※下記は自治体通信 Vol.59(2024年7月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
自治体には、部署を問わず全庁的に日々、発生する業務がある。文書や通知などの発送業務はその典型例の1つだ。その現場では、郵便局員に手渡す前の煩雑な集計作業や、労力のかかる封入・封かん作業に職員が頭を悩ませているケースは多い。そうしたなか、昭島市(東京都)では、複数の機械を導入し、郵便物の集計や封入・封かんを自動化。次々と業務効率化の効果を得ているという。取り組みの詳細を、同市総務部の2人に聞いた。
[昭島市] ■人口:11万4,873人(令和6年7月1日現在) ■世帯数:5万7,537世帯(令和6年7月1日現在) ■予算規模:775億7,671万6,000円(令和6年度当初)■面積:17.34km² ■概要:東京都のほぼ中央に位置し、東・北は立川市、西は福生市、南は八王子市・日野市に接する。昭和29年、北多摩郡昭和町と拝島村が合併し、東京都で7番目の市として誕生。市制施行後は、工場誘致により産業が振興し、大型団地も建設された。昭和62年には10万人都市となり、現在は多摩地区の中核的な都市として発展している。
昭島市
総務部 情報システム課 デジタル戦略担当係長
大澤 正和おおさわ まさかず
正確さとスピードが求められ、作業は心理的な負担も伴った
―郵便物発送業務の効率化に取り組んだ経緯を聞かせてください。
伊藤 当市では、各課の職員が発送したい郵便物を総務課に持ち寄り、それらを約3人の総務課員が後納郵便として送るための集計作業を行っていました。この作業は、郵便物の形状と大きさ、重さ、数量から料金を算出し、「差出票」を作成するというものです。集荷に間に合うよう煩雑な集計を正確かつ迅速に行う必要があるため、担当職員は日々、心理的な負担を感じていました。さらにコロナ禍の影響により、他市との「交換便*」が休止されるなど、業務量が増加することを懸念していました。その解決策を探るなかで、「郵便料金計器」という機械を知り、関心を持ったのです。
―それはどのような機械ですか。
伊藤 郵便物を通すと、郵便局から承認を得た印影と料金を一通ずつ印字できる機械です。この機械に通した郵便物は差出票の添付が不要になるので、郵便物の集計にかかる手間を大きく省けると期待しました。なかでもピツニーボウズ社製の郵便料金計器に対しては、郵便物の形状や大きさ、重さを完全自動で計測できる点を評価し導入。令和4年に運用を始めました。
―導入効果はいかがですか。
伊藤 郵便物を1分につき160通の速度で処理できるため、作業に当たる職員は1人で済み、部署全体のマンパワーに大きな余裕が生まれました。集計作業は、複雑な郵便料金体系を意識する必要もなくなったため、機械の操作方法さえ覚えれば誰でも手軽に行える単純作業になっています。
大澤 郵便料金計器の導入は、郵便物発送業務の自動化の有効性を実感する良い契機となりました。そこで、全庁の業務効率化を主導する我々デジタル戦略担当では、業務のさらなる効率化を目指し、郵便物の紙折りや封入、のりづけを自動化する「封入・封かん機」の導入に向けた検討を始めました。
*交換便 : 自治体や学校間において、書類などを配送する仕組みのこと
機械の処理技術向上を実感、封入作業の自動化にも期待
―そのタイミングで導入の検討を始めたのはなぜでしょう。
大澤 封入・封かん機の存在は以前から知っていました。DXを推進する担当としてさまざまなテクノロジーに触れるなかで、郵便料金計器が種々雑多な郵便物を高速で処理する様子を見て、機械の処理技術の向上を実感したのです。封入・封かん機も業務効率化に資すると考え、機械を取り扱っているピツニーボウズ社にデモンストレーションの実施を依頼しました。当市での2日間のデモンストレーションを通じ、さまざまな大きさの紙や折り済みの紙がまとめてスムーズに自動封入される様子から、当市でも活用できるというイメージを持てました。処理速度などの性能に優れ、自動で名寄せ*できるシステムも実装可能な点が決め手となり、同社製の機械と名寄せのシステムを令和6年4月に導入しました。すぐに活用できる業務もありますが、機械で推奨されるサイズの封筒の調達や、機械を活用できるような業務の見直しといった調整を進め、今後さまざまな部署で本格活用していく予定です。
―機械の活用により、どういった効果を期待していますか。
大澤 たとえば納税課の「督促状の発送業務」の場合、5人で1.5日かけていた封入・封かん作業を1人が1日で完結できるようになる見込みです。ほかにも、庁内では少なくとも37の業務が封入・封かん機の活用候補としてあがっています。なかには従来、2週間にわたって担当課の職員を動員するようなケースもあり、こうした作業の自動化は、全庁的な業務効率化につながると期待しています。
*名寄せ : 郵便物を宛先ごとにまとめること
郵便物発送業務の効率化②
種々雑多な郵便物の集計を自動化し、総務課の負担を「実質ゼロ」に軽減
ここまで紹介した昭島市のように、郵便物発送業務の自動化を通じ、職員の業務効率化を実現している自治体は、実は少なくない。宮古市(岩手県)もそうした自治体の1つで、長年、集計作業に「郵便料金計器」を活用し、業務負担を大きく軽減しているという。取り組みの詳細について、同市総務課の担当者2人に聞いた。
[宮古市] ■人口:4万6,069人(令和6年7月1日現在) ■世帯数:2万2,575世帯(令和6年7月1日現在) ■予算規模:550億9,690万9,000円(令和6年度当初)■面積:1,259.18km² ■概要:岩手県の沿岸部のほぼ中央、本州では最東端に位置する。沿岸部は三陸復興国立公園、山間部は早池峰国定公園として自然公園の指定を受けている。平地が少なく、総面積の約92%を森林が占める。世界三大漁場「三陸沖」に面した宮古市では、季節に応じた新鮮な魚介を使った料理を楽しめる。同市によると、わかめの出荷量やアワビの水揚げ量は日本一で、真鱈も日本有数の水揚げ量を誇る。
原課と総務課の作業時間が、「20分の1」に短縮されている
―現在、どのように郵便物の集計作業を行っているのですか。
吉水 1件当たりの発送量が膨大な郵便物を除き、原則は各課の職員がそれぞれ発送したい郵便物を「郵便料金計器」に通し、総務課に集めておきます。その郵便物を総務課の職員がまとめて郵便局員に手渡すという運用を行っています。
柾家 当市が郵便料金計器の活用を始めたのは古く、平成21年のことです。機械の老朽化を理由に令和2年に更新しましたが、その際に更新以外の選択肢はありませんでしたね。過去の記録を調査して振り返るなかで、郵便料金計器の活用で集計作業時間を20分の1に短縮できていることが確認できていたからです。
―調査の結果を具体的に教えてください。
柾家 たとえば、重量の異なる郵便物を合計180通集計する場合、かつては原課の職員が郵便物の料金を一通ずつ算出し、その内容をまとめた帳票を作成するのに約16分かかっていました。郵便物を受け取った総務課は、一部を抽出するかたちでダブルチェックを行い、正式に差出票を作成するといった作業に約5分をかけていました。各課と総務課は、集計作業に合計20分以上をかけていた計算になります。それが現在では、原課の職員が郵便物を機械に通すわずか1分程度の時間で、すべての集計作業を完結できているのです。総務課職員が種々雑多な郵便物の集計にかける負担は「実質ゼロ」になったとさえ言えますね。
吉水 かつて総務課職員が行っていた集計には、発送する郵便物の料金を毎回、予算費目ごとに表計算ソフトに記録する作業も含まれていたようです。当市が導入しているピツニーボウズ社の郵便料金計器では、原課職員が集計前にバーコードを読み取らせることで部門名を素早く自動的に選択でき、さらに郵便種別を指定することで部門別・種別の発送履歴をリアルタイムに蓄積できます。そのため、費目を毎回手作業で記録する手間はかからなくなっています。
郵便料金計器の活用を増やし、さらなる効率化も目指せる
―郵便関連業務の効率化をめぐる今後の方針を聞かせてください。
吉水 ピツニーボウズ社の郵便料金計器では、郵便物が一定の重量条件に合致した場合にのみ「郵便区内特別」の印字と割引料金を印字できる機能があることを、最近知りました。この機能を用いれば、「郵便区内特別郵便物*」制度を適用させたい郵便物の集計を、よりスピーディかつ正確に行えそうです。こうした便利な機能や、郵便料金計器で自動化できる作業をガイドラインとしてまとめ、機械の使い方を改めて全庁に周知することで、郵便物発送業務の一層の効率化を目指していきたいですね。
*郵便区内特別郵便物 : 郵便物の宛先や数、重量などの一定条件を満たした場合に料金が割り引かれる制度
郵便関連業務専用の機械を使えば、「特殊な作業」が「単純作業」になる
ピツニーボウズジャパン株式会社
Sending Technology ソリューションズ 営業本部 東日本営業2部 営業4課 仙台営業所 所長
大槻 茂おおつき しげる
昭和47年、宮城県生まれ。平成8年に東北福祉大学を卒業後、事務機器メーカーに入社。令和3年、ピツニーボウズジャパン株式会社に入社。東北エリアでの営業活動を担う。
―郵便物発送業務をめぐる自治体の現状をどう見ていますか。
働き方改革やDXの推進を通じ、郵便物発送を「人手や時間を省くべきノンコア業務」と捉える自治体が増えてきました。しかし、複雑な郵便料金体系の熟知や、「差出票」の作成が必要となるこの業務の「特殊性」がハードルとなり、いまだに有効な省力化策を見出せずにいるケースは少なくありません。
―良い解決方法はありますか。
郵便物を取り扱う業務に特化した専用の機械を活用することが、根本的な解決策になりえます。たとえば、日本郵便が認める印影を印字できる「郵便料金計器」を使えば、料金の算出を自動化できるうえ、差出票の作成そのものも不要になり、大幅な業務負担軽減につなげられます。さらに当社の郵便料金計器は、割引料金の適用を目的とした正確な集計をサポートするために、「郵便物の重量が特定の数値を超えると、集計を自動停止する」といった便利な機能も充実しています。機械自体もタッチパネル操作が可能で使い勝手がシンプルなため、従来の「特殊な作業」を、「誰もが手軽に行える単純作業」に変えることができるのです。
―今後、どのような方針で自治体を支援していきますか。
これまで400以上の自治体の郵便物発送業務を支援してきた実績を活かし、現場視点に立った課題解決方法を提案していきます。全国各地への出張デモも可能ですので、ぜひ気軽にご連絡ください。「こんなに簡単に使えるんだ」と驚く職員さんは多いですよ。