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被害を資源に変える 「地方創生」のフレームワーク

被害を資源に変える 「地方創生」のフレームワーク

【自治体通信Onlineレポート 2018/03/13】IoT×鳥獣被害防止

被害を資源に変える 「地方創生」のフレームワーク

新しい技術や新しい仕組みを取り入れ、官民が協力して「地域創生」のフレームワークをつくる―。こうした新しい鳥獣被害防止の取り組みが始まっている。IoTの活用によるスマートな資源利活用へと進化しつつある鳥獣被害防止の“いま”をレポートした。
【目次】
■ 「被害の高止まり」が懸念
■ 「狩猟者依存」は限界
■ IoT導入で捕獲数が前年比5倍超に~五島市の事例
■ 国も交付金などでICT活用を後押し

「被害の高止まり」が懸念

農林水産業や生活環境など広い範囲に被害をおよぼしているイノシシなどの捕獲事業に全国の自治体が抜本的に取り組む契機となった平成25年の「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」(以下、同対策)。環境省と農林水産省がまとめた同対策により、鳥獣捕獲対策の集中的な実施や捕獲従事者の育成・確保などの取り組みが進んでいる。

同対策の開始以降、鳥獣被害は減少傾向にある。同対策が取りまとめられる前年度の平成24年度の農作物被害金額は230億円だったが、平成25年度には200億円を切り、以降も漸減傾向を示している。(下のグラフ「野生鳥獣による農作物被害金額の推移」を参照)

 

出所:農林水産省(記事末尾の「資料出所一覧」①参照)

 

一方で、先行きを懸念する声もある。駆除の担い手である狩猟者の減少と高齢化だ。1975年度には500万人以上いた狩猟免許保持者は2006年度に200万人台を割り込み、近年では180~190万人台前半で推移している。(下のグラフ「狩猟者数の推移」を参照)

 

出所:農林水産省(記事末尾の「資料出所一覧」②参照)

 

しかも、その多くは60歳以上で、狩猟者数の“V字回復”は難しい情勢だ。そのため、駆除の担い手減少を原因とする被害の高止まりも心配されている。

関連記事:「社会課題解決企業」として地域と一緒に課題へ取り組む
https://www.jt-tsushin.jp/interview/jt16_nttpc/2/

「狩猟者依存」は限界

持続性のある鳥獣被害防止を推進するためには、早急に解決すべき課題もある。狩猟者の負担軽減だ。

総務省総務省関東管区行政評価局が埼玉県・茨城県・栃木県および長野県の猟友会に委託し、狩猟者が負担している手間やコストの実態を調査したところ、収入と支出を単純比較すると支出が約2万円上回ることがわかった。

備品購入額等を含めると、マイナス分はさらに拡大する。駆除の担い手である狩猟者は、駆除をすればするほどマイナスが大きくなるという矛盾した状況に置かれているのだ。(下図の「鳥獣の捕獲活動に伴う経費や収入 」を参照)

 

出所:総務省 関東管区行政評価局 、自治体通信Online編集部が抜粋し作成(記事末尾の「資料出所一覧」③参照)

 

この実態調査は36人の狩猟者を対象にしたもので、狩猟者の平均年齢は68.4歳、最年少は59歳で最高齢77歳だった。

従来の駆除のあり方は狩猟者の地域貢献に対する情熱や「ふるさとを守る」という地域への愛情に依存している面があった。有り体(ありてい)に言えば狩猟者は「持ち出しの手弁当」で駆除にあたってきたのだ。これでは持続的な取り組みは難しい。

各自治体では有害鳥獣捕獲報償金等を増額するなど、狩猟者の負担を抑える施策を進めている。しかし、それも抜本的な対策とはなりにくい。高齢化が進み、狩猟者が減り続けているという問題は解決されないからだ。従来の枠組みとは異なる、新たな方策が必要されている。

関連記事:地方創生へと至る「真のエコサイクル」確立に向けて
https://www.jt-tsushin.jp/interview/jt16_nttpc/3/

IoT導入で捕獲数が前年比5倍超に~五島市の事例

こうしたなか、イノシシ捕獲で目覚ましい実績を上げている自治体がある。五島市役所(長崎県)だ。

元来、海に囲まれた福江島に位置する五島市にイノシシは棲息していなかった。しかし、海を渡ったと推測されるイノシシが平成20年に初めて島内で目撃。以来、農作物が荒らされるなどの鳥獣被害が拡大し、営農意欲の減退を招くなど、金銭的被害だけではなく精神的な悪影響も深刻化していた。

それまでイノシシが棲息していなかったことことから五島市に狩猟者や捕獲業者がいなかったため、捕獲は追いつかなかった。五島市役所では専属班を組織し、防護柵の設置や捕獲にあたった。しかし、イノシシの旺盛な繁殖力は対策を上回った。

難しい状況が好転するのは、五島市役所が平成29年11月から鳥獣被害防止を目的としたIoTシステムを仮運用させたことだった。

被害地域に出没検知センサー、捕獲檻には捕獲検知センサーを設置し、地図情報と連携。出没や捕獲の状況などをリアルタイムで通知・可視化するIoTシステムを運用したことなどにより、捕獲数は前年比で一気に5倍以上へと急増した。(下のグラフ「鳥獣被害防止IoTシステム運用後の五島市のイノシシ捕獲数推移」を参照)

 

出所:自治体通信Online(記事末尾の「資料出所一覧」④参照)

 

また、移住者のジビエ活用の着想をきっかけに、五島市は民間の食肉処理・販売会社と平成30年9月から連携。捕獲したイノシシを、近年、国内でもブームとなっている「ジビエ」として加工販売する取り組みを推進し、地方創生にもつなげている。

IoTシステムによって捕獲を効率化するとともに、農作物などに被害をもたらす害獣だったイノシシを「地域の資源」として有効に利活用し、新しい地域ビジネスという“出口”を設ける―。五島市の事例は持続的な鳥獣被害対策のモデルケースであり、地域特性を活かした地方創生のあり方のひとつと言えよう。

参照記事:深刻な鳥獣被害問題が地域活性化の起爆剤に
https://www.jt-tsushin.jp/interview/jt16_nttpc/

国も交付金などでICT活用を後押し

国もIoTなどのICT等を活用した捕獲の取り組みを支援している。総務省は市町村が負担した経費の8割を特別交付税措置しているほか、農水省は「鳥獣被害防止総合対策交付金」にてICT等を活用した捕獲機材等の実証・導入を支援している。(下図の「鳥獣被害防止総合対策交付金を活用した事業イメージ」を参照)

 

出所:農林水産省(記事末尾の「資料出所一覧」⑤参照)

 

もう、狩猟者の“善意の負担”のみに依存するわけにはいかない。新しい技術、新しい連携を取り入れ、従来の枠組みを「地域の取り組み」に昇華させることが持続性と実効性のある鳥獣被害防止となり、自然と人間が共生していくための手立てとなるだろう。

【資料出所一覧】
農林水産省 農村振興局「鳥獣被害の現状と対策」(平成31年)
農林水産省「年齢別狩猟免許所持者数」
総務省 関東管区行政評価局「鳥獣による被害及びその防止の取組の実態調査 結果報告書」
自治体通信Online「深刻な鳥獣被害問題が地域活性化の起爆剤に」
農林水産省「鳥獣被害対策について」


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