※下記は自治体通信 Vol.57(2024年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
政府が掲げる「こどもまんなか社会」の実現を目的に、こども・子育て政策を一元的に担うべく令和5年4月に発足した「こども家庭庁」。「異次元の少子化対策」を標榜する政府にあって、こども政策の司令塔として今後、いかなる政策を推進していくのか。またそこでは、政策の実現に向けて問われる各自治体との連携をいかに進めていくのか。担当大臣の加藤氏に、今後の行政ビジョンなどを聞いた。(取材は令和6年1月下旬に行いました)
加藤 鮎子かとう あゆこ
昭和54年、山形県鶴岡市生まれ。平成15年に慶應義塾大学法学部を卒業後、株式会社ドリームインキュベータ入社。平成20年に米国コロンビア大学院国際公共政策(国際経済政策)修了。その後、衆議院議員秘書を経て、平成26年12月に衆議院議員総選挙に当選。環境大臣政務官兼内閣府大臣政務官、自由民主党副幹事長、国土交通大臣政務官 などを歴任。令和5年9月から現職。
政府として共有する、「ラストチャンス」の危機感
―令和5年4月に発足して以来、こども家庭庁としての成果をどのように振り返りますか。
発足からの10ヵ月を振り返れば、令和5年6月に「こども未来戦略方針」が示され、それに基づく「こども未来戦略」が閣議決定されました。これは、「次元の異なる少子化対策」の実現に向けて、取り組むべき政策強化の基本的方向を取りまとめたものです。これと同時に、こども基本法に基づくわが国初の「こども大綱」も閣議決定されています。ここには、中長期的なこども・子育て政策に関する基本方針や重要事項が一元的に定められています。これらによって、こども政策の司令塔として、大きな一歩を踏み出すことができたと考えています。
―詳しく教えてください。
「こども大綱」については、多くのこどもや若者、子育て当事者のみなさんから意見をお寄せいただき、ともにつくり上げたという感覚を持っています。こども政策の企画立案や実行にあたっては、なによりも「当事者ファースト」の視点が重要だと考えています。こども家庭庁としても発足と同時に、こどもや若者からこども政策に対する意見を聴く「こども若者★いけんぷらす」を推進してきました。そうした成果がひとつ、ここに結実したと考えています。
また、「こども未来戦略」については、財源が約3.6兆円におよぶ前例のない規模の大きなプランを示しています。これまでのこども政策や少子化対策に照らし合わせれば、目玉になる政策がぎっしりと詰め込まれたようなプランになっていると考えています。
―そこには、政府としての危機感が表れているのでしょうか。
そのとおりです。2000年頃から一段と出生数が落ち込んでいますが、その世代がこどもを産む世代になるのが間近に迫っています。岸田総理も指摘しているように、2030年に至るまでのここ6~7年が、少子化傾向を反転させるためのまさに「ラストチャンス」であるとの危機感を政府としても共有しています。私としても、身の引き締まる思いで担当大臣を拝命し、責任とやりがいを日々感じながら職務にあたっています。
実務を現場で執り行う各自治体との連携を強く意識
―就任からこの間、どのような活動に力を入れてきましたか。
「現場の声」を聞き、それを政策に反映することに力を入れ、こども政策や子育て支援における自治体の先進事例の現場にできる限り足を運んできました。たとえば、京都府の「きょうと婚活応援センター」の視察では、きめ細やかな伴走型の結婚支援の実情をうかがいました。成婚された方々からもセンターを利用した感想をお聞きするなかで、こうした伴走型結婚支援の必要性を痛感しました。
また、こどもや若者が地域課題の解決策を話し合う「ユースカウンシル(若者議会)事業」の視察として、兵庫県尼崎市を訪れました。そこでは参加者が政策提言まで行っている姿に感銘を受けました。同時に、若者たちが政策策定過程に関与できるという事実を知ること、「自分たちが環境を変えていけるんだ」という意識を持つこと自体がとても重要であるとあらためて確認できました。こうした動きを全国に広げ、若者たちの声が施策に反映される土台にしていきたいと思っています。
―「現場の声」を聞くことは、大事にしているスタンスですか。
そうです。それは私自身、2人のこどもを持つ母親であることに加え、地方選出の国会議員であることも関係しているかもしれません。「課題の本質は、現場の『生の声』を聞かなければつかめない」というのが、私自身が政治家として大事にしている信条であり、それはこども政策においても貫いています。特にこども家庭庁は、私がこれまで経験してきた農林水産省や国土交通省とは違い、全国各地に地方組織がありません。ですから、なおさら直接現場の声を聞くことを心がけなければならないと思っています。とりわけ、こども政策の実務を現場で執り行う各自治体との連携は、強く意識してきました。
地域の実情を踏まえて、各自治体は特色のある施策を
―「自治体との連携」については、どういった施策を進めているのでしょう。
先の「こども基本法」においては、各自治体は「自治体こども計画」を策定することが努力義務とされています。また、こども政策の策定や評価にあたっては、こどもや若者、子育て当事者の意見を政策に反映させるために必要な措置を講ずることも定められています。
これについては、計画策定に必要となる経費について、「こども政策推進事業費補助金」を通じて支援すると同時に現在、計画策定のためのガイドラインの作成に取り組んでいます。一方、こどもや若者の意見を反映させる取り組みについては、自治体へのファシリテーターの派遣や相談対応などを行う「こども・若者意見反映サポート事業」を実施するとともに、行政職員向けにガイドラインの策定にも取りかかっています。
―こども政策の推進にあたって、自治体にはどのようなことを期待していますか。
地域の実情を踏まえて、各自治体がそれぞれに特色のあるこども政策を推進されるようお願いしたいです。こども家庭庁としても、補助金による支援やガイドラインの作成などを通じて、自治体における各種のこども政策を後押ししていきます。なかでも、少子化対策については、特に地域の実情や課題に応じた取り組みが必要と考えており、自治体が安定的に取り組めるように措置を講じています。「地域少子化対策重点推進交付金」は、自治体からの要望を受け、令和5年度補正予算において前年度と同額の90億円を、令和6年度予算案においても前年度と同額の10億円をそれぞれ計上しています。本交付金がさらに多くの自治体で活用され、地域独自の少子化対策が進むように願っています。
国と自治体が両輪となって、こども政策の推進を
―これらの政策の先に、どのような将来ビジョンを描いていますか。
すべてのこども、若者が身体的、精神的、社会的な幸せ、いわばウェルビーイングな状態で生活を送ること。これが「こどもまんなか社会」が目指す姿です。その実現に向けて、自治体との連携を強化し、政策遂行を支えていくのが、こども家庭庁の責務だと考えています。いまが「ラストチャンス」という覚悟で、ぜひ国と自治体が両輪となってこども政策を総合的に推進していきましょう。