※下記は自治体通信 自治体DX特別号(2021年3月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
「デジタル手続法」の成立から間もなく2年。各自治体では、行政手続きのオンライン化に向けた動きが本格化しており、福岡市(福岡県)では、電子契約の本格的な導入検討に入った。これまで自治体にとっては馴染みの薄かった契約方式の導入を、どのように進めていくのか。担当者の橋本氏に、同市における行政手続きのオンライン化の進ちょく状況も含めて、話を聞いた。
福岡市データ
人口:156万3,154人(令和3年1月末日現在)世帯数:81万6,082世帯(令和3年1月末日現在)予算規模:1兆9,428億円(令和2年度当初)面積:343.46km²概要:福岡県の西部に位置する県庁所在地で、7区の行政区で構成される。九州エリアにおける行政、経済、交通の中心地として位置づけられている。平成27年の国勢調査では、「人口増加数・増加率」「10代・20代の人口割合」が政令指定都市のなかでトップとなった。
約3,800種類の申請書類を「ハンコレス」に
―行政手続きのオンライン化に向けた状況を聞かせてください。
当市では、最初に「ハンコレス」の推進から着手しました。住民に申請書類への押印を求めていては紙の書類が必要となり、オンライン申請は進みません。平成31年から着手し、令和2年9月末までに約3,800種類の申請書類について押印義務を廃止。オンライン申請の土台を整備できたと思います。
さらに今年の年初から、「デジタル行政」のもうひとつの中核となる取り組みに着手しています。
―どのような取り組みでしょう。
物品購入や業務委託などの際、事業者と交わす契約を「電子契約」に切り替えたいと考えています。当市は年間10万件以上の契約を書面で交わすなか、この部分のデジタル化に、ある事情のためなかなか着手できませんでした。
―「ある事情」とはなんですか。
これまで、自治体が電子契約を結ぶには国が認める電子証明書が必要だったのです。それを取得する手続きやコストなどが契約の相手方の負担になると考えられたため、なかなか着手できませんでした。いま企業の間で電子契約が普及しているのは、電子証明書の取得が不要な電子契約サービスを活用しているからだと考えられます。そのような動きを踏まえ、今後の電子契約導入に向けて、GMOグローバルサイン・ホールディングス(以下、GMO)をはじめ、複数の民間事業者が提供する電子契約サービスを使い、1年間の実証実験を行うことにしました。そして、実証開始直後の今年1月末に、国が地方自治法施行規則を改正し、自治体も企業の間で普及している電子契約サービスを利用できるようになったのです。
契約の性質に応じた、電子署名方式の使い分けを
―実証実験はどのように進めていきますか。
いままで電子契約の活用実績がないため、いったん従来通り書面契約を交わしたうえで、同じ内容の電子契約も交わすようにします。その際、「文書の改ざん」や「なりすまし」が生じないか慎重に確認します。電子契約には、電子署名方式の違いにより、第三者の電子認証局(※)が厳格に本人確認を行う「当事者型」と、電子契約サービスを提供する事業者が本人確認を行う「立会人型」の2種類があります。GMOはどちらの電子契約にも対応できるため、契約内容に応じた「使い分け」も実証できます。
※電子認証局:電子証明書の登録、発行、失効を行う機関
―「使い分け」について、詳しく説明してください。
たとえば、数百億円単位の「公共工事の発注契約」と、日常的な「事務用品の購入契約」について、異なるタイプの電子契約の性質も踏まえながら、どのように進めるべきかという議論があります。前者の場合は、より安全性が担保できる「当事者型」、後者は、よりスピーディに進められる「立会人型」が適しているのではないかと。こういった使い分けを明確に定めてこそ、電子契約は推進できると考えており、GMOからは、使い分けに関する助言ももらいながら実証を進めていきます。