※下記は自治体通信 Vol.55(2024年1月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
DX推進の取り組みが各自治体で活発化しているなか、依然としてアナログのまま進められている業務は少なくない。原課と法務担当課との「やり取り」をメールで個別に行うような例規審査も、そうした業務の1つと言えるが、システムの導入で効率化を進めているのが今治市(愛媛県)だ。具体的に、どのように効率化を進めているのか。導入経緯とあわせて、同市の担当者2人に話を聞いた。
[今治市] ■人口:14万9,958人(令和5年11月末現在) ■世帯数:7万6,414世帯(令和5年11月末現在) ■予算規模:1,350億9,910万円(令和5年度当初)
■面積:419.21km² ■概要:愛媛県の北東部に位置する。瀬戸内海のほぼ中央部に突出した高縄半島の東半分を占める陸地部と、世界有数の多島美を誇る大小およそ100の島々で形成される芸予諸島の南半分の島しょ部から構成されている。今治市と尾道市(広島県)を結ぶ「しまなみ海道」は、「絶景ロード」としても知られている。
修正手続きの「煩雑さ」以外に、校正にかかる「精神的負担」も
―例規審査業務でシステムを導入した経緯を教えてください。
井内 私たちは、条例や規則、要綱といった例規などについて、原課が作成した原案の審査を行っています。近年は年間約300件の原案を審査しており、そこでは条文案の精査、検討、法令調査など例規文書の緻密な審査を行うわけですが、原課担当者とのやり取りが10回を超えることも珍しくありません。こうしたやり取りをメールで行っていたため、審査のたびにファイルのダウンロードや添付して送る作業が非常に煩雑でした。
今井 例規に間違いがあってはならず、1回のやり取りごとに校正が必要で、時間がかかるだけでなく精神的負担も大きなものでした。こうした状況を改善できるツールを検討していたところ、当市未来デジタル課から第一法規のシステム『LAWGUE』の紹介を受け、令和5年5月から導入しました。
―どのようなシステムですか。
井内 原案の作成、審査のやり取りをオンライン上で完結できるシステムです。作成した原案ごとに改版履歴が自動でつくられ、システムにログインすればその中で審査のやり取りができます。従来のようにメールで送受信を繰り返さずに済みます。また、校正については、システムが修正前後の文書の差分を自動でチェックし、画面上で色分け表示してくれます。「及び」「および」などの表記ゆれも自動検知してくれるため、校正の負担は大幅に軽減されています。
今井 ほかにも、類似性の高い過去の例規などの条項をAIが自動検索してくれる機能や、第一法規が提供する法令データベースと連携し、例規内に表記する参照法令を自動検索できる機能もあります。審査のうえで不可欠な過去の例規や参照法令の確認に際し、それらの文書を過去の膨大な資料の中から探し出していた手間を省いてくれるのです。
こうした、例規審査のプロセスを変革してくれる『LAWGUE』により、業務の大幅な効率化を実感していますが、さらに「業務の質向上」も期待できると考えています。
例規審査のノウハウ継承へ
―どういうことですか。
今井 システム内に、原課担当者とやり取りしたファイルが一元管理されるようになるため、「なぜこの文言は使えないか」といった審査に関する履歴もすべて残ります。また、そうした審査のやり取りを残すコメント機能は、誰にでも使いやすく、見やすい形で設計されています。そのことで、審査ナレッジを蓄積でき、一連の例規整備業務の質向上に寄与すると考えています。『LAWGUE』をフル活用し、例規審査の効率化と共にノウハウ継承につなげていきます。
煩雑な行政文書作成はDXで効率化し、内容議論により時間を割ける体制を
渡邉 徹わたなべ とおる
平成17年、第一法規株式会社に入社。おもに自治体に向けたプロモーション、セールスを担当している。
第一法規株式会社
販売促進局 販売促進第二部 自治体法務 サポートセンター
北野 美香きたの みか
平成28年、第一法規株式会社に入社。おもに自治体に向けたシステムサポート、カスタマーサクセスを担当している。
―行政文書の作成・審査をめぐる自治体の課題はなんですか。
渡邉 人手をかけて、煩雑な作業に多くの時間を使っていることです。作成・審査の過程で生じる変更箇所の特定や、過去に起案した文書との比較などに多くの時間が費やされていると共に、文書の審査では、正確性がしっかり担保されているのか不安に思われる職員も多いです。これまで「当たり前」とされてきた業務も、じつはDXによって効率化できるものは多いと考えています。そこで当社では、行政文書の作成から審査に至るまでの一連の業務を効率化する『LAWGUE』を提案しています。
北野 『LAWGUE』は、文書同士の変更箇所の特定や、参考文書との比較をAIがサポートします。また、表記ゆれのほか、引用法令や参照条項を自動的に点検することも可能です。これにより、行政文書の作成・審査に関する業務時間の削減や、正確性の向上を実現します。
―自治体に対する今後の支援方針を聞かせてください。
渡邉 今後は、当社の「全国例規集」や法令データベースを実装した、進化版の『D1-LAWGUE』を展開します。自治体における行政文書の作成・審査支援のさらなる強化により、誰でも一定水準の正確性を担保したうえで、文書の中身の議論により時間を割ける環境を提案していきます。