ほかの自治体に先駆け新たな制度を意欲的に導入
―神戸市では、自治体職員における「働き方改革」を積極的に推し進めています。制度面における取り組みの詳細を教えてください。
まず、平成27年に「在宅勤務制度」を導入。職員の、「仕事と家庭生活との両立を図る」「家族・友人との時間や自己研さんの時間を増やす」「通勤負担を軽減する」ことなどが目的です。
そして、平成29年に「フレックスタイム制」「地域貢献応援制度」「高齢者部分休業制度」を新たに導入しました。「フレックスタイム制」は、職員が「仕事と家庭生活との両立を図る」という観点から、育児や介護を行う職員を対象として、柔軟な勤務形態の選択を可能にしています。政令指定都市として初の本格導入です。
―「地域貢献応援制度」と「高齢者部分休業制度」は、どういう取り組みですか。
まず「地域貢献応援制度」ですが、職員が勤務時間外で、社会性・公益性の高い地域貢献活動をする場合において、市が正当だと認めた場合は報酬をえて従事することを許可するものです。公務員は、つねに地域と結びついた存在でなくてはなりません。地域でいろんな活動にトライしてもらい、自治体職員としての知識や経験をより豊かなものにすることがねらいです。「公務員の副業を認める制度」として世間から注目されましたが、先述したとおり民間企業の副業推進とは少し趣旨が違います。
そして「高齢者部分休業制度」。これは、55歳から段階的に勤務時間を減らして、たとえば1日の勤務時間を減らす。あるいは週の勤務日を減らす。それで、徐々に第二の人生になだらかに移行していく― という制度です。そして「地域貢献応援制度」を活用して、大学で非常勤講師をしたり、NPOなどを立ち上げたりして、場合によっては報酬を受け取ることも考えられます。
庁内に閉じこもるのではなく積極的にまちへ出よ
―なぜ、こうした制度を積極的に導入しているのでしょう。
神戸市における、「生産性向上革命」のためにほかなりません。 「労働生産性」に焦点をあてた場合、民間企業を含め、日本は国際的に低いといわれています。こと自治体においては、概念としてもまだまだ定着していません。しかし、これだけ人口減少が叫ばれている時代のなかで、生産性を上げられない自治体は生き残れないだろうと思います。
生産性向上というと、「いかに人を減らして効率化を図るか」という視点ばかりに目が行きがち。しかし、生産性向上でもっと大事なことは、職員一人ひとりが大きな仕事の喜びを感じられるようにすることです。目をキラキラと輝かせて課題を発見し、それを解決しようとする意欲をもち、チームとして解決のためにチカラを発揮していくことが大切です。
そのためには、職員は庁内に閉じこもるのではなく、まちに出てさまざまな現実に触れる必要があります。地域を知り、さまざまな人と出会い、「職員」としてではなく、「市民」として地域のために汗を流す。このことは、きっと本当の意味での生産性向上につながると確信します。
コミュニケーションツールで自由に意見ができる環境を
―職員による制度活用は進んでいるのですか。
正直、進んでいるとはいえません。「地域貢献応援制度」が活用されたのは、平成29年度が2件で平成30年度はいまのところ1件。「高齢者部分休業制度」はそれぞれ3件と4件。「在宅勤務制度」は比較的早く始めたので、平成29年度は135件。平成30年度は、いまのところ80件の活用事例があります。「フレックスタイム制」は平成29年11月に導入以降、82件です。神戸市は、市長部局だけで約8000人が働いていることを考えると、まだまだ微々たるものです。
―なにか対策案があれば教えてください。
職員に制度を浸透させるための、コミュニケーションツールの導入を検討しています。まだ試行段階ですが、職員が自由にチャットができるようなグループウェアなどを検討しています。
大きな組織になるほど、コミュニケーションを図るのは難しいもの。また自治体では、多くの幹部職員が、マネジメントを正確に行うためには「市長→副市長→局長→部長→課長→係長→担当者」というルートで指示を出し、その逆ルートで意見を伝えていくという指揮命令系統でないと、統制がとれないと考えがちです。
しかし、メールやSNSなどが普及し、コミュニケーションの方法が激変した現代において、完全にそういった時代は終わったと思います。役職に関係なく自由に議論を交わし、コミュニケーションを図ることが大事。コミュニケーションを通じて理解を広げることができれば、制度が浸透していくと考えています。
積極的に社会とかかわり交流を図ることが重要
―今後、どのように「働き方改革」を進めていくのでしょう。
職員が上からいわれた仕事をひたすらこなすのではなく、積極的に社会とかかわり、庁舎以外の人と交流を図っていく。そこで新たな知見をえて、課題発見、解決型の仕事ができるような組織にしていきたいですね。職場でも、私生活においても喜びを感じることができるようにすることが「働き方改革」の眼目です。このことは決して間違っていないと、私は固く信じています。