業務の変化に対応する、機動力がRPAの利点
―仙台市がRPAの実証実験を行った理由を聞かせてください。
利:多くの自治体と同様、業務の多様化・複雑化が進むなかで、仙台市でも遠からず人口の減少に直面していくことになります。そうした状況に備え、職員の生産性向上や業務の効率化は必須です。そこで仙台市では、ICT利活用方針を見直したうえ、組織名の変更や新設ポストの設置など従来の組織体制を一部改編し、ICT化を庁内のみならず、全市をあげて推進していく方針を打ち出しています。その一環としてRPAやAIの導入を促進しているのです。
大関:そうした背景から、RPAの実証実験は、本来であれば翌年度の予算要求をして正式に事業化するところですが、ICT化を推進する情報政策部としては、一刻も早くスタートさせたかったのです。そこで、BPR(※)に対して高い問題意識を共有する組織に直接声をかけるかたちで、6つの担当課に参画してもらいました。 なお、この実証実験において使用したRPAは、予算化前という事情に理解を示し、実証実験への協力に名乗りを上げてくれた民間企業のRPAツールとしました。
※BPR:Business Process Re-engineeringの略。ビジネスのプロセスを見直し、抜本的に設計しなおすこと
―実証実験の結果は、いかがでしたか。
大関:定型的なルールが定まった業務では、予想通り非常に高い効果がありました。なかには、時間削減率が90%以上という業務も複数ありました。一方で、RPA適用前後で手作業が残る業務や、フォーマットが一定程度以上に標準化されていない業務では、大きな削減効果は見込めないこともわかりました。
実際、RPAに適合させるために業務の標準化を進めたり、業務自体を見直したりなどの工夫で、削減率が大きく向上した事例もあったようです。高い削減率はもとより、結果的に業務見直しにつながったこともRPAの導入効果と呼べるかもしれません。
利:また、実証実験でわかったことは、業務内容に変化があった際、その都度機動的に対応できることがRPAの利点だということです。逆に、業務に大きな変化がない大量定型作業ならば、思い切ってシステム化してしまえばいい。この機動性という利点を活かすためには、ある程度現場の職員がRPAの簡易なシナリオ変更を行えなければ意味がない。その意味では、ベンダーには使いやすさを追求してもらいながら、現場のスキルも向上させなければいけないと感じました。
公務員としての仕事を、深く考えるきっかけに
―RPAの活用に向けた今後のロードマップを教えてください。
大関:実証実験で高い時間削減効果をえた一部の業務では、すでに本格導入を迎えましたが、今後の展開としては、適用業務、導入・利用の各種基準および推進体制などを検討し、RPAの導入を全庁的に進めていく計画です。
利:もっとも、RPAは導入それ自体が目的ではなく、あくまでもBPRの一手段に過ぎません。導入にあたっては、単に従来の業務にそのまま当てはめて作業時間を短縮させるだけではもったいない。RPAの効果を最大限に発揮するためには、業務そのものの手順や内容を聖域なく見直すことも必要でしょう。RPAの導入が、そうした業務見直しのきっかけになる、ひいては、「われわれが公務員として、これからはどのような仕事をしていくべきか」を深く考えることにつながるならば、ありがたいですね。
導入の負担は意外にも小さく、えられた効果はとても大きかった
仙台市がRPAツールを使用して行った今回の実証実験には、6つの担当課が参画し、計8つの業務が対象に選定されている。対象業務がRPAによって処理される効果に、業務の現場はどのような可能性をみたのか。ここでは、実証実験に参画した財政課と情報システム課、それぞれの担当者にRPA導入で実感した効果や期待などを聞いた。
新たな負担が増えるも、業務の質向上を求めて参画
―それぞれの担当課が実証実験に参画した理由を教えてください。
宮崎:財政課は、庁内でも特に忙しい部署のひとつです。実証実験への参画には、通常業務にくわえてさまざまな準備が必要となるため、負担になるとも考えました。しかし、業務効率化の必要性を強く感じていましたし、予算などお金を扱う部署としてミスが許されないため、RPAの導入は業務の質向上につながると考え参画を決めました。実際には、事前ヒアリングからシナリオの作成、稼働・検証までサポートをいただいたことから、実証実験での負担はさほど大きなものではなく、えられた効果の方が大きかったと感じています。
小野:情報システム課は、庁内ネットワークを管理する立場として、RPA導入にあたって環境構築を担うことになります。そのため、RPAへの知見を深め、その応用可能性を探るために実証実験に参加しました。
RPAの活用で重要なのは、いかに手離れをよくするか
―実証実験では、どのような効果がえられましたか。
宮崎:財政課の対象業務では、時間削減率で72%を達成したとおり、定型作業であれば期待どおりの効果をえられました。そのほか、RPAのシナリオを組む過程で業務の可視化ができたことも成果といえます。今回使用したRPAツールは、私でも簡単なシナリオを作成することができました。一つひとつの作業をすべて洗い出し、作業の手順をなぞるようにシナリオを組むのですが、その過程で担当者しか把握していなかった作業や、不要な作業があることが明らかになったのです。RPAの適用前の段階で、業務の可視化と効率化が進んだことも収穫のひとつです。
小野:情報システム課でも、高い時間削減率を達成したほか、親和性の高そうな新しい業務にRPAを適用する実験にもトライしました。そのなかで、RPAと親和性が高い業務の見極めや、RPAを効果的に使うための条件などについて、多くの知見がえられました。RPAの活用で重要なのは、時間短縮率だけではなく、いかに人の手離れをよくするかです。2時間の作業を1時間に短縮するのは単に1時間の削減効果ではありません。もし、費やす1時間のあいだも人の手が完全に離れるシナリオを組めれば、丸々2時間の余裕が新たに生まれるわけですから。
―本格導入を控え、今後RPAをどのように活用していきますか。
宮崎:今回の対象業務以外にも、適用できそうな業務を洗い出し、RPAを適用するための業務の可視化を推進していきたいです。
小野:これまでの知見を情報システム課全体で共有し、全庁展開に向けて「RPAにはなにができるか」を探求していきます。