ビッグデータから民意を拾い、効果の高い政策立案を目指す

兵庫県西宮市の取り組み(1)
データを活用した政策立案①
ビッグデータから民意を拾い、効果の高い政策立案を目指す
政策局政策総括室 政策推進課担当課長(施設・まちづくり) 松浦 修一
総務局情報管理部 情報企画課担当課長(情報システム) 南 晴久
※下記は自治体通信 Vol.29(2021年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
デジタル技術の飛躍的な向上で、自治体におけるDX推進の機運が高まりを見せるなか、西宮市(兵庫県)ではEBPM(※)の取り組みを進めている。そのなかで、同市が活用しているのが、ヤフーのサイトで蓄積されるビッグデータだ。同市のふたりの担当者に、ヤフーのビッグデータを活用する狙いや期待する効果などを聞いた。
※EBPM : Evidence-based Policy Makingの略。客観的根拠にもとづく政策立案のこと


即時性の高いデータから、市民の行動や関心を汲み取る
―西宮市ではDX推進にあたり、ヤフーが持つビッグデータを活用しているそうですね。
南 はい。当市では「市民と共に新たな価値を生み出す市役所改革」を目指す姿とした、行政経営改革を推進しています。その推進をICTで加速するために、デジタル技術をフル活用したDXによる新たな価値の創出に向けた取り組みを始めています。その成功のカギとなるのが、客観的データを活用したEBPMの取り組みです。というのも、過去の経験や政策事例だけでなく、市民の行動や心理、社会の状況をタイムリーに表したデータを活用してこそ、効果的な政策を立案できると考えているからです。そのために活用しているのが、ヤフーの検索ワードやサイト利用者の位置情報が集まったビッグデータです。
―なぜ、ヤフーのビッグデータに着目したのでしょう。
松浦 これまで、技術面やコスト面がハードルとなり、把握するのが難しかった「まちなかの人の動き」や「市民の感じる心配事や関心事」などを、タイムリーに把握できるからです。たとえば、緊急事態宣言を受けて市内の人出は減ったのかどうか。長引くコロナ禍のなかで、市民はどのようなことに関心を持ち、なにに不安を感じ、どう困っているのか。学校のことか、雇用のことか、それとも日常の買い物や交通のことなのか。これらのデータを、即時に大量かつ低コストで取得できます。
南 当市がデータを活用する際に、もっとも重視するのは個人情報の保護です。その点、ヤフーのビッグデータは利用者の個人情報が特定されないよう匿名化されており、私たちは男女別、年代別、居住地別に活用・分析できます。これらのビッグデータが日々更新され、遡って確認・比較することもできるのです。たとえば、「昨年とくらべて駅前の繁華街に集まっている人たちは、どのくらい減ったのか」「前回の災害発生時に急増した検索ワードはなにか」など、かなり細かなデータが得られます。得られたデータに担当者の経験知を掛け合わせることで、「次にどのような手を打てばいいか」について、迅速に判断できるようになると期待しています。

情報を分析・解釈する力が、政策を的確に進めるカギに
―データを多く集めるほど、的確な政策推進につながりますね。
松浦 データを集めるのは大切ですが、それだけでは、政策を的確に推進できるとは限りません。ヤフーのビッグデータからは多くの情報が得られ、当市も多くのデータを保有しています。しかし、課題解決のためには、どのような情報をどのように集めるか、そして、集めた情報をいかに適切に分析・解釈するかが重要です。これを当市だけで行うのはハードルが高すぎると考えたため、データの利活用に向けた取り組みを共同で進める連携協定を、昨年8月にヤフーと締結しました。
―今後、ヤフーのビッグデータをどのように活用していきますか。
南 現在は、「新型コロナ対策」と「都市ブランド発信」で活用しています(次ページ以降に詳細)。担当者から、「データの分析により新しい発見があった」と聞いており、新たな取り組みのためのエビデンスになっているようです。多くの職員がデータの活用に慣れるよう、ヤフーのビッグデータを分析できるサイト『DS.INSIGHT』のIDを全局に配布しました。今後、まちづくりや防災、広報など、さまざまな部署の職員が、いち早く市民の変化に気づき、必要な人に、必要な行政サービスが届けられる市役所となれるよう、DXを推進していきたいと思います。
兵庫県西宮市の取り組み(2)
データを活用した政策立案②
ビッグデータから民意を拾い、効果の高い政策立案を目指す
政策局政策総括室 政策推進課担当課長(政策企画) 岡崎 州祐
産業文化局産業部 都市ブランド発信課長 岸本 綾
前例がないコロナ対策だからこそ、ビッグデータで政策にメリハリを
前ページでは、ヤフーのビッグデータを活用したEBPMについて、西宮市の政策推進方針を紹介した。ここからは、実際にデータを活用している担当現場を取材。まずは、新型コロナウイルス感染症対策におけるデータの活用方法について、担当者の岡崎氏に話を聞いた。

「コロナ」の検索量が、陽性者の先行指標に
―ヤフーのビッグデータを使い、どういったことを調べていますか。
大きくふたつあります。ひとつは感染症の流行についての情報です。たとえば「コロナ」や「インフルエンザ」などのワード検索量は、その後に発生する陽性者数とかなり相関関係が高いので、「先行指標」として毎日確認しています。もうひとつは、リアルタイムでの市民の関心動向や行動傾向です。たとえば、人の移動に関係する「外食」や「旅行」といったワード検索状況や、どの場所・時間帯に多くの人が集まっているかの「人流データ」も調べています。
―それらの調査は、どのように活かされていますか。
昨年秋ごろ、新型コロナとインフルエンザの同時流行が懸念されていたので、「コロナ」「インフルエンザ」の検索量を毎日継続的にモニタリングしていました。それにより、同時流行はなさそうだという感触を、じつはかなり早い時点でつかんでいました。かりに同時流行になっても、予兆段階で速やかに初動対応できたと思います。
そのほか、広報活動で活かしています。昨年11月ごろから新型コロナの陽性者数は増加傾向にあり、外食関連の検索量は11月中旬から急減しました。ということは、市民に外食に関して注意するよりも、マスクの着用や換気といった基本的な予防対策の徹底に重点を置いた呼びかけのほうがいいのでは、と考えるヒントが得られたのです。また、「人流データ」も、人が増加しているエリアへの注意喚起を強化することにつなげています。
―ビッグデータは今後の対策にどのような効果をもたらしますか。
過去に前例がない「新型コロナ対策」だからこそ、各種情報の活用による状況予測と施策立案が大切だと思っています。今後もワクチン接種など新たな取り組みが続くなか、ビッグデータを有効活用し、利用可能なリソースから最大限の効果を生み出すことにつなげていきたいです。

「日本酒」に関連する検索語を探り、女性向けの新たなPR戦略を立案
日本を代表する酒どころとして知られる「灘五郷」。西宮市には、その一角をなす「西宮郷」と「今津郷」がある。同市では、基幹産業のひとつである日本酒のPR戦略に、ヤフーのビッグデータを活用している。担当者である岸本氏に、どのように活用しているのか話を聞いた。

ビッグデータの分析から、思わぬことが判明
―どのような目的で、ヤフーのビッグデータを活用しようと考えたのですか。
近年当市では、日本酒の新たなファン層を開拓しようと、女性層へのPR戦略を強化してきました。たとえば、桃の節句に合わせた甘酒のPRや、女性向けの日本酒飲み比べイベントなどです。しかし、結果が出ているのかどうかについて、目に見えるカタチではなかなかつかめずにいました。そのため、「成功した」と思われる事例の深掘りができなかったり、企画を継続するかどうか判断に迷ったりすることも。そこで、まずは、「そもそも女性は日本酒に興味を持ってくれているのか」をはっきりさせようと、ヤフーのビッグデータを活用することに。すると、思わぬ結果が出たのです。
―どういった結果でしょう。
「日本酒」をワード検索している割合を男女別でみると、ほとんど変わらなかったのです。まさかここまで多いとは思っていませんでした。「女性にしっかりとPRできれば、必ず結果は出る」という確信が持てましたね。
―今後、どのような内容でPRしていきますか。
女性が、「日本酒」と一緒にどういったワードを検索しているのかを調べてみたところ、圧倒的に「料理」「おつまみ」が多かったのです。そこで、日本酒との絶妙なマリアージュ(※)が楽しめる料理のレシピを紹介する「日本酒×料理」を訴求することで、効果的なPRが展開できると考えています。
そのほか、過去の検索状況を遡って調べてみると、毎年1月から2月にかけては、「バレンタイン」というワード検索量も急増することがわかりました。これらヤフーの検索データをもとに、市内の酒造会社と酒蔵観光についてブレストを始めています。今後は、「バレンタイン特集での日本酒PR」といった、これまでにない戦略を酒造会社と一緒に考えていきたいですね。
※マリアージュ:仏語で「相性のいい組み合わせ」の意味


支援企業の取り組み
データを活用した政策立案③
「隠れたニーズ」も可視化できるため、民意を先取りした政策を立てられる
データソリューション事業本部 部長 大屋 誠
データソリューション事業本部 リーダー 兵藤 安昭
※下記は自治体通信 Vol.29(2021年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
ここまでは、西宮市が取り組むEBPMの事例を紹介した。これらの内容を受けて、「ビッグデータの活用は、自治体の政策立案の質を高める」と語るのは、データを提供するヤフーの大屋氏。ここでは、同社の兵藤氏とともに、自治体におけるEBPMの状況や、ビッグデータの活用で期待できる効果などを聞いた。


8,000万人分のデータを、刻々と蓄積
―EBPMに取り組む自治体の状況を教えてください。
大屋 今後、自治体が限られたリソースのなかで、住民によりよいサービスを提供していくには、的を絞った効果的な政策立案が求められます。それを実現する手段として、根拠のあるデータに基づいたEBPMが注目されており、多くの自治体が導入を検討しています。
―EBPMを推進していくうえでのポイントはなんでしょう。
大屋 住民のライフスタイルや価値観が多様化し、変化のスピードが速まっているなか、住民のニーズを正確に把握する手段を確立し、迅速に意思決定していくことが必要です。その手段として、当社が保有するビッグデータの活用は最適だと考えています。
兵藤 ヤフーの検索サイト利用者は、まさにいま、調べたいこと、興味のあることを検索ワードとして入力しています。その内容は、ときとして「はい」「いいえ」で答えるだけのアンケートでは決してうかがい知れないもので、興味や関心といった、表面化しにくいものも多数含まれています。それらは、利用者が本当に欲している情報なので、「潜在的かつ本質的なニーズ」と言っても過言ではありません。そういったデータを、年間8,000万人のサイト利用者から刻々と蓄積しているのが、私たちのビッグデータなのです。その分析ツールとして提供しているのが『DS.INSIGHT』です。
―自治体は、ビッグデータをどのように活用できますか。
兵藤 観光政策やシティセールスを展開する際の需要把握のほか、社会変化にまつわる不安の把握などにも活用できます。たとえば、厳しい環境が続く雇用対策として、住民の求人に関する検索状況を分析したとしましょう。「求人」と一緒に検索されているワードを調べた場合、検索量と比例した大きさの丸印で分布表示されます。これにより「求人」の関心がエリア、職種、業務形態などに大別されることがわかります。そのなかで、業務形態にあたる「在宅ワーク」をピックアップすると、「求人 在宅ワーク」の検索推移がグラフ表示され、昨年から増加していることがわかります。また、「求人 在宅ワーク」を検索した人が、ほかにどのようなワードをいつ検索したのかも把握可能です。「在宅ワーク 主婦」の検索量が夏から伸びており、主婦層の在宅ワーク需要が、求人ニーズとして把握できるという流れです。


125m四方の来訪状況が、男女別、年代別に把握できる
―さまざまな角度から分析できますね。
兵藤 はい。そうすることで求職者のタイムリーな関心・傾向を把握できるため、的確な雇用対策につながると考えています。
大屋 そのほか、ヤフーでは任意に指定したエリアの来訪状況を把握できる「人流データ」も提供しています。125m四方のメッシュ単位で統計化された来訪者数を男女別、年代別に把握でき、来訪元などもわかります。これらの情報は、西宮市が行っている新型コロナ対策のほか、公共交通政策などに活用できるでしょう。
また、1契約で100IDが利用可能なので、西宮市のように原課の方が直接データを活用する環境がつくりやすいです。自治体のみなさんの活用事例は、3月に開始した「ヤフー・デジタル行政コミュニティ」で共有していきます。無料で登録できるので、ぜひご利用ください。
サービス開始時期 | 平成8年4月 |
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事業内容 | イーコマース事業、会員サービス事業、インターネット上の広告事業など |
URL | https://ds.yahoo.co.jp/ |
問い合わせ先 | データソリューション事業本部 パブリックエンゲージメント部 〈ホームページからの問い合わせ〉 https://ds.yahoo.co.jp/contact/ 〈詳細情報はコチラ〉 https://ds.yahoo.co.jp/gov/ |