―日野市における発達障害児支援の取り組みを教えてください。
当市は首都圏有数のベッドタウンであることから、子育て支援やその一環としての特別支援教育を重点的に進めてきた歴史があります。そのなかで、発達障害児への支援は、現状の制度や施策では不十分との問題意識が現場から伝わっていました。そこで、福祉的な支援を早期にできる中核的施設を検討していました。一方で、教育委員会でも発達障害児への関心が高まっていたことを受けて、福祉と教育という部局の枠を越えた一貫性のある支援体制を構築しようと決断。そこで平成26年に設立したのが、「エール(日野市発達・教育支援センター)」でした。
―福祉と教育の一体化は、どのように実現されているのですか。
幼稚園、保育園を管轄する福祉部局に対し、小・中学校の管轄は教育部局。まずは、この両部局の「縦割り」を排し、子どもの支援情報を統一書式にまとめた「かしのきシート」を作成しました。さらに、この情報を従来のように保護者ではなく、エールが責任をもって預かる体制にしています。
それでも、就学や進学にあたって、支援情報が子どもの各所属先の間でうまく引き継がれない状況がありました。そこで平成28年度からは情報を電子化し、ネットワークを通じて関係機関の間で共有する仕組みとして、「発達・教育支援システム」を導入しました。
システムの導入で、発達障害児の支援情報は単に保管するのではなく、利活用して支援を充実させる体制が整いました。この支援体制のもとで、多くの子どもたちが共生し、活躍できる社会をつくりあげていきたいと考えています。
―「発達・教育支援システム」の特長を教えてください。
志村:平成28年度の小・中学校、公立の幼稚園、保育園を皮切りに、29年度からは私立の施設にも枠を広げ、市内の約80拠点で導入を進めています。かしのきシートの利用者はすでに1000人ほど。システム化されているからこそ、情報を迅速かつ確実に引き継ぐことができたと実感しています。
森谷:システム最大の特長は、小・中学校全25校で導入されている校務支援システム内の個別指導計画とデータ連携している点です。支援情報の重複を避け、かつ現場の先生方が日頃作成する指導目標や支援記録をそのまま活用することで、統合型の情報管理システムとしました。先日、先進的な事例として国の視察があり、機能の紹介をしています。
―導入効果はいかがですか。
森谷:たとえば直接の交流機会が少ない保育園と小学校など所属先間で支援情報が引き継がれたことで、子どものライフステージを通じた一貫性のある支援を共有できるようになりました。子どもと接する先生たちには、現場で困り感をもったときに、このシステムから得られる情報が助けになってくれることを期待しています。
志村:当初は、支援情報をネットワークでつなぐ方針に対する保護者の反応を心配しました。しかし、実際はほとんど反対がありませんでした。保護者もこうした一貫性のある支援体制を求めていた証だと思っています。
このシステムが活用されることで、子どもたちへの的確できめ細かな支援ができるようになり、ひとりでも多くの子どもが能力を開花させることができれば、社会的にも大きな意義のあることですね。