※下記は自治体通信 Vol.54(2023年12月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
地域活性化策の1つとして、独自に「地域ポイント」を運用する自治体が増えている。令和6年2月から、「地域ポイントアプリ」の運用を開始する予定の小田原市(神奈川県)もそうした自治体の1つだが、経済波及効果にとどまらない事業構想に注目が集まっている。同市企画部の大木氏は、「地域ポイント運用で得られるデータの活用は、まちづくりの軸になり得る」と話す。まちづくりに向け、同アプリをどのように活用するのか。同市の府川氏を交え、詳細を聞いた。
[小田原市] ■人口:18万6,323人(令和5年11月1日現在) ■世帯数:8万4,521世帯(令和5年11月1日現在) ■予算規模:1,893億308万6,000円(令和5年度当初) ■面積:113.60km² ■概要:神奈川県の西部に位置する。戦国時代に後北条氏の「城下町」として発展し、江戸時代には東海道屈指の「宿場町」として栄えた。明治期には政財界人や文化人たちの「別荘、居住地」として愛されてきた。交通利便性が高く、鉄道は、JR東海道本線、小田急小田原線など5社6路線が乗り入れ、市内には18の駅がある。
小田原市
企画部 デジタルイノベーション課 デジタルまちづくり係 副課長
大木 健一おおき けんいち
小田原市
企画部 デジタルイノベーション課 デジタルまちづくり係 主査
府川 明弘ふかわ あきひろ
バラバラのデータをつなげる「横串」の役割を果たす
―小田原市では令和6年2月から、「地域ポイントアプリ」の運用を始めるそうですね。
府川 はい。デジタル田園都市国家構想交付金の交付対象である、「『デジタルブラブラ城下町(デジブラ城下町)』をハブとした多拠点ネットワーク型まちづくり」事業の一環として始めます。各種デジタルコンテンツを活用し、まちの活性化を図る事業です。利用者は、市独自の「地域ポイントアプリ」をスマホにダウンロードすれば、地域の登録店舗での買い物や社会貢献活動への参加でポイントが貯まり、そのポイントを買い物や体験サービスで使えるようになります。また、活動原資としてPTAや自治会などにポイントを寄付できる仕組みも整える予定です。
大木 今回のアプリ運用には、こうした域内消費の循環による経済活性化という狙いも当然ありますが、それだけではなく、私たちはこのアプリを、「データを活かしたまちづくり」の軸として活用する構想を描いています。そこに向け、ITベンダーの小田原機器がアプリ開発に協力してくれました。
―地域ポイントアプリをどのように活用するのですか。
府川 利用者がこのアプリを使用する際、会員登録を行えば、必要なIDが発行されます。「小田原ID」と名付けますが、それを、今後市が開発するアプリなどを利用する際の共通IDにしていくことも考えられます。そうすれば、それぞれの利用データを1つのIDで紐づけることが可能となります。
大木 当市では今年度にかけて、市が保有する各種データの集約・活用に向けた「データ連携基盤」の構築を進めています。まさに、データを活かしたまちづくりの土台ですが、ここに集約するデータは、「利活用しやすい形」であることが重要だと考えています。今後開発するアプリの利用データがバラバラに集約される場合と、個別のIDに紐づく形で集約される場合とでは、後者のほうが間違いなくより詳細なデータ分析に役立ちます。結果、効果的な施策を立案でき、その蓄積が魅力あるまちづくりにつながるはずです。つまり、今回の地域ポイントアプリは、バラバラのデータを1つにつなげる「横串」の役割も担ってくれるのです。
行政データは、都市の「体力」を上げる財産
―今後の方針を教えてください。
大木 我々は、施策立案に活かせる行政データは、都市の「体力」を上げる重要な財産だと捉えています。今回の地域ポイントアプリを通じて蓄積されていく貴重なデータを、私たちがしっかりと市政に活用していきます。
日常で使うアプリを「入口」にすれば、蓄積されるデータ量を増やせる
後藤 麻衣ごとう まい
平成5年、神奈川県生まれ。法政大学経済学部を卒業。平成28年、株式会社小田原機器に入社。おもにサービス企画、SE業務を担当している。
―データを活かしたまちづくりに、「地域ポイントアプリ」を活用する利点はなんでしょう。
ひと言でいえば、「蓄積されるデータ量を増やせる」ことです。日常の買い物にも使える「地域ポイントアプリ」を「入口」にすれば、より多くの方々が利用するぶんだけ、収集データの蓄積が期待できます。今回私たちは「共通ID」という仕組みを通じ、そのほかのアプリやシステムのデータとも紐づけられるように設計しています。その結果、「地域ポイントアプリを活用している人は、活用していない人より1日約4,000歩も多くウォーキングしている」といった行動傾向までわかるようになるのです。もちろん、利用者の同意を得て蓄積しますが、こうしたデータ連携で、施策の効果分析の精度をより高められます。
―自治体に対する今後の支援方針を聞かせてください。
「住み続けられるまち」に向け、人の移動・外出・周遊に寄り添い、支援したいと考えています。そうした支援から得られる多くのデータを利用者IDごとに収集できる今回の仕組みは、移住や観光、子育て、交通など各種分野の政策の立案に寄与できます。蓄積データをもとに個別最適な行政サービスの提供も可能になるでしょう。観光客の方々には「来た甲斐があった」、市民の方々には「住んでてよかった」と思っていただけるよう、地域ポイントアプリには今後、「地域とのつながり」「周遊の楽しみ」を生み出すイベント情報の発信や掲示板機能、地域交通との連携機能なども搭載予定です。ぜひ当社にご連絡ください。