにぎわいを取り戻すべく、まちづくり施策を進めていきます。

支援企業の視点
新庁舎の地震対策②
従来技術が抱える課題の数々を克服。「鉄」による新たな免震技術の可能性

これまで見た益城町の新庁舎建設計画において、採用された「球面すべり支承」と「鋼製U型ダンパー」という2つの免震装置。これらの装置を開発したのが日鉄エンジニアリングである。ここでは、同社で営業を統括する川村氏と酒井氏に、免震技術選定のポイントや同技術の特徴、さらには今後の自治体支援方針などについて聞いた。

インタビュー
川村 典久
日鉄エンジニアリング株式会社
都市インフラセクター 営業本部 鋼構造営業部 免制震デバイス営業室長
川村 典久かわむら のりひさ
昭和48年、茨城県生まれ。平成5年、宮城高専建築学科卒業後、新日本製鐵株式会社(現:日本製鉄株式会社)に入社。平成18年、新日鉄エンジニアリング株式会社(現:日鉄エンジニアリング株式会社)に転籍。平成20年、東京理科大学工学部二部建築学科卒業。令和5年4月より現職。
インタビュー
酒井 快典
日鉄エンジニアリング株式会社
都市インフラセクター 営業本部 鋼構造営業部 免制震デバイス営業室 マネジャー
酒井 快典さかい よしのり
昭和62年、福岡県生まれ。平成24年、熊本大学大学院自然科学研究科建築学専攻修了後、新日鉄エンジニアリング株式会社(現:日鉄エンジニアリング株式会社)に入社。平成28年4月より現職。

高まる免震構造への関心

―自治体において近年、免震技術への関心は高まっていますか。

川村 高まっています。近年の大規模震災を受け、災害対策の司令塔である庁舎や拠点病院の業務継続性を重視し、多くの自治体が庁舎や病院建設の際、免震構造の採用によって「家具や什器の転倒がない」状態を求めている印象です。

―免震技術を選定する際のポイントは、なんでしょう。

酒井 まずは、計画する建物に求められる免震性能を発揮できるか。近年は低層の庁舎や地元材を使った木造建築も増えています。しかし、従来の免震技術は、低層や軽量の建築物では長い周期で建物を揺らすことが難しく、十分な免震効果を得られないケースもありました。加えて、地盤が悪い、または断層近傍の建設地では大きな地震動が想定されるため、大きく水平変形できる免震装置が必要です。

 また、建物の形状によっては、重量バランスも免震効果を担保する際の制約になるので、この制約を受けず設計自由度を保てる免震技術であることも重要です。さらに、いかに建設コストを抑えるかも自治体の大きな関心事です。こうした条件に合致する選択肢として、当社では益城町のような球面すべり支承『NS-SSB®』と鋼製U型ダンパー『免震NSUダンパー®』の組み合わせを提案しています。

2つの技術で揺れを抑える

―どのような仕組みですか。

川村 『NS-SSB』は建物を支えるステンレス鋼材の「スライダー」を、球面加工されたステンレス鋼材の「すべり板」で挟み込む構造です。地震の際には、すべり板の球面に沿ってスライダーが振り子のように大きく移動し、球面形状を利用して建物をもとの位置に復元します。建物の重量に関係なく一定の免震性能を発揮できるうえ、装置がコンパクトであるため建設時の掘削コストなどを抑えられます。

酒井 一方、『免震NSUダンパー』は、U字型に加工した鋼製のダンパー部が大きく変形することで地震によるエネルギーを吸収し、揺れを低減する仕組みです。両技術で建物に生じる地震力や床面の揺れを抑えることができます。

―今後の自治体への支援方針を聞かせてください。

酒井 『NS-SSB』は今、さまざまな用途の建物で採用が広がっています。そのなかには、平成30年6月の大阪北部地震でも被害が無かった物流倉庫や、令和4年3月の福島沖地震でも卓上の空のペットボトルさえ倒れなかった高層マンションもあります。また、『免震NSUダンパー』も過去の大地震で多くの建物の被害を防ぎました。それらの実績をもとに、設計会社を通じて両技術を提案していきます。

川村 「鉄」に対する当社の知見により開発された『NS-SSB』や『免震NSUダンパー』は、免震構造の適用範囲を大きく広げています。ぜひ採用をご検討ください。

日鉄エンジニアリング株式会社
日鉄エンジニアリング株式会社
設立

平成18年7月(旧・新日本製鐵株式会社のエンジニアリング部門が独立)

資本金

150億円

売上高

3,522億円(連結:令和5年3月期)

従業員数

4,923人(連結:令和5年3月末現在)

事業内容

製鉄プラント事業、環境・エネルギー事業、都市インフラ事業

URL

https://www.eng.nipponsteel.com/

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