※下記は自治体通信 Vol.56(2024年3月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
熊本市(熊本県)ではこのほど、市内住宅地における大雨などによる浸水被害への対策の一環として、既存の排水機場施設における設備増強工事を行った。その際同市では、施設の増設に伴う基礎工事において、ある特殊な工法を採用し、市街化区域における制約の多い難しい工事を完工させたという。どのような工法だったのか。その詳細や効果などについて、同市担当者の前田氏に話を聞いた。
[熊本市] ■人口:73万7,944人(令和6年1月1日現在) ■世帯数:33万9,008世帯(令和6年1月1日現在) ■予算規模:6,971億8,323万6,000円(令和5年度当初)
■面積:390.32km² ■概要:九州の中央、熊本県の西北部に位置する。地勢は、金峰山を主峰とする複式火山帯とこれに連なる立田山等の台地からなり、東部は阿蘇外輪火山群によってできた丘陵地帯、南部は白川の三角州で形成された低平野からなっている。気候は、有明海との間に金峰山系が連なるため、内陸盆地的気象条件となり、寒暖の較差が大きく冬から春への移り変わりは早く、夏は比較的長いことが多い。
熊本市
都市建設局 土木部 河川課 河川整備班 主査
前田 裕まえだ ゆたか
市街化区域内の狭小地という、制約の多い難しい工事
―今回の排水機場施設における増設工事の背景を教えてください。
工事を行った地域は、2つの河川に挟まれた「輪中」の地形で、排水機場はあるものの、以前から浸水被害が発生していました。さらに近年、大雨災害が頻発化するなか、地元から要望を受けたことから排水能力の増強を検討したのです。被害シミュレーションの結果、排水能力は従来比1.5倍に増強する方針が決まり、整備方針については経済性と短工期の利点を考慮し、既存施設の増設で対応することに決定しました。ただし、施設増設に伴う基礎杭工事にはいくつもの大きな問題がありました。
―どういった問題でしょう。
まずは、既存施設の敷地が狭く、施工ヤードの大きさが限られていたことです。住宅街ゆえに搬入路も狭く、大型の重機や機材の持ち込みも難しい状況でした。また、河川区域内の施工であるため、非出水期のみに工期が限られ、河川堤防への影響についても考慮する必要がありました。複数の杭基礎工法を検討しましたが、どの工法でもこれらの問題をすべて解消することが難しかったなか、設計コンサルタントから提案されたのが「NSエコパイル工法」でした。
―どのような工法ですか。
先端にらせん状の羽根をもった『NSエコパイル』という中空の鋼管杭を回転させながら、地盤へ圧入させていく工法です。施工機械が自走式でコンパクトなため、狭小地でも工事が可能とのことでした。また、セメントを使用しないので、河川や周辺の水質環境への負荷も少ないという特徴も評価し、採用を決めました。
適用範囲の広い工法と評価
―工事の概要を教えてください。
敷地内の既存水路の一部を取り壊し、ゲート式のポンプを設置するというものです。『NSエコパイル』は、ポンプゲートを設置する躯体の支持杭として採用し、400mm径の杭を10本設置しました。杭の長さは27.5mでしたが、現場に合わせて持ち込む杭の長さを調整し、約5mの杭を5本溶接する継施工を現場で行うことで、住宅街の隘路でも機材を難なく搬入できました。工事は令和5年初めから、約10ヵ月の短工期で終えています。
―工法の効果はいかがでしたか。
この規模の狭小地で工事が行えたこと自体が最大の効果です。そのうえ、回転圧入式のため騒音や振動が抑えられ、住民からの苦情が一切なかったことも大きな効果でした。「鋼管杭は高価」という先入観があったのですが、土砂を杭の内部に取り込みながら圧入するため残土が発生せず、産廃処理費用が不要なため、その点は経済性に優れていると感じます。今回のような住宅街での工事のほか、河川改修に伴う橋梁架替えといった現場の制約が多い工事に広く活用できる優れた工法だと評価しています。
改修・補強案件が増す施設整備には、環境に優しく経済的な工法の検討を
本田 真一朗ほんだ しんいちろう
昭和52年、神奈川県生まれ。平成14年4月に日鉄建材株式会社に入社。防災鉄構商品、土木商品などの営業を経て、令和3年1月より日鉄建材株式会社エコパイル商品営業室長に就任。現職を兼務。
―施設整備を行う自治体には今、どのような課題がありますか。
昨今の施設整備は、既存施設の改修・補強といったニーズが増えたことで、制約条件の多い工事を行わなければならないという課題があります。建物や橋梁の補強工事では施工機械搬入路や現場が狭い、または上空制限がある状況での施工を求められることが多いです。また、水質汚染や土壌汚染、騒音・振動といった周辺環境への影響にも厳しい目が向けられています。当協会では、こうした制約条件の多い工事にも対応できる基礎杭工法として、「NSエコパイル工法」を提案しています。
―特徴を教えてください。
先端にらせん状の羽根を有する鋼管杭を地盤に静かに回転圧入させていく工法です。杭先端が開口型で、土を鋼管内に取り込めるため、特に貫入性に優れています。さらに、自走式の小型杭打ち機を使用することにより、狭小地や近接施工といった従来難しかった場所でも施工できる特徴があります。たとえば最小3m幅の隘路から施工機械を搬入することや、杭心から50cmの距離に敷地境界がある条件でも施工実績があります。また、セメントミルクなどを使用しないため水質汚染の心配がなく、残土が発生しないので残土処理も不要で、環境的にも経済的にも「エコ」な工法です。平成12年の認証取得以降、自治体発注のさまざまな構造物の基礎で数多く採用されています。当協会では、これからも施工品質の向上に努め、工法のさらなる改良を重ねながら、自治体の施設整備を支えていきます。