※下記は自治体通信 Vol.58(2024年6月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
行政手続きのデジタル化が進展する昨今、住民の窓口対応もオンライン化を進める自治体が徐々に増えている。そこでは、利用者に安心感を与える対面窓口の良さを残しながら、オンラインの利便性を享受できる仕組みが求められる。それに対し、五條市(奈良県)では、国の伴走型相談支援事業を機に、子育て支援事業において「対面オンラインサービス」を導入したという。同市担当者に、サービス導入の経緯と効果について聞いた。
[五條市] ■人口:2万7,291人(令和6年4月30日現在) ■世帯数:1万3,394世帯(令和6年4月30日現在) ■予算規模:311億8,520万8,000円(令和6年度当初) ■面積:292.02km² ■概要:紀伊半島の中央部、奈良県の南西部に位置しており、北は御所市と大阪府、西は野迫川村と和歌山県、南及び東は吉野郡に接している。北部は金剛生駒紀泉国定公園、東部は吉野熊野国立公園に指定されており、四季折々の美しい姿を醸し出す山々、吉野川、熊野川などの清らかな水が流れる河川や恵まれた自然環境を有している。全国でも有数の、柿の生産地として知られている。
伴走型相談支援の開始を機に、新たな支援の仕組みを模索 ―「対面オンラインサービス」を導入した経緯を教えてください。
きっかけは、こども家庭庁の発足に伴う、伴走型相談支援の開始が決まったことでした。妊産婦さんへどのような支援ができるかを考える中で、対面の面談かご自宅への直接訪問、電話応対が考えられました。しかし、こちらまで足を運んでいただくのは身重で安静が必要な妊婦さんやお子さんを抱えた産婦さんには負担です。また、直接訪問は感染症などの不安があるため、敬遠される方々も多いうえ、マンパワーの観点から職員の手が回らなくなると想定できます。かといって、電話ではお相手の状況が把握しづらく、細かなケアは難しいため、オンラインによる支援の仕組みを検討しました。
―検討に際して、重視したことはなんでしょう。
まずは、住民が簡単に使いこなせることです。パソコンやスマホなど端末や使用環境を選ばず、さらに新たなアプリをインストールする手間も必要なければ、気軽に支援を受けていただけます。また、面談の予約やスケジュール管理も簡単に行えれば、住民と職員の双方にとって利便性は高くなります。そうした点を考慮した結果、サイバーリンクス社の『Open LINK for LIFE みんなの窓口』(以下、『みんなの窓口』)を導入し、令和5年8月から運用しています。
―運用効果はいかがですか。
利用者の評判は上々です。それぞれの端末からアクセスし空き日程から予約を行えば、システムからURLが住民のメールアドレスに送信され、そのURLにアクセスするだけで面談が行えます。利用者は簡単に使いこなせ、自宅に居ながら対面のような安心感が得られたと聞きます。我々職員からも、自宅での妊産婦さんの自然な様子もわかり、逆に対面時以上にプライベートな深い事情までお話しいただけた印象です。
電子申請への活用も検討 ―今後の方針を聞かせてください。
当市では令和6年4月1日に児童福祉を管轄する「こども家庭センター」が設置され、母子保健との連携が強化されました。これからは、三者による面談にも『みんなの窓口』は活用できそうです。
また、『みんなの窓口』では、電子認証サービスと併用すれば、マイナンバーカードによる公的個人認証が行えます。運用中の電子申請システムと連携させ、各種申請手続きにも活用できると聞いています。今後は、各種の応援給付金や健診などの電子申請にも活用できればと期待しています。
対面同等の「安心感」を与えられれば、オンライン申請はさらに普及する
株式会社サイバーリンクス
公共クラウド事業部 公共サービスイノベーション部 DX推進課 主任
植林 宏昭 うえばやし ひろあき
昭和54年、大阪府生まれ。平成25年、株式会社サイバーリンクスに入社。公共クラウド事業部にて、基幹システム・内部情報系システムのサポート対応を経て、現職。
―自治体の窓口対応のオンライン化状況はいかがですか。
DX推進による業務効率化や、住民の利便性向上を図る自治体では、申請手続きの窓口対応もオンライン化の動きが進んでいます。一方で、ある民間調査によると、実際にオンライン申請を行った住民はさほど多くなく、その理由の半数以上が「対面での安心感を得たい」というものでした。つまり、オンライン申請を普及させるカギは「安心感」なのです。そこで当社が提案するのが、『Open LINK for LIFE みんなの窓口』です。
―どのようなシステムですか。
アプリのインストールが不要なWebサービスで、面談の予約受付、会議用URLの発行、予約情報の管理を一括して行えます。当社の本人認証サービス『マイナサイン』と連動させれば、マイナンバーカードによる本人確認が行えるので、各自治体の電子申請システムと組み合わせることで、各種のオンライン申請に活用することができます。具体的には、住民と電子申請画面を共有し、必要な情報を聞きながら、職員が代理入力するといった使い方ができ、対面同等の安心感を住民に与えられるのが最大の特徴になります。
―今後の自治体への支援方針を聞かせてください。
当社では、自治体ニーズに応じて今後、相談内容の自動文字起こし機能や、多言語翻訳機能といった機能拡張を計画しています。文字通り、『みんなの窓口』を誰もが利用できるサービスへと進化させ、自宅に居ながらにして各種の行政手続きを行える世界観をつくり上げていきたいと考えています。