「3つの維新」のさらなる進化を目指す山口県の県政ビジョン
今こそ「維新スピリッツ」を奮い立たせ、経済や暮らしの「発展的再生」を
山口県知事 村岡 嗣政
※下記は自治体通信 Vol.49(2023年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
コロナ禍に突入して3年が経過し、社会全体がウィズコロナに向けて動き始めている現在、各都道府県ではそれぞれの社会課題を反映した総合計画のもと、政策運営を進めている。そうしたなか、山口県では、令和4年12月に今後5年間を見据えた県の新たな総合計画「やまぐち未来維新プラン」を発表した。デジタル化やグリーン化といった昨今の社会経済情勢の変化を反映させ、これまでの基本方針の「さらなる進化」を掲げている。ここでは、同県知事の村岡氏に、新計画策定の背景や今後の県政ビジョンなどを聞いた。
総合計画の柱となる「3つの維新」とは
―山口県では、令和4年12月に新たな総合計画を発表しました。策定の背景を教えてください。
当県の課題は、なんといっても人口減少です。これをできるだけ食い止めながら、山口県としての活力を保ち、高めていくことが県政の基本目標となります。前期の総合計画「やまぐち維新プラン」は、策定した平成30年が明治改元から150年の節目に当たることから、山口県の「維新スピリッツ」を再び奮い立たせて、課題に立ち向かおうとの思いを込めて策定したものでした。そして今回策定した「やまぐち未来維新プラン」では、計画の柱に据える「3つの維新」は踏襲しながらも、昨今の社会経済環境の変化に対応して、「3つの維新」のさらなる進化を図るためのキーワードとして、新たに「4つの視点」を設定しています。
―計画の柱とする「3つの維新」とはなんでしょう。
計画ではそれぞれ、「産業維新」「大交流維新」「生活維新」と表現しているように、産業、交流、生活という3分野において県の活力を高めていくことが、本計画の基本となります。
このなかで、人口減少に立ち向かい、地方創生を推進していくうえでは、まずは産業の活力を高めていくことが基本になるとの考えから、「産業維新」を最初に掲げています。特に力を入れてきた企業誘致では、この8年間で250件を超える実績を重ね、5,500人以上の雇用を生み出しています。この産業政策を基盤に人やモノの交流を促進し、経済を活性化していく。それが「大交流維新」です。それらの成果のうえに、県民生活の豊かさを築いていくのが「生活維新」です。
「3つの維新」を進化させる「4つの視点」
―この「3つの維新」を進化させるための「4つの視点」とは、どのようなものですか。
「安心・安全」「デジタル」「グリーン」「ヒューマン」の4つです。これらはいずれも、昨今の社会経済環境の大きな変化を理解するうえでの重要なキーワードだと言えます。新計画では、これらの視点を「3つの維新」に注入し、20の維新プロジェクト、72の重点施策を設定しています。
―具体的に、どのような取り組みが進んでいるのでしょう。
たとえば、「グリーン」の視点から進める「産業維新」に、コンビナートにおけるカーボンニュートラルの取り組みがあります。山口県は、化学メーカーが集積する3つのコンビナートを擁することから、全国的に見てもCO2排出量が多く、産業部門などの排出量割合が70%と全国の約2倍となっています。石炭火力発電の多さが主要因ですが、これを単に再生可能エネルギーに代替すればよいかと言えば、そう単純な問題ではありません。コンビナートにおける各社の製造プロセスはそれぞれ連関して成り立っており、発電で発生する熱を利用する製造プロセスも存在します。また、当県の主力産業のひとつであるセメント産業のように、製造プロセスでどうしてもCO2の排出が避けられない産業もあるのです。
―コンビナートにおける産業構造そのものに関わる問題ですね。
ええ。これらの事情を乗り越えていくために、県では「コンビナート連携会議」において、企業間の取り組みを調整しながら、カーボンニュートラルを実現する新たな製造プロセスの開発を後押ししています。その一例が、「メタネーション」です。これは、製造プロセスで排出されるCO2を水素と結びつけてメタンへと合成することで次世代エネルギー源として利用する技術です。そこで排出されるCO2を再びメタンへと合成することで、循環的にCO2を利用できます。当県には、水素のハンドリング技術を有する企業、そして合成技術に挑戦している化学メーカーの集積がありますから、このメタネーションを実用化できれば、当県は次世代エネルギーの世界をリードする存在にもなれると考えています。
デジタル技術の活用で、次代を担う人材を育てる
―ピンチはチャンスでもあると。
そのとおりです。このほか、CO2を新たな素材の原料として活用する研究も進めています。CO2排出量の大きさが課題であった当県ですが、これまで培ってきた技術によって、むしろ優位性をもってカーボンニュートラル時代を戦っていけると考えています。
―ほかにも、「4つの視点」が投影された取り組みはありますか。
「デジタル」の視点から進める「生活維新」の例として、教育や地域のデジタル化には力を入れています。私は全国知事会でデジタル社会推進本部長として、これまで地方における高速通信網の整備促進を国に働きかけてきました。その効果もあり昨年、法改正によって有線ブロードバンドがユニバーサルサービスの1つと位置づけられ、整備が進むことになりました。この大きな成果を活かし、山口県としてもDXを強力に推進していきます。その1つの舞台が教育分野です。当県では、コロナ禍を機にすべての公立学校において遠隔授業ができるデジタル環境を整備しました。学校同士を結びつけて、生徒の母集団を大きくすることで、ハイレベルな授業や資格取得に向けたオンライン授業といった特徴のある教育も実施できるようになっています。山口県には、明治維新を支えた人材を輩出してきた歴史があり、若い人材を地域で育てる伝統があります。そのうえで、次代を担う人材を育てていくためには、このデジタル技術の活用こそが大きなカギだと思っています。
再び「維新スピリッツ」を、奮い立たせる
―これらの施策の先に描く県政ビジョンを聞かせてください。
いま、明治以来続いてきた地方から都会への人の流れに、初めて大きな変化が生じていると感じています。実際、当県でも足元で30代男性の転入超過を記録しています。その背景には、人々の意識の変化に加え、デジタル化をはじめとする環境整備が進んだことがあると考えています。この大きな環境変化を前にすると、アウトドアフィールドとなる豊かな自然や、伝統・文化、優位性のある産業・教育などのポテンシャルがある当県には、むしろ明るい材料がたくさん揃っていると感じています。この本来の強みを活かすべく、いまこそ再び「維新スピリッツ」を奮い立たせ、「3つの維新」を通じてコロナ前よりも良い山口県にしていく「発展的再生」を成し遂げます。
村岡 嗣政 (むらおか つぐまさ) プロフィール
昭和47年、山口県生まれ。東京大学経済学部を卒業後、平成8年4月に自治省(現:総務省)に入省。広島市財政局財政課長、高知県総務部財政課長、総務省消防庁国民保護・防災部参事官補佐、総務省自治財政局財政課財政企画官などを歴任し、平成26年1月に総務省を退官。平成26年2月に山口県知事就任。現在、3期目を務める。