自治体通信ONLINE
  1. HOME
  2. 先進事例
  3. 「無償化」時代に求められる“保育の質”に、徹底的に向き合う
先進事例2020.12.02

「無償化」時代に求められる“保育の質”に、徹底的に向き合う

「無償化」時代に求められる“保育の質”に、徹底的に向き合う

市立保育園の取り組み

ICTによる保育現場の改善

「無償化」時代に求められる“保育の質”に、徹底的に向き合う

美濃加茂市立古井第一保育園 園長 山内 みゆき

※下記は自治体通信 Vol.21(2019年12月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。


保育士が不足しているなか、幼児教育・保育の無償化がスタート。問われるのは、業務効率化を図りつつ、保育の質を高めるための方策だ。そうしたなか、美濃加茂市(岐阜県)では、市立古井(こび)第一保育園(以下、古井第一)を含めた、市内の9つの保育施設で、アプリを使った「業務効率」と「保育の質」の両方を向上させる取り組みが行われている。古井第一・園長の山内先生に、詳細を聞いた。

美濃加茂市データ
人口:5万7,210人(令和元年10月1日現在) / 世帯数:2万2,899世帯(令和元年10月1日現在) / 予算規模:362億9,841万9,000円(令和元年度当初予算) / 面積:74.81km² / 概要:岐阜県美濃地方のほぼ中央部に位置し、昭和29年4月1日に太田町、古井町、山之上村、蜂屋村、加茂野村、伊深村、三和村の一部、下米田村、和知村の一部の合併によって誕生。古くは、市内南部に中山道の宿場町として栄えた太田宿があり、賑わいをみせていた。市特産の「堂上蜂屋柿」は、全国に知れわたった干し柿で、約1,000年の歴史があり、堂上蜂屋柿振興会の手で伝統と技術が受け継がれている。
美濃加茂市立古井第一保育園
園長
山内 みゆきやまうち みゆき

園児の大切な成長記録が「コピペ」ではいけない

―以前から古井第一ではどのような課題を抱えていたのでしょう。

 約10年前から、保育士不足という問題を抱えていました。あわせて、国が「働き方改革」を打ち出し、時間外労働を減らしていく方針に。ただでさえ人手がたりない現場ではどうなっていたかというと、保育士が仕事をもち帰っていたんですね。そのため、以前からPCを導入し、事務作業の効率化を進めてきました。

 ただ、それにより新たな問題が起こったのです。

―どのような問題ですか。

 若い保育士の成長に、不安を感じるようになった点です。PCを導入すれば、確かに書き物の作業は効率化されます。しかし、前任の保育士が記入したデータをコピー&ペーストすることが散見されるように。大切なのは業務の効率化によって、そのぶん一人ひとりの園児や保育士同士のコミュニケーションを増やし、保育の質を高めていくこと。園児の成長を見守る大切な記録が、コピー&ペーストでいいわけがありません。

 そんなときに、保育用アプリの導入提案を受けたのです。

―どのようなサービスなのでしょう。

 ある民間企業が提供しているアプリで、日々園児と接するなかで気づいた点を保育士がタブレット端末に記録。そのデータを保育士同士で話し合って共有することで、保育士のスキルアップを図るというものです。

 「普段の作業に入力業務が増えるだけでは」といった懸念が現場ではありました。しかし、「まずはやってみなければわからない」ということで、平成28年10月から導入したのです。

園児だけでなく保育士も、笑顔になれる環境づくりを

―導入後はいかがですか。

 最初は入力に苦労することもありましたが、入力したデータをそのまま児童票として出力できるようになったため、徐々に書き物の手間が省けるように。途中から登降園管理や出席簿の作成もできるようになり、かなり業務効率化につながりました。保育士間の話し合いも、園児別、年齢別などさまざまな切り口から行うことで、深いコミュニケーションにつながっています。

 また、たとえばAちゃんの年長時だけでなく年中、年少時のデータも見られるので、当時のようすや担任の手だてを確認できる。「この年はこういうことをしたから、今年はこうしてみよう」など、長いスパンで手だてが打てるのです。これまで紙の記録は読み返すことはほとんどありませんでしたが、簡単に過去から現在のデータを参照できます。さらに、全員が共通認識をもてるようになり、園のチーム力向上に有効ですね。

―保育用アプリの活用を含めた今後の運営方針を教えてください。

 本来なら新人にベテランがついて教育し、主任級の保育士がフリーで若い保育士の話を聞くのですが、保育士がたりません。以前はひとりでがんばってもらうしかありませんでしたが、アプリを通じたコミュニケーションで、新人がなにを思っているのかが把握でき、タイムリーにアドバイスができるように。今後も保育用アプリを活用し、若手保育士の安心感につながり、結果的に保育士も園児も笑顔になれる保育の環境をつくっていきたいと考えています。

美濃加茂市
健康福祉部こども課 子育て支援係 課長補佐
酒向 真奈美さこう まなみ

保育士がやりがいを実感することで、離職率の減少につながっています

 アプリの活用によって保育士同士の深いコミュニケーションが生まれると、「今度はこうした保育をしてみよう」という保育士の新しい工夫につながります。それによって園児に成長が見られると、保育がもっと楽しくなり、やりがいも大きくなるはず。事実、保育用アプリを導入後は、保育士の離職率は減少しています。そうした環境づくりを行うことで、「美濃加茂市の保育現場で働きたい」という人材を増やしていきたい。今年で導入4年目ですが、市としては引き続き活用していきたいと考えています。

 現在は保育園だけで実施していますが、ゆくゆくは0歳児からの健康診断や発達支援の専門部署とも連携しながらデータを共有。子どもたちの成長を記録していきながら、市全体で見守り、たとえば将来の引きこもり対策などにデータを役立てたいと考えています。

電子印鑑ならGMOサイン 導入自治体数No.1 電子契約で自治体DXを支援します
自治体通信 事例ライブラリー
公務員のキャリアデザイン 自治体と民間企業の双方を知るイシンが、幅広い視点でキャリア相談にのります!