※下記は自治体通信 Vol.59(2024年7月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
猛暑の時期を迎えると、学校現場で直面する大きな課題がある。「体育館における熱中症対策」だ。多くの自治体が空調設備の整備を検討しているものの、その高額さゆえに、なかなか進まないケースも多いようだ。そうしたなか、岸和田市(大阪府)では、すべての公立小中学校体育館に空調設備を整備し、令和5年度から運用を開始しているという。どのようにして整備したのか。同市学校管理課課長の松下氏に、詳細を聞いた。
[岸和田市] ■人口:18万7,290人(令和6年6月1日現在) ■世帯数:9万351世帯(令和6年6月1日現在) ■予算規模:2,076億2,674万円(令和6年度当初) ■面積:72.72km² ■概要:大阪府南部に位置する。明治中期以後は泉州綿織物を主とする紡織工業都市として発展し、金属、機械器具、レンズ工業も行われ、臨海部の埋立地には木材コンビナート、鉄工団地が建設された。古くから「城とだんじりのまち」として知られる。水産業は府内屈指の漁獲量を誇る。
大型扇風機や冷風機では、効果を感じられなかった
―学校体育館に空調設備を整備した経緯を教えてください。
児童・生徒の熱中症対策として、学校現場からは毎年のように、「体育館空調設備の整備要望」が市へ寄せられていました。しかし、市内35校の公立小中学校すべてに整備するには多額の予算が必要なため、なかなか進められずにいました。そうしたなか、「新型コロナ」の発生以降、感染対策として、教室以外の広い体育館で授業を行うケースが各学校で増えたため、これまで以上に体育館での熱中症リスクが高まると判断しました。そこで、大型扇風機や冷風機を用意しましたが、効果はほとんど感じられないとのことでした。ほかにいい方法がないかと他市の事例情報などを集めたところ、「大風量のスポットエアコン」の存在を知り、とても興味を持ちました。
―どこに興味を持ちましたか。
「大風量」が特徴の空調設備で、一般的なエアコンのように室内全体ではありませんが、大空間であっても人が活動しているフロア付近を効率よく冷やし、快適な環境にできる点です。また、一般的なエアコン設置の場合と比べて4分の1程度の費用で整備でき、さらに設置工事が比較的容易で工事期間も短いため、これなら早期に全学校に一斉導入できると考えました。そのほか、他市でも導入実績があることは大きな安心材料でした。
―なぜ、費用負担を抑えて整備できる仕組みなのでしょう。
1つには、「大風量」ゆえに一般的なエアコンよりも設置台数が少なくてすむため、導入費用を抑えられます。また、体育館に空調設備を整備する場合、一般的には電気容量が大幅に増えるため、各学校の受変電設備を改修しなければなりません。その点、設置台数が少なくてすむ今回のエアコンの場合、必要な電気容量を抑えられるため、受変電設備の改修工事が最小限ですみます。さらに、電気容量を抑えられることは、ランニングコストの低減にもつながります。これまでの課題だった「予算面の問題」をクリアすることができたため、入札を経て、令和4年度内で市内35校の公立小中学校すべてに整備を完了し、令和5年度から運用を始めています。
教職員からは「熱中症が減少」
―運用してみていかがですか。
快適な環境での利用が可能となり、「熱中症を訴える子どもが減った」という声が教職員から聞かれます。夏場の屋外行事も可能な限り涼しい体育館で行えば、さらに熱中症リスクから子どもたちを守ることができるでしょう。また、暖房機能も備わっていることから、災害時に避難所として開設する際、夏場は熱中症対策、冬場は防寒対策が可能で、避難所の良好な環境整備につながったと考えています。
設置台数を減らしても、「大風量」なら広い空間を冷やせる
株式会社イーズ
西日本支店 ソリューション営業部 主任
中原 桂介なかはら けいすけ
昭和58年、広島県生まれ。令和2年、株式会社イーズに入社。おもに産業、農業向け空調事業業務を担当する。令和6年から現職。
―「体育館空調」の整備に向けて、自治体が抱える課題はなんでしょう。
「多額の費用負担」ですね。1ヵ所の体育館だけでも、広さによっては1億円程度の予算が必要となります。さらに、「学校間の公平性」の観点から域内のすべての体育館を一斉に整備しなければなりません。どの自治体も、体育館に空調設備を整備する重要性は理解しているものの、「多額の費用負担」は大きなネックとなっています。
―解決策はありますか。
岸和田市が導入した当社の『スポットバズーカ』は、そうしたネックを解決できる空調設備だと考えています。大型のファンと熱交換機を組み合わせた独自構造により、50m先まで届く大風量の冷風を吹き出せます。大風量のため、一般的なエアコンの約半分の設置台数ですみ、導入コストを抑えられます。設置台数が減ることから、受変電設備の改修工事は最小限ですみ、ランニングコストの低減にもつながります。また、大風量なので設置台数が少なくても冷却効果は高く、「35℃の猛暑日で運転から1時間後には室温が7℃下がった」という報告もあります。加えて、冷房と同時に除湿も行い、「WBGT値*」を下げる効果もあります。こうした特徴が評価され、全国700校以上の学校体育館に設置されています。
―自治体に対する今後の支援方針を教えてください。
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*WBGT値 : 熱中症予防に用いられる指標。気温、湿度、日射・輻射熱の要素を取り入れて数値化する